年収の壁・支援強化パッケージ(130万円の壁対応について)
令和5年9月27日に厚生労働省より「年収の壁・支援強化パッケージ」が発表されました。
パートさんを雇用している会社としては、「130万円の壁」の対応が気になるところです。今回は、130万円の壁の対応について説明します。
会社員・公務員の配偶者で扶養され保険料負担がない「第3号被保険者」のうち約4割がパートタイマー等として就労しています。
その中には一定以上の収入となった場合に社会保険料負担等による手取り収入が減少することを避けるため、就業調整をしている方が一定程度存在しています。
そのようなパートタイマー等で働く方が、「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを支援する取り組みが始まりました。
※厚生労働省リーフレット
「130万円の壁」とは、健康保険の被扶養者となるための年収基準です。
年収が130万円以上となってしまうと、健康保険の扶養から外れなければならず、その際には国民年金・国民健康保険に加入することになり保険料の負担が発生します。
そのため保険料負担を避けるために、年収130万円以上とならないよう働く時間を調整してしまうことへの対応策です。
パートタイマー等で働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き被扶養者でいられることが可能となる仕組みが作られました。
ただし、あくまでも基本は年収130万円未満であること、そもそもの被扶養者の要件に該当していることが前提です。
会社としてどのようなことを実施すればよいのかを整理しました。
厚生労働省からの「事業主の証明による被扶養者認定Q&A」から実務上気になる部分を抜粋してお伝えします。
◆「繁忙期」とは?
人手不足が生じた状況、例えば、他の従業員が退職、休職した場合や、受注増、客数増により会社としての業務量が増加した場合をいいます。
◆「収入が一時的に上がった」とは、給与のどの部分をいうのか?
人員不足や繁忙による残業(所定外労働・時間外労働)を行ったことによる「残業代」とお考え下さい。
ただし、以下の場合はこの措置の対象外ですので要注意です。
・基本給が上がった
・新たな恒常的な手当が新設された
・雇用契約による所定労働時間を増やした
~ご参考:事業主の証明による被扶養者認定Q&A(抜粋)~
Q1- 8
今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明によって、健康保険組合等の保険者による円滑な被扶養者認定を可能にするとのことですが、どのような事情であれば「一時的な収入変動」として認められるのでしょうか。
A1- 8
一時的な収入増加の要因としては、主に時間外勤務(残業)手当や臨時的に支払われる繁忙手当等が想定され、
一時的な収入変動に該当する主なケースとしては、
・当該事業所の他の従業員が退職したことにより、当該労働者の業務量が増加したケース
・当該事業所の他の従業員が休職したことにより、当該労働者の業務量が増加したケース
・当該事業所における業務の受注が好調だったことにより、当該事業所全体の業務量が増加したケース
・突発的な大口案件により、当該事業所全体の業務量が増加したケース
などが想定されます。
一方で、基本給が上がった場合や、恒常的な手当が新設された場合など、今後も引き続き収入が増えることが確実な場合においては、一時的な収入増加とは 認められません。
◆「事業主の証明」とは、具体的にどのような内容を証明するのか?
以下が厚生労働省の雛形です。
被扶養者を雇用する事業主が証明するのは、以下の項目です。
・所在地等の会社情報
・本来想定される年間収入
→本来は年収100万円の予定でした・・・という内容
・人手不足による労働時間延長等が行われた期間
・上記期間における当事業所での労働による収入額
~ご参考:事業主の証明による被扶養者認定Q&A(抜粋)~
Q3- 1
事業主の証明はいつ、どこに提出するのですか。
A3- 1
被扶養者の方について、新たに被扶養者の認定を受ける際、又は健康保険組合等の保険者が被扶養者の資格確認を行う際に、年間収入が確認されることになります。
この際に、被扶養者を雇う事業主から一時的な収入変動である旨の事業主の証明を取得し、被保険者の方が勤務している会社を通じて各保険者に対して、通常提出が求められる書類と併せて、事業主の証明を提出することになります。
このため、各保険者の被扶養者の収入確認のタイミングに合わせて、被扶養者の勤務先の事業者から一時的な収入変動である旨の証明を取得してください。
◆対象となる被扶養者とは?
配偶者のみではありません。
配偶者以外の他の被扶養者も同様の取扱いとなります。
学生も同様です。
60歳以上の被扶養者等については(130万円ではなく)180万円が基準となります。
ただし、フリーランスや自営業者については、事業所に雇用されていないためこの措置の対象外です。
~ご参考:事業主の証明による被扶養者認定Q&A(抜粋)~
Q2- 1
今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、どのような方が対象となるのでしょうか。 配偶者( 国民年金の第3号被保険者 に限られますか。
A2- 1
今回の措置の対象は、配偶者(国民年金第3号被保険者)だけではありません。社会保険の被扶養者の方、新たに被扶養者としての認定を受けようとしている方が対象となります。
なお、雇用契約書等を踏まえ、年間収入の見込みが恒常的に130万円以上となることが明らかであるような方は、今回の措置の対象外となります。
Q2-2
被扶養者が学生の場合、今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)における取扱いはどうなるのでしょうか。
A2-2
学生であっても同様の取扱いとなります。
Q2- 3
フリーランスや自営業者など特定の事業主と雇用関係にない場合、今回の措置 (事業主の証明による被扶養者認定の円滑化) の対象となるのでしょうか。
A2- 3
今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、あくまでも事業主の人手不足等の事情に伴う被扶養者の方の労働時間延長等による一時的な収入変動を対象としており、他律的な収入変動による場合が対象となります。そのため、特定の事業主と雇用関係にない場合については対象となりません。
なお、フリーランスや自営業者としての収入と、勤務先からの給与収入の両方がある者について、給与収入が一時的な収入変動で増加したことにより被扶養者の認定基準額を超えた場合は、対象になります。
Q2- 5
被扶養者の収入要件の確認について、被扶養者が 60 歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては年間収入の要件が 180 万円未満とされていますが、今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、その判定の際にも適用されるのでしょうか。
A2- 5
今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、被扶養者が60 歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合の、年間収入が 180 万円未満であるか否かの判定についても適用されます。
◆所得税上の扶養の取扱いは?
今回の措置は、健康保険の被扶養者の取扱いに限ります。
所得税上の取扱いはこれまでと変わりはありません。
~ご参考:事業主の証明による被扶養者認定Q&A(抜粋)~
Q4-3
税の扶養控除の適用要件や会社の扶養手当(配偶者手当、家族手当等)の受給要件の認定に当たっても、今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は適用されるのでしょうか。
A4-3
この特例は健康保険等の被扶養者認定及び国民年金第3号被保険者の認定のみに係る取扱いとなり、税等の他制度に関しては通常の取扱いとなります。
なお、配偶者手当を含む会社の扶養手当については、会社において、労使間の話し合いを経て自主的に設定されているものです。このため、会社の扶養手当の収入要件については、個別の会社の判断になりますが、健康保険の被扶養者認定に連動する形で設定している場合、この特例と同様の取扱いとなるものと考えられます。
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この内容は2023年11月6日時点のものです。
今後の状況により内容等が変わる可能性がありますのでご了承ください。
社会保険労務士法人ケーズ・インテリジェンス