梅雨VS同居女子 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 上はきのうの午前中、ウォーキングの途中に撮ったもの。

 梅雨にも関わらずここ数日夏のような暑さで、この時は雲ひとつない快晴でもあった。

 

 が、当然の事ながら、それまでは毎日じとじとと湿度は高いし雨は降るし、梅雨だから当たり前とはいえおよそすぐれた気分とは言えなかったし、かといってこうして突然晴れると「夏みたいで暑い」と文句を言ったりするのだから、人間とは贅沢なものである。

 

 今月の初め、しばらく実家に用事があって帰郷していた同居女子がマンションに帰ってきた。梅雨入り直前のタイミングで、

「もうすぐ梅雨だねー。ただいまー」

 などと言いながら玄関のドアが開いたのを覚えている。

 その同居女子だが……。

 昔から(もう11年も同居しているので、「昔から」などというフレーズが出るようになってきた)、彼女は傘が嫌いで、持ち歩くのがどうも面倒らしく、私が、

「じゃあ、折り畳み傘をバッグに入れたら?」

 と聞くと、

「バッグが重くなってイヤだ」

 と返ってくる。一応可愛いデザインの折り畳みを持ってはいるのだが、使っているのをほとんど見た事がない。

 よって大抵の場合、出かける時に降るか降らないかギリギリの空模様、またはほんの少し降っていて、もしかしたらやむかもしれないという時は、まず間違いなく傘を持っていかない。持って行くのは既にかなりの雨が降っている時だけで、それも私に「あなたは濡れると風邪をひきやすいんだから持っていきなさい」と言われないとなかなか持とうとしない。ひどい時は、「いっそタクシーで行こうかな」とぶつぶつ言っているくらいで、つまり、そうまでしてでも傘を持ちたくない様子。

 かなり徹底した「傘嫌い」である。

 

 だが、雨はいつなんどき襲ってこないとも限らない。天気予報が外れ、出先で突如降られる事だってままある。

 誰しも経験があると思うのだが、そういう時は最寄りのコンビニでビニール傘を買って何とかしのぐのが最も手っ取り早い。そう考えると、最近は「雨宿り」という習慣が少し減ったのかもしれない。コンビニはよほどの山奥や秘境でない限り、たいていはどこにでもあるからだ。

 

 ここで再度同居女子の登場となるのだが……。

 傘嫌いの彼女にも、当然雨は皆と公平に降り注ぐ。

 すると、これも当然の如く、彼女は最寄りのコンビニでビニール傘を買う。

 彼女が出かけている時は出不精の私はほとんど家にいるから、窓の外の雨を眺めながら、

「ああ、今頃コンビニのレジでムッとしながら『今使います!』とかなんとか言ってビニール傘を買ってるんだろうな」

 と想像する。

 案の定、「途中で雨が降ってきた!」と怒りながら帰ってきた彼女に私は言う。

「そりゃあ梅雨だからね。いつ降ってもおかしくないよ」

「ふんっ」

 誰に怒っているのかわからないのだが、いつもそうやって鼻を鳴らしている。

 だが面白いのはここからで……。

 あまりに傘嫌いで徹底して傘を持ち歩かない彼女は、しばしばこのような目にあう。どうやら彼女の辞書には「転ばぬ先の杖」という言葉はないらしく、この11年の間に何度同じ事があったか、正確にカウントしたら気が遠くなるなるほどの数字が出てくるはず。

 よって、雨の度に購入されたビニール傘が我が家にどんどん増えていく。

 私たちが住んでいるマンションは、ご多分に漏れず「玄関の外、廊下、ロビー等は公共の場所なので物を置かない」というルールになっているのだが、例外的に傘だけはおめこぼしの状態にあり、どの世帯も傘は玄関ドアの前(つまり玄関内ではなく廊下側)にたてかけてある。

 我が家もそうなのだが、同居女子があまりにしばしばビニール傘を買って帰ってくるものだから、特にこの梅雨の時期には、玄関ドアの前にビニール傘がまるで雨後の竹の子のようにどんどん増えていく。ダジャレを言った訳ではなく、雨の後に増えるのだから、正に雨後の竹の子と同じなのだ。

「これさあ……」

「なあに?」

 私が言いかけると、彼女はわざとか天然のせいかそう聞き返す。

「傘……どんどん増えてるんだけど」

「だって、降るんだもん、雨」

「だから、出かける時に降りそうだったら持っていけばいいじゃないか」

「めんどくさい」

 上記は最早定番となった我が家の会話。

 ところが。

 彼女はビニール傘を出先に忘れてくるのもほとんど「達人」の域に達していて、たとえば友達と居酒屋に呑みに言って途中で雨が降るとビニール傘を買い、帰りに雨がやんでいたりすると、必ず店に買ったばかりの傘を忘れてきてしまう。

 誤解のないように言っておくと、増えすぎたビニール傘をそうやってわざと「処分」しているのではなく、帰りに編めがやんでいると、あくまで本当に置き忘れてくるのだ。

 したがって、一時期は雨後の竹の子のようににょきにょきと増え続けたビニール傘も、そうした日が何度か続くと次第に数が減っていく。「出先の雨」が続けば増えるし、私がタイミングを見計らって「雨が降りそうだから、必ず傘を持っていきな。いっぱいあるでしょ」と言って無理矢理持たせると、「出先の雨が途中でやんだ」状態が続いた時に自然に減る訳である(私が狙っているタイミングとは、この、多分、降り出すけど途中でやむであろうという時の事)。よって、彼女のビニール傘は、梅雨に限らず一年中、玄関前での増減を繰り返している事になる。

 ふたたび定番の会話、その二。

「どうせ忘れてくるんだから、最初から持っていけばいいのに。傘」

「だって、降ってないとそこまで考えないもん。先の事なんて」

 二人の性格の違いがよく現われている会話だと思うのだが、どうだろう。

 ただ、恥ずかしいのは、同じマンションの他の世帯の玄関前の傘は、必ずその家の家族の人数と合致している点。夫婦と子供二人なら大人用が二本と子供用が二本、カップルなら大人用が二本。

 にも関わらず、我が家だけが、時期によっては(特に梅雨)まるで「ビニール傘祭り」状態で、傘がてんこ盛りに立てかけられているという事態になる。私は自分の傘が決まっているし、降りそうなら必ずそれを持っていくから、残りの傘は全て同居女子の「コンビニからのお持ち帰り」という事になる。

 

 毎年必ず梅雨はやってくるのに、彼女のこの不思議な性癖は一向に変わる気配がなく、今年もまた「竹の子」が生え始めている。

 だが、梅雨が明けて夏の通り雨のシーズンになれば、私にやかましく「もうすぐ夕立だから傘持ってって」と言われて持って行くと、出先に忘れて(夕立はすぐにやむので)手ぶらで帰ってきて、秋口には数が減っている。

 

 ある時彼女が言った。

「ビニール傘を発明した人がいるから、こんな事になってるんだわ」

 何という飛躍した論理だろうと呆れつつ、本気でそう思っているところが彼女らしいと感心したりもする。

 

 梅雨はまだまだ続く。

 同居女子と雨の変な戦いもまた、まだまだ続くのである。

 

▲ 青のごついのが私の傘。安物だが案外しっかりした作りでずっと使っている。それ以外は、問題の「雨後の竹の子」。

 この本数ははまだ序の口(笑)。