彼のコンセプト・最終話
「ジャスト・マリッジ」
最初は、あまり大げさにしたくない。
と二人で話し合っていた。
その点で、二人の意見は一致していた。
しかし、なぜ、こうなってしまったのか?
いくら考えても、わからなかった。
しかし、結婚は、自分の考えだけでは
進めない。逆に言えば、結婚とは、そう
いうものなのだ。
で、結婚式は、最初の彼の考えとは、
全く逆のフルコースとなった。
結納があり、家族親族の顔合わせ会があり、
披露宴があり、ケーキカットがあり、
キャンドルサービスがあり、
お色直しがあり、二次会があり、
記念写真があり、なんでもあり。
まあ、仕方がない。
つまり「結婚する」ということは、
こういうことなのだ。
彼が自分の意見を通したのは、ただひとつ。
ハワイでも挙式を挙げるという点だった。
ハワイでは、彼の小学校時代からの
友人が牧師をしていたのだ。
それも、全てのスケジュールを消化して
新婚旅行の中にやっと組み入れられたものだった。
「怒ってる?」
彼女は、ハワイ行きの飛行機の中で、
彼の顔を覗き込み、何度もそう訊いてきた。
怒ってないさ。と彼は答えた。
ただ疲れただけだ。
「怒ってるでしょ」
「怒ってない」
「……」
「……」
「怒ってる?」
つまり「結婚する」ということは、
こういうことなのだ。
ホノルル空港は快晴だった。
「ところで、立会人は?手配するって
言ってたよね。」
ちょっと心配になり、彼女に訊くと、
彼女は、得意そうにうなづいた。
「ちゃんと、ここのエージェントに
頼んであるわよ」
「なら安心だ。」
手配したレンタカーで、ホテルに
行き、ひと休みして、ビーチに出た。
波の音を聞きながら、いつの間にか
寝てしまった。
本当に、疲れきっていたのだ。
つまり、「結婚する」というのは、
こういうことなのだ。
翌日もハワイは快晴だった。
二人で、軽い朝食を取り、
「ところで、立会人は?何人頼んだの?」
「ええ?ああ、知らないわ。
何人か来るんじゃないの?」
「えええ?大丈夫なのかい?」
この島のヒトタチが、そういうことに
結構ルーズなのを知っていたので、
彼は、非常に心配になった。
が、彼女は、あまり心配している
ふうではなかった。
レンタカーで30分ほど走り、
友人のささやかな教会に着いた。
照り返す日差しの中で、
真っ黒に焼けた牧師の友人は、
教会の前で、背伸びするように、
二人を待っていてくれた。
彼は、派手なアロハシャツに
ハーフパンツ。そして、サンダルを
履いていた。牧師らしいところと
言えば、首から、金の鎖に着いた
ロザリオをぶら下げているところ
だけだった。
「よお!新婚!」
友人は、ひげ面を崩して、白い歯を
みせた。彼とがっちり握手して、
彼女をたっぷりと抱きしめた。
「まあ、中に入って、ちゃあでも
呑んでくれや」
「なあ」
「ああ?」
「立会人のヒトは?」
「ああ、そろそろ来るんじゃないのか」
友人のでっぷり肥った奥さんが、
冷たい麦茶を運んできた。
友人は、それに、ラム酒をたっぷり入れて、
グイっと呑んだ。
二人の視線に気づいて
「燃料だ」
「今日は、天気がいいから、外に祭壇を
作ってやったから、外でやろうぜ。」
「で、立会人は?」
彼は訊いたが、友人は聞こえないようだった。
「じゃあ、はじめっか。じゃあ、オレは、
先に行ってるから、かみさんについて来て
くれや」
「おい!大丈夫なのか?仮にも結婚式だぞ!」
「オレは、プロだよ」
そう言って、友人は出て行ってしまった。
しばらく待たされて、かみさんが、ブーケを
持ってきて、彼女に持たせて、促された。
「二人で行くの?僕が先に行くの?」
かみさんは、笑いながら「一緒に」
と言った。
そして、持っていたラジカセのスイッチを
入れた。結婚行進曲が流れた。
そして、教会の扉を開けた。
一瞬、強いハワイの陽射しに眼が眩んで
何も見えなくなった。
手をつないで、ふらふらと外に出ると、
潮風を頬に感じた。美しい海が見え、
その前に、簡素な祭壇の前に立つ友人が
見えた。
心配していた立会人が並んでいた。
思っていたより、人数が多かった。
二人でゆっくり近づいていくと、
皆ニヤニヤしていた。
「!」
立会人は、
皆、
彼の古くからの友人だった。
つまり、彼は、一杯食わされたのだ。
牧師の友人は、咳払いした。
そして、例のセリフを言い始めたが、
なんか、喋りにくそうだった。
「つまりだな、君は、この男が、病気になったり、
調子に乗って、まあ、ちょっと浮気心が起こったり
なんだかんだすったもんだがあったとしても、
最後には、見捨てないで、うまくやってく覚悟が
あるかって言うことだよ。」
彼女は、彼の顔を見た。
「ええ、はい」
「じゃあ、神に誓って」
「誓います」
「よし。じゃあ、お前は?この女をずうっと愛して、
彼女を幸せにする覚悟はあるんだな」
「ああ、はい」
「じゃあ、誓って」
「誓います」
「キリスト教の場合、神への誓いは、絶対だからな。
絶対守れよ!じゃあ、手錠。じゃないや、指輪の交換。」
二人は、もう指輪をしていたが、教会が用意してくれ、
輪ゴムに花をつけて作った可愛い指輪をつけあった。
そして、二人はキスをした。
「よし!これで、二人の結婚は成立した。おめでとう!」
その時、強い風が吹いて、皆の髪がバラバラと乱れた。
友人たちが、皆、それぞれはやしたてた。
二人でその中を歩いた。
レンタカーには、「ジャスト・マリッジ」となぜか、
カタカナで、ペイントされていた。ひどい!
バンパーには、缶からが目いっぱい吊るされていた。
ひど過ぎる。
「つまり、まあ、結婚っていうのは、こういうこと
なんだね」
彼女が、小声で、彼にささやいた。
彼が、言おうとしていたことを
彼女が先に言ってしまった。
つまり、まあ、「結婚する」ということは、
そういうことなのだ。
「彼のコンセプト」FIN
2010年9月25日から
連載させていただいておりました
連続掌編小説「彼のコンセプト」は
これにて、完結いたしました。
皆様、長らくのご愛読、まことに
ありがとうございました。
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