第33話「コングラチュレーションズ」
司会者は、滑らかな口調で進行させた。
やはりプロのアナウンサーは違うと、母は、彼に耳打ちした。
姉の結婚式は、銀座のあるホテルで行われた。
二人ともいい歳だから、と、しり込みしたが、母のたっての希望で、それは
かなり盛大におこなわれることになった。
司会は彼の局の友人である若いアナウンサーに頼んだ。
彼は、まだ、アナウンサーとしての経験は浅かったが、それでも、
素人の司会者とは、ひとあじ違う司会者ぶりだった。
あまりに滑らか過ぎるので、彼には、それがちょっと気に入らなかった。
もっとたどたどしくてもいいから、ハートウォーミングな司会の方が、後で、
心に残るのではないか、と思った。
ただ田舎ものの母は、テレビに出ているプロのアナウンサーに司会をしてもらえると
いうだけで、かなり感激しているようだった。
田舎で親戚うちだけで挙げた婚礼とは、だいぶ様子が違うと言った。
彼は、仕事の関係で、郷里の婚礼には、出席できなかったが、従兄弟の撮ったスナップ
写真を見せられて、その雰囲気だけは知ることができた。
それは、昔ながらの彼の家の座敷で行われたもので、古式ゆかしい婚儀の数々が、
かえって、好ましいものに感じられた。
日に当たった縁側の照り返しを飽かずに眺めた。
式では、姉と義兄となる人の上司や同僚が次々と祝辞を述べた。
ある人は、巧みに人を惹きつけ、ある人は、儀礼的で凡庸な話をした。
彼は、それをぼんやりと眺めていた。
とにかく姉はひとつの転機を迎えたのだ、と思った。
彼は少し喉が渇き、テーブルの上のワイングラスに手を伸ばした。
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