ダースベイダー的、ハインケル | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 ずっと作っていたドイツ空軍の爆撃機、ハインケルhe111H-3がようやく完成した。飛行機本体にちょうど3ヶ月、周囲の兵隊のフィギュアに10日かかった。飛行機模型を始めてまだ半年強だが、大物を作り終えて我ながら感慨深い。

 

 これは、以前に作ったイギリスのスピットファイアとドイツのメッサーシュミットと同じ流れである。つまり、1940年夏から晩秋にかけての、イギリスVSドイツのいわゆるバトル・オブ・ブリテンの時に戦い、もっと言えばそれを題材にした映画「空軍大戦略」に登場する爆撃機である。バトル・オブ・ブリテンの模型に関しては、もうお腹いっぱいなので、この辺で終わりにしようと思っているが、それはさておき、「ハインケル」。

 

 搭乗員はパイロット含め4~5人、爆弾を8基搭載している。

 イギリス本土空襲に向った時はかなりの数の編隊だったそうだが、それもそのはずで、「ロンドンを落とす」とどうも闇雲に意気込んでいたヒトラーの命により、多大な爆撃効果が期待されていたとかで、しかし一機で爆弾8基ではそうした効果は得られず、大挙して爆弾を落としまくったという事らしい。実際、イギリスでは多くの被害が出たが、一方空襲に行ったドイツ側でも損害は決して少なくなく、ドイツはロンドン侵攻に失敗した。ヒトラーの「闇雲」は、闇雲故に頓挫したという事になる。

 以前このブログにアップした戦闘機のメッサーシュミットたちが、ハインケルの護衛としてついていったのだが、当時のメッサーシュミットは航続距離に乏しく、主にフランスを占領してそこに作ったドイツの空軍基地から離陸し、しかしドーバー海峡を越えた時点でだいぶ燃料を消費してしまい、イギリス上空には10分から15分しかいられなかったそうだ。よって、護衛隊なのに時間が来るとハインケルを空に置き去りにして帰還せざるを得ず、残されたこの黒い爆撃隊は、襲ってくるイギリスのスピットファイアと自力で戦ったのだという。鈍重な爆撃機で高速の敵戦闘機と戦い、振り切り、自分たちの基地まで帰るのだから、それはさぞ大変だった事だろう。

 

 が、そんな苦心惨憺の爆撃行とは裏腹に。

 映画「空軍大戦略」の中では、ローレンス・オリビエ演じるイギリス空軍の司令官が「護衛のメッサーシュミットはすぐに引き返す。その時が迎撃のチャンスだ」と言ってはいるものの、ハインケルは総じて敵・ドイツ軍の主力にして脅威であり、この黒々とした異形の爆撃機が雲霞の如く襲ってくるのだから、その恐怖は並大抵でなかったと描かれている。

 何回も見た映画なのだが、模型を作るに当たって改めて見返してみると、映画ではどちらかというとイギリスのスピットファイアVSドイツのハインケル軍団の構図になっていて、要は、その見た目の恐さも相まって「悪役」の様相を呈している。

 そして、この映画の印象では「ハインケルは黒」というイメージが私の中にあったのだが、映画を見返したり、模型の塗装図を見てみると、意外に明るいグレイとグリーンの迷彩である事もわかった。映画の、とある晴天のシーンでは確かに明るい塗り分けである。だが一方、同じ映画の他のシーンでは、やはり滑走路脇に黒々と、ずらりと佇んでいたり、空中戦のさなかもやはり曇天に浮ぶ黒い塊のシーンが多い。つまり、照明や太陽光の具合で明るくも黒くも見える機体なのである。

 しかし、どうも「黒々とした奴が襲ってくる」という私のイメージはくつがえらず、指定の色より少し黒い感じにした。

 いえば、空軍大戦略に登場するハインケルは、ダースベイダー的ヒールの象徴で、しかも大挙してやってくるから「集団ダースベイダー」の如き状態で、中学生の頃テレビの洋画劇場で見た時に、そこが余程のインパクトだったのだろう(写真が下手なのでわかりにくいですが、迷彩の塗り分けはしてあります)。

 

 いつも言うのだが、映画の悪役は徹底的に強くなければ映画そのものが面白くならない。よってベイダー卿はあの強さな訳だが、ハインケルも同様で、内実は苦心していたとはいえ、やはり強く見えなければ「空軍大戦略」は成り立たなかった。いつの時代も、この作劇は大切なものである。現実の戦争では空襲される側はたまったものではないが、こと映画に関しては、そうである。

 

 そんなこんなを考えながら過ごした3ヶ月と10日。

 ようやく完成、である。