中国電視劇(ジョングォディエンシージュウ=中国TVドラマ)事情 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 先週は中秋の名月で、中国の友人たちから月餅をたくさんいただいた。

 これはここ数年恒例化していて、「中国の本物の月餅はおいしいからぜひ食べてください」と言われ、確かに日本で売っているものとは全然違って、甘さ控え目、衣ももっとふんわりしていて、しかも味の種類が多い。大きいのから小さいのまでサイズも様々で、最初に貰った時思わず「うん!これはうまい!」と言ったら、毎年いただくようになった。今年はちょっと食べ過ぎてさすがに胃もたれしたが、来年もまた胃もたれ承知で食べてしまいそうな気がする。

 

 数年前にこの友人たちから、「中国は映画よりドラマの方が人気が高く、かなり面白い」という話を聞き、そういうものかと思い、私も大量に見てみた。今でもたまに見る。

 確かに面白い。

 あちらでは、人口が多いのと関係があるのかどうか、とにかく目もくらむほどの本数のドラマシリーズが製作、放送されている。そして数が多いだけでなく、そのジャンルの豊富さにも驚かされる。恋愛ドラマ、アクション、警察もの、戦争ドラマ、ホームドラマから「白い巨塔」ばりの総合病院のドロドロドラマまで実に多彩である(これの何倍も「ジャンル」自体が多いのだが、とても書き切れない)。

 一方映画はどんなだろうと思ってこれもたくさん見たのだが、製作本数はやはり多いもののどうもイマイチな作品が多く、凡庸というかありきたりというか、そもそも香港映画の協力を得て作っている作品も多いし、まだまだ発展途上な気はした。

 もっとも、同じイマイチなら、かなりの制作費がかかっていてCGがド派手な分、邦画よりはだいぶ見栄えがしていいとも思っているのだが。

 どうもそんな事情もあって、あの国の映像業界ではいい人材がドラマに集中しているような気がする。これは調べた上での情報としてではなく、あくまで同じ仕事をする者としての勘に過ぎないのだが。あの面白さには、そんな独特の匂いがある。

 

 いくつか紹介してみよう。

 2010年に放送された「一起又看流星雨(イーチヨウカンリウシンユー)」。

 日本語にすると、「また一緒に流星群を見ようね」となる。

 既にうっすらお感じになると思うのだが、これはもうベタベタの学園ラブコメである。

 中国では高校生以下の恋愛は今でも大人が眉を潜めるものなので、高校以下のこの手のドラマは絶無である。この「一起」も、制服こそ着ているものの私立の大学を舞台にしている。

 さらに、ここが日本と大きく違う点なのだが、中国は18歳で成人になるから、彼らは大学一年生の時点で既に「大人」であり、従ってヒロインの可愛い女の子(若い頃の西田ひかるにそっくりだった)と、彼女と恋仲になるイケメンの彼氏(こっちは数年前の瑛太にそっくり)、その友達たちは皆おおっぴらに酒は飲むし、コンパチの車でドライブに行くし、その辺の雰囲気は日本の学園ラブコメとはだいぶ違っている。

 実はストーリーを紹介するまでもなく、典型的な学園モノで、勉強熱心で真面目で明るく可愛いヒロインがいて、彼女が愛してやまない、シュッとしたイケメンの彼氏がいて、しかしヒロインに焼き餅を焼く「お嬢」タイプのいじわる美女がいて、挙句校長にいつもおべっかを使っている教頭先生まで登場する。体育の先生はギャグメーカーだし、昔の日本の学園モノとほとんど変わらない。

 ただ、私は脚本家なのでどうしても脚本が気になって見るのだが、プロットの組み立て方、意外な展開の妙、何よりも、毎回のラストのあざといが「これは絶対次回見ちゃうでしょ」というものすごい引っ張りが、かなり癖になる感じでうっかりハマってしまった。何と全60話(各話1時間)だから、いつも途中で飽きて連ドラを見なくなってしまう私にしては快挙といっていい。

 確かに、人材がテレビドラマに集中しているという実感は、このドラマを見て持ったものだ。

 

 この頃見たドラマで私の一番のお気に入りのシリーズがある。

 2012年放送の「銃花(チャンホア)」。全80話。四部構成である。

 ほんとは簡体字なので違う漢字を使うのだが、日本にない漢字なのでひとまずこう書いておく。

 これは、ここ数年来日本のネットの一部でも悪名高い、「日中戦争時代を背景にした、極悪非道帝国陸軍が抗日中国軍にこてんぱんにやられる」シリーズである。このジャンルはほんとに大量に放送されている。

 が、私は昔からこういうのに鈍感というか、例えばハリウッド映画に日本人のワルが出てきても全く気にならないタチなので(しかもこのドラマでは、日本軍の悪辣さがあまりに悪すぎて最早笑っちゃうレベルなので)、ドハマりして見た。それほどストーリーが面白い。

 言えば「中国版『チャーリーズ・エンジェル』+『007』」である。

 主人公は二人。射撃の得意な切れ者の美女と、可愛くて愛嬌はあるが変装の達人(無論射撃と格闘技もお手のもの)がいて、その上司として、イケメンだがいつもヘラヘラしていて腹の読めないおっちゃんがいる。

 彼らは抗日軍が極秘に組織した「情報収集及びスパイ活動目的」の特殊部隊で、毎回毎回日本軍の企みを嗅ぎつけた上司から指令を受け、ある時は上海租界の歌姫に化け、またある時は日本軍御用達の料亭の芸者に化け、科学者や親日政治家の秘書を装い、その悪事を暴くと同時に、敵軍の悪漢を大銃撃戦の末に倒したりするんである。その合間合間にへらへら上司との洒落たやり取りがあったりして、その辺はチャーリーズ・エンジェルまんまである(上司は声だけでなく実際に登場する訳だが)。

 四部構成のうちの第一部はだいたい上記の流れで一話完結が多い。

 ところが、二部に入ってから連ドラにシフトし、これが滅法面白いのだ。

 ある時、この特殊部隊に上層部から指令が来る。

「『コードネーム・バオ』を探せ」

 たったこれだけの指令である。「バオ=宝」、中国語でお宝という意味だが、この、たった一言だけの指令でドラマが動き出す。一体バオとは何なのか、本物の宝なのか、人なのか物なのか、地名なのか何かの作戦名なのか、登場人物たちにも視聴者にも全くわからないのだ。

 そして。

 これを美女二人が様々なピンチを切り抜けながら探っていくうちに(この辺りがボンドシリーズのノリなのだが)、驚愕の事実が判明してくる。

 「バオ」とは、ヒトラーの命によりドイツ軍が開発し、既に実用化に成功している原爆で、それがドイツのベルリンから陸路を経て日本に輸送されている最中だという(空路だと途中撃墜される可能性が高いので、極秘裏に陸路で輸送している)。この「バオ」は日本に陸揚げされる前に、一旦密かに上海の日本軍に到着する。美女の特殊部隊はとうてい二人では人員不足なので、抗日軍の各セクションの秘密部隊が次々に集められ、上海の日本軍を急襲し、バオを奪うかもしくは破壊するという、かなりなスペクタクルの大作戦が展開されるのだ。しかし何しろ目標の「ブツ」が原爆なので、やたらに力押しで銃撃戦を仕掛ける訳にいかず、日本軍も日本軍で「奪われてなるものか」と一国も早い本国への輸送作戦を始め、あの手この手で輸送ルートを変え、抗日軍特殊部隊の裏をかき続ける。

 連続ものとして非常によく出来ていた。

 まずなにより、「バオとは何か」の前半の引っ張りの見事さ。あの正体が、緻密にばらまかれた伏線によって少しずつ明らかになっていきながらも、ある回のラストでは「ひょっとして……バオとは……」で、次回へ続いてしまったりするのだ。あれは次を見るなという方が無理である。

 そしていよいよバオの正体が判明してからの、抗日軍と日本軍の全面対決に至る盛り上げのうまさ、いざ作戦が始まってからの、およそ日本のドラマなどでは考えられない、ちょっとしたハリウッド戦争映画ばりの大スペクタクル戦闘シーンの数々。エンタテイメントとしてかなりの高水準である。なにしろ、張りぼてとはいえ、実寸大の戦車が迫撃砲の集中砲火を受けて宙に舞い上がったり、五十台近い日本軍の軍用トラックの車列を、抗日軍のゲリラ部隊が襲撃し、数百人規模のエキストラが銃撃戦を繰り広げるのだから、あれはもうドラマの域を超えている。前にスピルバーグとトム・ハンクスが共同製作した「バンド・オブ・ブラザース」という第二次大戦もののシリーズがあったが、戦闘シーンに限っては、ほぼあのレベルに迫っている。

 また、日本軍の一番のワル、斉藤大佐というキャラがいて、これが初期のダースベーダー並の「巨悪」で滅法強く、クライマックスでは凄腕スパイの美女二人を相手に、敵(ヒロイン)の軍用モーゼル銃連射などものともせず、日本刀でバシバシ応戦する様が、私などすっかりファンになってしまったほどだ。

 ちなみにこういう日本人の役は、全て中国本土で活躍されている日本人の俳優さんがこなしているのだが、皆さん頑張ってらっしゃると思う。

 

 他には「中国CSI」(笑)というのも見た。アメリカの「C.S.I」まんまで、実際、警察の科学捜査チームの活躍を描いた作品だが、これまたよく考えられていて、中国東北地方の実際の地方都市が舞台になっていたり(これ、かなり世界観としてリアルに見えるんである)、毎回謎解きの際に思いもよらぬどんでん返しがあったり、何より、あまり無理をせず、現在の中国の科学捜査のレベルをベースにお話が作られていて、キャラの一人が「あーあ、これがアメリカならもっと短い時間で解析できるのにな」などと愚痴を言う辺りがリアルに出来ている。

 また、私など日本人が見て良いのは、犯罪ドラマを通して中国の一般家庭や、「地方都市ってこんな感じですよ」という、つまり「中国のリアル」が垣間見えるのが楽しいし、興味深い。勿論ドラマには政府の厳しい検閲が入っているから、あれが現実の全てという訳ではないが、その割に結構えぐいシリアルキラーの連続殺人を扱っていたり、生活苦から殺人に走る人間の激増という社会問題を扱っていたり、普通警察と公安警察の縄張り争いが描かれたり、政府批判をしないだけで、スタッフはよく頑張っていると思った。

 

 と、つらつら書いてきたが。

 どのドラマにも言えるのは、とにかく「勢い」がある事。

 視聴者を楽しませるにはどうするかという事を、それのみを考えて作られた作品が多く、案外なチャレンジ脚本だったり、お約束でもただのお約束に終わらない最終回だったり、「飽きさせないドラマ作りに徹底的にこだわっている」のが何とも良い。国民性の違いがあるから一概に日本に当てはめる訳にはいかないが、日本のドラマも、数字が取れないと嘆くばかりでなく、もう一度かつてのドラマが持っていたようなあの「勢い」を取り戻すべきなのではないか、中国のドラマを見ているとそう思う。現にあの大陸では「勢い重視」で内容的にも面白いドラマが量産されているのだから。

 

 これまた、以前に書いた記事「東京の中国人」同様、日本ではほとんど知られていない事だ。

 

 「ドラマ一つとっても、意外に近くて遠い国、中国」

 

 そんな気がしてならない。