第4話「シンセアリ・ユアズ」
短い出張から帰ってくると、メールボックスに何通か、手紙が入っていた。
ほとんどがつるつるした紙質のダイレクトメールだった。
ボストンバッグを抱えたまま、彼は戸口で眼を通した。
デパートから、紳士服の年末バーゲンのDMが来ていた。見た目には
上等そうな黒のダブルスーツが5万6千円と書かれていた。
彼は去年買って、クロゼットの奥にしまったままになっている同じような
ダブルスーツのことを思い出した。
彼は、リビングに靴下のまま上がり、ダイニングキッチンまで、ダイレクト
メールを見ながら歩いた。
手紙から眼が離さずに、ダイニングキッチンの戸棚から、ひとカケだけ
残っていたフランスパンを取り、齧りついた。固くなっていたが、唾で湿らすと
香ばしい塩味が舌先に感じられた。
彼は、手紙を見、フランスパンを齧りながら、リビングまで戻って来た。
リビングのソファに寝そべり、ダイレクトメールに次々に眼を通した。
中から一通の航空便が出てきた。
キャザリンからの手紙だった。
キャザリンは、大学時代からの彼の友人だった。
ハワイに住んでいる日系三世で、日本では、英会話の教師をしながら大学に通っていた。
彼は、赤とブルーに縁取られた手紙を注意深く切り開き、眼鏡をずり降ろして中を読んだ。
手紙の内容は、取り止めのないものだった。
彼女の近況が鉛筆書きで記してあった。
彼女の家で飼っているシャーリーが、また子供を産んだ、と書いてあった。
五匹生まれたが、皆、友達に譲ってしまった、と書いてあった。
それから、彼女の父親が、庭で芝を刈っていて、脚を捻挫してしまった、と書いてあった。
もう大体完治したのだが、捻挫したのが右足だったので、一時はアクセルペダルを踏めなくて、病院までの送り迎えは、彼女が運転した、と書いてあった。
一回につき五ドルのお駄賃をもらった、と書いてあった。
彼は笑って、寝返りを打ち、今度はうつぶせになった。
ハワイは、毎日暑くて、黒い顔がいよいよ真っ黒になった、と書いてあり、あなたもヒマを作って、ぜひ遊びにいらっしゃい、と書いてあった。
今度の連休を外したあたり、休暇をとって、ハワイに行こう、と彼は決心を固めた。
手紙の最後に、彼の似顔絵と彼女の似顔絵が、漫画風に描かれてあり、その下に、シンセアリ ユアズと書かれてあった
第5話「ジャックポット・ブルーズ」
中年のマネージャーは、打ち合わせと称して、彼を地階の喫茶室に誘った。
彼は時計を見、席を立った。
土曜日の昼過ぎだったので、いつもゴッタ返している店内はさほど人影がなかった。
彼は、ドキュメント班の仕事の後、歌謡番組を担当することになっていた。
マネージャーは、人なつっこい笑顔を作りながら、ハンカチーフで額の汗を拭った。真冬でも、いつも汗をかいているような男だった。
男は、仕事が一段落して、ほっとした、と言って笑った。
男は、今、十五歳の新人歌手を売り出す仕事をしていた。もう何年もそんな仕事をしていた。
男が売り出した少年、少女は、その中には、名実ともに人気歌手になったものもいた。全くヒットが飛ばずに消えた卵もいた。最初の1年目に大変な人気者になったのに、二年目に飽きられ、消えた子もいた。スキャンダルを乗り越えた少女がいた。乗り切れずに、チャンスを潰した青年もいた。
男は、もう何人も、そんな若者達を見てきた。
真のタレントを当てるノウハウは、果たしてあるんでしょうかねえ。と彼は訊ねてみた。
男は、穏やかに笑い、うなづいた。
それは、ある筈です、私は、そういう例をいくつも見てきたし、自分自身もそんな経験をしています。と男は答えた。
では、あなたは、担当する新人を大スターにすることができる、ということですか?と彼は、柔らかい口調で訊ねた。
それは……と男は口ごもり、遠くを見る目つきをした。
それは……ジャックポットのようなものです。私は、ただレバーの降ろし方を知っているというだけの話ですよ。男は、さびしげに笑った。
男は、二十数年前、日劇で、ウエスタンナンバーを歌ったことのある男だった。
男のジャックポットは、オレンジが三つ並ばなかった、ということだ。
第6話「ユア・エブリシング」
彼は電話を取った。
女の声がした。
「忙しいみたいね」
「そうなんだ」
「今日、買い物に行ったわ」
「今日も仕事だった」
「昼間、何度も電話したの……」
「取材だった」
「どこへ?」
「海さ。鴨川の、漁業問題の番組だな」
「そう、……楽しかった?」
「いや……それほどでもないよ。」
「今度、放送されたら見るわ」
「ありがとう」
「で、君は、何を買ったの?」
「ランプシェードと、フライパンと、スカートと、レコード……欲しいブラウスがあったんだけど、やめにしたわ」
「そう楽しかった?」
「……まあね」
「レコードは?何を買ったの?」
「マンハッタンズ」
「テープにとって、車で聴くといい」
「そうね。ステキだわ。きっと」
「いい一日だったね」
「ランプシェードは、Tシャツの形をしてるの」
「面白いね」
「淡いブルーで、電気をつけると水族館みたい」
「へええ、一度泳ぎに行こうかな」
「本当言うとね」
「何?」
「一人で寂しかったの。今日」
「……そう」
「気持ちが不安定になって、つい買い物しちゃったの」
「それで、電話もかけちゃった?」
「そう。きっと」
彼女は笑った。
「ねえ」
「……何?」
「いつも思うんだけど、あなたの電話の声って、ステキだと思う」
「ありがとう。でも、声だけかい?」
「わからない。よく考えてみる」
「そうしたらいい」
「そうするわ。……おやすみなさい」
「おやすみ」
彼は、彼女が電話を切るのを確かめて、
受話器を置き、煙草に火をつけた。
おじさん、おばさんは読むべし!
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メタボな人は読むべし!
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