連載掌編小説「彼のコンセプト」② | ヒロN式!

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「メイド喫茶元オーナーが書いた女の子の取扱い説明書」
の著者・ヒロNが綴る毎日のよしなしごとです。

第4話「シンセアリ・ユアズ」





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 短い出張から帰ってくると、メールボックスに何通か、手紙が入っていた。

 ほとんどがつるつるした紙質のダイレクトメールだった。

 ボストンバッグを抱えたまま、彼は戸口で眼を通した。

 デパートから、紳士服の年末バーゲンのDMが来ていた。見た目には

上等そうな黒のダブルスーツが5万6千円と書かれていた。

 彼は去年買って、クロゼットの奥にしまったままになっている同じような

ダブルスーツのことを思い出した。

 彼は、リビングに靴下のまま上がり、ダイニングキッチンまで、ダイレクト

メールを見ながら歩いた。

 手紙から眼が離さずに、ダイニングキッチンの戸棚から、ひとカケだけ

残っていたフランスパンを取り、齧りついた。固くなっていたが、唾で湿らすと

香ばしい塩味が舌先に感じられた。

 彼は、手紙を見、フランスパンを齧りながら、リビングまで戻って来た。

 リビングのソファに寝そべり、ダイレクトメールに次々に眼を通した。

 中から一通の航空便が出てきた。

 キャザリンからの手紙だった。

 キャザリンは、大学時代からの彼の友人だった。

 ハワイに住んでいる日系三世で、日本では、英会話の教師をしながら大学に通っていた。

 彼は、赤とブルーに縁取られた手紙を注意深く切り開き、眼鏡をずり降ろして中を読んだ。

 手紙の内容は、取り止めのないものだった。

 彼女の近況が鉛筆書きで記してあった。

 彼女の家で飼っているシャーリーが、また子供を産んだ、と書いてあった。

 五匹生まれたが、皆、友達に譲ってしまった、と書いてあった。

 それから、彼女の父親が、庭で芝を刈っていて、脚を捻挫してしまった、と書いてあった。

 もう大体完治したのだが、捻挫したのが右足だったので、一時はアクセルペダルを踏めなくて、病院までの送り迎えは、彼女が運転した、と書いてあった。

 一回につき五ドルのお駄賃をもらった、と書いてあった。

 彼は笑って、寝返りを打ち、今度はうつぶせになった。

 ハワイは、毎日暑くて、黒い顔がいよいよ真っ黒になった、と書いてあり、あなたもヒマを作って、ぜひ遊びにいらっしゃい、と書いてあった。

 今度の連休を外したあたり、休暇をとって、ハワイに行こう、と彼は決心を固めた。

 手紙の最後に、彼の似顔絵と彼女の似顔絵が、漫画風に描かれてあり、その下に、シンセアリ ユアズと書かれてあった


第5話「ジャックポット・ブルーズ」





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 中年のマネージャーは、打ち合わせと称して、彼を地階の喫茶室に誘った。

 彼は時計を見、席を立った。

 土曜日の昼過ぎだったので、いつもゴッタ返している店内はさほど人影がなかった。

 彼は、ドキュメント班の仕事の後、歌謡番組を担当することになっていた。



 マネージャーは、人なつっこい笑顔を作りながら、ハンカチーフで額の汗を拭った。真冬でも、いつも汗をかいているような男だった。

 男は、仕事が一段落して、ほっとした、と言って笑った。

 男は、今、十五歳の新人歌手を売り出す仕事をしていた。もう何年もそんな仕事をしていた。

 男が売り出した少年、少女は、その中には、名実ともに人気歌手になったものもいた。全くヒットが飛ばずに消えた卵もいた。最初の1年目に大変な人気者になったのに、二年目に飽きられ、消えた子もいた。スキャンダルを乗り越えた少女がいた。乗り切れずに、チャンスを潰した青年もいた。

 男は、もう何人も、そんな若者達を見てきた。



 真のタレントを当てるノウハウは、果たしてあるんでしょうかねえ。と彼は訊ねてみた。

 男は、穏やかに笑い、うなづいた。

 それは、ある筈です、私は、そういう例をいくつも見てきたし、自分自身もそんな経験をしています。と男は答えた。

 では、あなたは、担当する新人を大スターにすることができる、ということですか?と彼は、柔らかい口調で訊ねた。

 それは……と男は口ごもり、遠くを見る目つきをした。

 それは……ジャックポットのようなものです。私は、ただレバーの降ろし方を知っているというだけの話ですよ。男は、さびしげに笑った。

 男は、二十数年前、日劇で、ウエスタンナンバーを歌ったことのある男だった。

 男のジャックポットは、オレンジが三つ並ばなかった、ということだ。




第6話「ユア・エブリシング」





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 彼は電話を取った。

 女の声がした。

「忙しいみたいね」

「そうなんだ」

「今日、買い物に行ったわ」

「今日も仕事だった」

「昼間、何度も電話したの……」

「取材だった」

「どこへ?」

「海さ。鴨川の、漁業問題の番組だな」

「そう、……楽しかった?」

「いや……それほどでもないよ。」

「今度、放送されたら見るわ」

「ありがとう」

「で、君は、何を買ったの?」

「ランプシェードと、フライパンと、スカートと、レコード……欲しいブラウスがあったんだけど、やめにしたわ」

「そう楽しかった?」

「……まあね」

「レコードは?何を買ったの?」

「マンハッタンズ」

「テープにとって、車で聴くといい」

「そうね。ステキだわ。きっと」

「いい一日だったね」

「ランプシェードは、Tシャツの形をしてるの」

「面白いね」

「淡いブルーで、電気をつけると水族館みたい」

「へええ、一度泳ぎに行こうかな」

「本当言うとね」

「何?」

「一人で寂しかったの。今日」

「……そう」

「気持ちが不安定になって、つい買い物しちゃったの」

「それで、電話もかけちゃった?」

「そう。きっと」

 彼女は笑った。

「ねえ」

「……何?」

「いつも思うんだけど、あなたの電話の声って、ステキだと思う」

「ありがとう。でも、声だけかい?」

「わからない。よく考えてみる」

「そうしたらいい」

「そうするわ。……おやすみなさい」

「おやすみ」

 彼は、彼女が電話を切るのを確かめて、

受話器を置き、煙草に火をつけた。



おじさん、おばさんは読むべし!

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http://musosha.hondana.jp/book/b67903.html


メタボな人は読むべし!

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