ある1人の男がいた。
その男を日中見かけた者はいない。かといって早朝に見かけるかと言えば、早朝にも見かけた者はいなかった。
男は決まって夜、それも月の出ている晩に限って外にでるのだ。
風貌は若いバーテンといった感じで、パナマ帽だろうか、帽子を斜めに被り、顔を隠している。だが、顔が見えなくとも、すれ違うだけで色男だとわかる。煌びやかなスーツ姿とは反し哀愁が漂うのだが、それがかえって魅力的なオーラとなっていた。実際、すれ違った女は誰もが振り返り、うっとりとした表情でため息をついたのだった。
男は今日も月が出たのを確認し、家の扉を開ける。すると扉は今まで 眠っていたかのように重々しく唸りながら開く。
カラスがひと声鳴くのを聞き、男は歩き出した。コツコツと足音が響く。
彼が月夜の晩に何をしているのか知るものはいない。その魅力に魅せられた女が幾度となく後を追ったが、決まってみうしなってしまうのだ。
ただ、その街では月夜の晩になると、決まって女が1人、行方不明になると言う。
今日も男は出かけていった。