長らく、街場の洋食屋みたいなところで働いた。
ランチにはこだわりのスコッチエッグ定食を出したり、
食後のカフェも
うちは、贅沢な豆で
バリスタが客の好みを訊いて淹れていた。
今の職場は
言わば 吉兆みたいな有名どころだ。
客の声なんか聞く必要もないくらい
格と知名度が ある‥
はずだった。
女将や私たち料理人や
仲居連中は、互いに顔色をうかがってはいるが
肝心のお客のことなんか
全く意に介せずだ。
大事なのは自分たちのことばかり。
前の店とは、観点がまるで違うのだ。
押しも押されぬ高級料亭は、
働く者にとっても
居心地の悪い 嫌な空気が澱んでいた。
仲居の態度は
どこか客を見下していたし
厨房の連中も 客を見くびっていた。
いつしか客は離れていき
身内の諍いが 目に見えて多くなった。
それぞれの持ち場の長も
三年おきに入れ替わり立ち替わり
長が変わると すべてのやり方が 変わった。
大事な何かが 砂時計の砂のように
絶え間なく零れ落ちて
言い知れぬ不安感だけが
塵のように積もっていく。
噛み合わないギアを軋ませながら
それでも走る巨大な戦車みたいだが
どこへ向かおうとしているのか
だれにもわからなかった。
もはや、だれの手にも負えない怪物のように
戦車は終末へと走っていく。
ナイフを入れると ふわっと香る
熱々のスコッチエッグに目を細めた
嬉しそうな常連の顔が
とても懐かしく思えた。
私は今、巨大な旧式戦車のなかで
油の匂いと熱気に
泣きそうになりながら
毎日 美味くもない食べ物を
作っているんです。
ランチにはこだわりのスコッチエッグ定食を出したり、
食後のカフェも
うちは、贅沢な豆で
バリスタが客の好みを訊いて淹れていた。
今の職場は
言わば 吉兆みたいな有名どころだ。
客の声なんか聞く必要もないくらい
格と知名度が ある‥
はずだった。
女将や私たち料理人や
仲居連中は、互いに顔色をうかがってはいるが
肝心のお客のことなんか
全く意に介せずだ。
大事なのは自分たちのことばかり。
前の店とは、観点がまるで違うのだ。
押しも押されぬ高級料亭は、
働く者にとっても
居心地の悪い 嫌な空気が澱んでいた。
仲居の態度は
どこか客を見下していたし
厨房の連中も 客を見くびっていた。
いつしか客は離れていき
身内の諍いが 目に見えて多くなった。
それぞれの持ち場の長も
三年おきに入れ替わり立ち替わり
長が変わると すべてのやり方が 変わった。
大事な何かが 砂時計の砂のように
絶え間なく零れ落ちて
言い知れぬ不安感だけが
塵のように積もっていく。
噛み合わないギアを軋ませながら
それでも走る巨大な戦車みたいだが
どこへ向かおうとしているのか
だれにもわからなかった。
もはや、だれの手にも負えない怪物のように
戦車は終末へと走っていく。
ナイフを入れると ふわっと香る
熱々のスコッチエッグに目を細めた
嬉しそうな常連の顔が
とても懐かしく思えた。
私は今、巨大な旧式戦車のなかで
油の匂いと熱気に
泣きそうになりながら
毎日 美味くもない食べ物を
作っているんです。