ZOIDS WILD異聞 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 自分で脚本を担当しているアニメ作品の、それも現在放送中のそれについては守秘義務があるのでいつもは記事を書かないのだが(書ける事が少ないのであまり面白い記事にならない)、珍しくちょっと面白い事があった。

 上の写真は、その、現在担当中のアニメ「ZOIDS WILD(ゾイドワイルド)」に登場する機械生命体「ゾイド」で、手前の白いのが主人公の乗る(首の後ろの青い部分に男の子がまたがる)ワイルドライガー、奥の赤いのが敵キャラが乗るギルラプターである。よくできたプラモデルで、作り方は簡単だし、単四電池が入っていて複雑に動く。先日の三連休の時に、Amazonで買って作ってみた。

 私のアニメはほとんど見ない同居女子ですら、

「おー、かっこいいねー」

 と言い、しばらく私そっちのけでジーっ、ジーっと動かして遊んでいた。

 それはともかくとして。

 

 今年の7月に放送が始まって以来、この「ZOIDS WILD」の玩具は売れ行きが好調なのだそうだ(なにしろ私が買ったくらいなので)。すると番組としては最重要の目標は達成しているので何も問題はないのだが、近頃はSNSの普及でツイッターのタイムラインにアニメの感想が溢れ返るようになっていて、放送開始当初は、子供の頃に「ゾイド」のシリーズを見ていて今は大人になっている視聴者から、厳しい意見が相次いだ。

 いわく「子供向けになっちゃって」、「戦争モノじゃないんだね」(かつてのゾイドはミリタリー色が強かった)、「これは『ゾイド』じゃないでしょ」などなど。

 我々現場のスタッフも、放送が始まればおそらくそういう意見が出るのは予想していた。いえばこれは想定内である。

 だがあえて「完全子供向け」に振り切ったのには事情がある。

 ここ数年、少子化の波をモロにかぶって、こうした玩具主体の作品は苦戦するものが多い。ところが、玩具を子供に買ってもらわなければならないにも関わらず、作り手の欲求からつい「大人が見ても面白い内容にしよう」という脚本にしたところ、とはいえ根本は子供向けであるので大人の視聴者には訴求力が弱く、しかしメインのお客さんである子供には逆に難解に過ぎ、結局中途半端な仕上がりで玩具がさっぱり売れなかったという例が多いのである。

 かつて黒澤明は「映画は中途半端が一番ダメ。やるなら徹底的に」という名言を残しているが、これは当然アニメにも当てはまる。

 そんなに甘い仕事ではないのだ。

 よって、「ZOIDS WILD」は、思い切ってメイン層である小学生の、それも男子限定に内容を絞りに絞った結果、ストーリー、キャラのデザイン、その他何から何まで今のような形式になった。とはいえ我々脚本家チームは毎回知恵を絞り、「徹底的に面白いストーリーを書く」という事に邁進していて、その成果が出たのかどうか、夏の終わり頃には大人の視聴者からの苦言も少なくなってはいた。

 

 異聞、というのはここからである。

 この仕事を始めて長い私ですら、ちょっと驚く事態に遭遇したのだ。

 10月の第1週放送回がたまたま私が脚本を担当した回だったのだが、その日からオープニングのテーマ曲が、元東方神起のメンバーで今はソロで活躍しているK-POPの歌手、イケメンで歌も上手いジェジュンのものになった(同じ作品に参加している者通しなので、敬称は略します)。

 私は自分の担当回なので、視聴者の感想が気になってツイッターのタイムラインを見ていたのだが、そこに、まるで雪崩を打つようにして大量の「ジェジュン・ファン」の女性の皆さんがやってきた。

 タイムラインはあっという間に彼女たちのつぶやきで埋め尽くされたようになり、「ジェジュンがアニメの主題歌歌ってて嬉しい」、「毎週彼の声がテレビで聞けるなんて」、「アニメに合っててステキ」などなど、その書き込みの量がものすごいのである。

 驚いた私はデスクトップPCの前に同居女子を呼んだ。

「なあに?」

「これ見て。ツイッターがジェジュン・ファンですごい事になってる」

「ほんとだ……あれ?でも、まさしはツイッターはやってないんでしょ」

「感想が気になるからこういうのは見るんだよ」

「ふーん……それにしても、ジェジュンのファンの人たち、熱いわ」

「そうだね。びっくりしたよ」

 

 わざわざ「異聞」と書いているのには、ただ驚いただけではない、もう1つの理由がある。

 彼女らジェジュン・ファンの、元々いたいわゆる「ゾイド・ファン」の人々への気の遣いようがたいしたもので、ちょっと騒ぎすぎちゃってごめんなさいねという書き込みから、「よかったら、ジェジュン・ファンとゾイド・ファンの皆さんで仲良く交流しませんか?」というもの、でもあくまで主体はゾイドワイルドというアニメ番組であるのだから、双方のファンががんばって番組を盛り上げるために応援していきましょうよというものまで、実に至れり尽くせりなのだ。

 一方、ジェジュンの歌は彼女らの言う通り文句なしに良く、アニメの内容にも完全にフィットしているので、彼を知らなかったゾイド・ファンからもタイムラインで賛辞の声が相次ぎ、ともすれば揶揄や批判が渦巻くアニメの感想タイムラインにしては、珍しくも友好的で温かい空気が流れている。

 最初のゾイドが放送されていた昔には、まだSNSは普及していなかった。つまり、今回はシリーズ初の「SNS普及下での放送」な訳だが、この番組に限ってはジェジュン効果によって、いい意味で不思議なSNSになっている。私はSNSについては、日頃から便利であると同時に無闇に他人を傷つけたりする「諸刃の剣」のツールだと思っているのだが、しかし場合によっては、こうした前向きな現象も起き得るのだという事を初めて知った。

 いや、他ではこのようなケースは既にあるのかもしれないのだが、少なくとも自分が関係している作品で体験したのは初めての事である。

 また、一番重要な小学生視聴者の感想は(私たちアニメ現場の人間は、この情報を喉から手が出るほど欲している)、スタッフ中の担当者によって「良好ですよ」と聞かされてはいたものの、実際にジェジュン・ファンの女性でお子さんのいらっしゃる方々のつぶやきを見ていると、「うちの子小学生で、親子でハマッています」とか、「幼稚園児の甥っ子が遊びに来たので『ゾイド知ってる?』と聞いてみたら知ってた」とか、果ては「玩具売り場に行ったらゾイドを買ってもらってる子がいて、見て嬉しかった」とか、得がたい生の声がたくさん届くようになった。

 これこそが、こまでのありがちなリサーチだけでは決して得られなかった生の声で、しかも大量のジェジュン・ファンのお陰で様々な感想やニーズを拾い上げる事ができるようになり、「ははあ、時代は変化しているのだなあ」といたく感心した。

 無論、こうした貴重な「小学生の反応」は、今後の番組作りに大きく反映される事になる。

 ありがたい事である。

 

 以下、番宣ではありますが。

「ZOIDS WILD」は毎週土曜日朝6時30分からMBS系(関東はTBS)にて絶賛放送中です。

 私の脚本回も、これからどんどん登場します。

 どうぞ、応援よろしくお願いいたします。

 

 毎週、面白いですぞ。