ある女の話をしよう。
とても敏感で繊細な女の話を。
彼女はある日、頭痛と共に妙な耳鳴りを感じたそうだ。どこか遠く、まるで別次元から話しかけられているかのような不思議な耳鳴り。それでも、その時彼女は、仕事が立て込んでいた事もあり、疲れでも出たのだろうと気にもしなかったと言う。
そして、次の日地震が起きた。それも、普段のような小さな揺れではなく、まるでバケツの水を揺らしたかのような大きな揺れ。トラックは踊るように揺れ動いていた。
そんな彼女の生まれ育った街は、お世辞にも綺麗とは言えない市営団地で、辺りは多くの自然で溢れていた。近くにスーパーなどはなく、買い物をする時は10キロ以上離れた隣町まで行かなければならなかった。
そんな団地だがいいところも沢山あった。周りの自然には事欠かないこと。近隣の住民同士が濃い付き合いをしていること。同世代の子供たちが多く住んでいること。だが人間付き合いが濃いとは言え、用心しなければならないことがあるという事を、彼女は子供ながらに学んだと言う。
彼女の遊び相手は専ら男の子か自然か動物だった。男の子と言っても戦隊遊びをするのではなく、山や川へ傷をつくりに…遊びに行くのだ。だから自然と、風向きや雲の様子、大地の発する匂いには敏感になっているようだ。濃い関係であっても注意が必要なのだ。
ある日、あまり評判の良くない少年と、彼女の弟が遊ぶ事になった時の話だ。夏休みの宿題をしていた彼女は母親に呼ばれた。
「何かあったら、危ないから一緒について行って。」この時の彼女はそのままの意味にとったが、今となれば別の意味があったのらかもと神妙な面持ちで話す。
いつもなら断っていたはずたが、その時は何故か着いて行った方がいいと感じたらしい。ついて行った先は今まで足を踏み入れた事のない場所。彼女は危険よりも先に気分の高揚を感じたと言う。だが、着いて行くに連れ足場は悪くなりどんどん危ない方へと進んでいく。彼女は何となく嫌な気がして、足が汚れて気持ち悪いとその場にしゃがみ込んだ。それを気にした弟が彼女の元へ戻る。彼も嫌な気がしたのだろうか、帰ろうと言う話になった。2対1なら無理にその先へは行かないだろう。そしてそれが功を奏したのかその日はそのまま帰る事になった。少年は最後に「これだから女は…」といっていたが、彼女の中では他の意味があるように思えたと言う。
その日以来。少年は比較的安全な自然で遊ぶ様になった。もしかしたら、今までの考えは気のせいだったのかもしれないが。
比較的安全な自然で遊ぶのはお決まりコースなので他の男子とも山や川で遊んでいたと彼女は話す。
秘密基地を作ったり、釣りに行ったり…
川に流されそうになった記憶もある様だが、流されたのが自分なのか、助けようとしてくれた友達だったのかはあまりにショックが大きかったので、ハッキリ思い出せないようだ。
他にも自然にまつわる話は山ほどあるようだが今はこのくらいにしておこう。
そして、以前の話を忘れた頃、再び彼女は頭痛とあの耳鳴りを感じたと言う。
私はまさかな、と思いながら、次の日はできるだけ外に出ないようにしていた。
すると、一瞬自身を疑った。揺れているではないか。それも少しではなく水槽の水が溢れそうなくらいに。彼女にはもしかしたらナマズのような才能があるのかもしれない。だが彼女は「偶然よ。」とただ微笑むだけだった。
そして数日後、彼女は天気を当てた。
それも関東圏内の。「古傷が痛むより先に、誰かが私の中に避難して来たの」と。
彼女の話を信じるとしたら彼女は一体何者なのだろうか。誰が彼女に天気や危険を教えているのだろう。
彼女はよく肝試しに行くし、よく木に抱きつくと言う。そうしないと体が鈍るからと。




