忙しいとはいいながら…… | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 先月からシリーズ構成を担当している「デジモンゴーストゲーム」の放送が始まり、お陰様で評判もよくスタッフ一同喜んでいる。

 だが喜んでばかりもいられず脚本作業は今だ進行中で、脚本チームのチーフである私は、自分の担当回以外にも、いやむしろ他のライター陣に発注する回の内容を監督やプロデューサーとひねり出し文章化し、ZOOM会議で発注、上がってきた各回の脚本をチェックする作業の方が滅法忙しく、毎日目が回るようである。

 

 とは言いながら、忙しい仕事の合間に相変わらず飛行機模型は作り続けていて、9月の半ばに作り始めた旧日本海軍の一式陸攻11型が、おととい完成した。これはもう、極度にストレスのかかるシリーズ構成の仕事をしていると、そのストレスを解消するのにもってこいの趣味である事がいよいよはっきりし、模型をいじっている間は仕事の内容が全て頭から飛ぶのでスッキリし、いざPCの前に向かうと原稿は進むし、終われば熟睡もできる。願ったり叶ったりとは正にこの事と実感している。

 

 さて一式陸攻だが、写真の一番上の大きな模型がそれである。サイズは実物の1/48で全長約40㎝。これはタミヤ製で、ガダルカナルの最前線に兵士を激励するために視察に趣いた、当時海軍の長官だった山本五十六が乗った機体。模型にも「山本五十六長官搭乗機」とわざわざ明記してあり、写真ではわかりにくいが、コクピットには軍刀を携えた山本五十六の人形も乗っている。飛行機の向こう側にいるのは見送りの整備兵たち。

 作っている途中で何度も戦争を意識せざるを得ない不思議な模型だった。

 

 何故なら、この模型は、ガダルカナル島の近くで離陸から約一時間半後に米軍戦闘機の待ち伏せに遭い、乗っていた山本五十六もろとも撃墜され、山本は無論搭乗員全員が戦死した時の状態を再現したものだからだ。つまり、この模型の光景の一時間半後には、乗っている彼らはジャングルの藻屑と化してしまった訳で、そうした模型を作っていると、いやでも「戦争ってヤなもんだな」と自然と意識せざるを得ない事がよくわかった。

 したがって、これまた下手な写真でよくわからないのだが、見送りの整備兵たちの足元に、彼らの人形が倒れないようにプラ板で疑似地面だけは作って人形を固定してあるのだが(模型を作るようになってわかったのだが、こうしたフィギュアは、土台を作って固定しておかないと、近くを歩いただけですぐに倒れてしまい、再度立たせるのがかなりめんどくさいのである)、今回作った地面はなにせガダルカナルなので土色をベースにしたものの、全面にオレンジと真っ赤なグラデーションを施した。

 つまりは、「血の色」である。

 死が間近に迫っている事など知らず離陸していこうとしている山本五十六の飛行機、やはりそうとは知らずに「帽(帽子)振れ!」の号令とともに長官の出発を見送っている整備兵たち。これはもう、後の出来事を知っている後世の私たちにすれば何とも言いようのない悲しさの漂う模型とその情景であり、たかが趣味の模型とは言いながら、反戦の気持ちもこめてあえて地面を血の色にしてみた。同居女子が「なんで地面がこんなに赤いの?」と聞いたので、上記の趣旨を説明すると、「そっか……確かに、戦争だもんね」と何となく納得したように呟いたのが印象的でもあった。

 

 私の中では、「山本五十六のイメージ」と言えば、三船敏郎が映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」で演じた時の五十六像がもっともしっくりくるのだが(1968年東宝。丸山誠治監督、特撮監督円谷英二)、この模型を作る前に見返したら、山本の乗った一式陸攻が登場するのはほぼラストシーンのみで、つまり撃墜されるエピソードでだけ登場していた。

 それでも、敵弾を受け火を吹いた機体の中で、軍刀の柄を両手で握ったまま凝然と座り微動だにしない三船の存在感は、まるで切腹の時の武士の様相そっくりで、彼ならではの圧倒的な空気を醸しだしていた。

 さらに言えば映画では触れられてはいないものの、この一式陸攻は、海軍から開発・製造元の当時の三菱に対して、「本土を発進し長距離を飛び、海上の敵艦隊に対して魚雷攻撃をして帰って来られる飛行機を作れ」という、当時の技術力ではあまりに無茶なオーダーによって作られた物で、普通ならまず海上を空母に運んでもらって敵艦隊に近づき、そこから、つまり海上から発艦して敵艦隊に向かうべきところを、日本本土から延々と自力で飛んで行って遙か彼方の太平洋上で戦ってこいというものだった。

 つまり、飛行機はそんな無茶をしようとすればするほど燃料を大量に喰うために、できるだけそうならないように(燃費をよくするために)軽く作らなければならない。頭を抱えた当時の三菱技術陣は、やむを得ずこの機体を「インテグラルタンク方式」として開発した。インテグラルタンクとは、要は「燃料タンクなし」という途方もなく無謀な設計で、飛行機の航空燃料とは当時も今も基本は主翼内部の空間に燃料タンクがあり、そのタンクの中に入っているものである。ところが、インテグラルタンクとは、機体重量を軽くするためにこの「タンク」を内部に作らず、主翼内に直接燃料を搭載する方法で、いえば主翼そのものが燃料タンクを兼ねている訳である。

 どうなるか。

 敵機の放った弾丸がほんの数発主翼を貫通しただけで、内部にタンクなしで直接入っている燃料が直撃されるのだから、ひとたまりもまなく炎上してしまうという事。当時の米軍ではこれを揶揄して、一式陸攻の事を「ワンショット・ライター」(たった一撃で炎上する)などと言っていたらしい。実際、敵空母群を攻撃するどころか、敵戦闘機の迎撃部隊に銃撃され、十数機の一式陸攻で編成された飛行隊がほぼまるごと炎上して海に墜落、敵艦隊の位置までたどり着けなかった部隊もあったという。

 そんな危なっかしい機体に危険を承知で乗り、連日続々と戦死者が出ていたガダルカナルの各地を巡り、兵たちを激励していた山本五十六。人によっては「勇気がある」と思うかも知れないし、人によっては「そんな無謀な」と思う人もいるだろう。私はどちらかというと、五十六本人よりも、そうした状況そのものに、戦争持つ独特の狂気の方を感じる。こうした状況をこそ、いわゆる「修羅場」と言うのではないか、この模型を作りながらいつもそう思っていた。

 

 とにもかくにも、一式陸攻は完成し、狭い我が家の仕事机の隣は上の写真のような飛行機だらけの状態になっている。戦争の事を悶々と考えつつ、しかし仕事のストレス解消には必須なので模型を作り続けているという状況自体も、修羅場ほどではないにせよ、何だか妙な気分である。

 

 次は平和に、現代の旅客機を作ろうと思っている。