連載掌編小説「彼のコンセプト」① | ヒロN式!

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「メイド喫茶元オーナーが書いた女の子の取扱い説明書」
の著者・ヒロNが綴る毎日のよしなしごとです。

第1話「オフ・デューティー」


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 収録が終わった。

 彼は高く左手を上げた。

 スタジオの空気が一瞬のうちに和らいだ。

 テーブルの前に立っていたハーフのタレントが

 呑み込んだチョコレートのかけらを口から出し、

ティシューに包んだ。

 彼はそれを見ていた。

 彼は目をそむけた。



 スタジオの明るい照明が消えた。

 ざわめきが徐々に消えていった。

 彼女は笑い、つられて彼も笑った。



第2話「ウェイクアップ」


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 腕時計が傍らにあった。

 彼は眠気の抜けない眼を巡らせて、

時計を見た。

 三年前に買った安物の時計だった。

 彼は、それを陽の光に透かしてみた。

 ディジタルの文字盤にはめ込まれたガラスには、

細かな傷が入っていた。

 右側のフチより左側のフチの方が傷が多かった。



 彼は、それを眼に近づけたり離したりした。

 近づけると細かい傷が眼に映り、遠ざけると、

傷は見えなくなった。

彼は、ティシューペーパーで時計を丹念に拭い、

手の脂を除いた。

 曇りがなくなると腕時計は輝きを増した。

 眼から遠ざけると、それはほとんど新品のように

見えた。

 彼は、満足し、それを左手に嵌めた。



第3話「トラブル」


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 午前三時、編集が終わった。

 ドキュメンタリー番組の押しの仕事だった。

 配置換えになり、ドキュメンタリー班になってから、

初仕事で神経ばかり使い、仕事はなかなかはかどらなかった。

 彼は、重い足をひきずり、緩やかな駐車場のスロープを

降りていった。

 暗いコンクリートの空間の中を足音が甲高く響いた。

 局の仮眠室で寝ていくことも考えたが、明日が休日だったので、

彼は帰りたいと思った。

 ズボンのポケットに手を突っ込むと、キイホルダーが澄んだ音を立てた。

 白い息を吐きながら、彼は、柔らかい満足感を味わった。

 彼の車は、だだっぴろい局の駐車場の奥まったスペースに置いてあった。

 別に決めているわけではないが、いつも決まった場所に停めていた。

 今、駐車場に泊まっている車は、彼のムスタング一台だった。

 彼は、自分の車を見て、満足げに鼻を鳴らした。

 女房が、自分の帰りを起きて待っている、というような図を思い浮かべた。

 彼は、ひとわたり車を眺めてからドアロックにキイを差し入れた。確かな

手応えが伝わり、ドアが開いた。正常な機械だけが持つ、快い感触だった。

 彼は、柔らかいシートに腰を降ろし、小さなあくびをして、キイを差し入れ、

回した。

 セルは動かなかった。

 もう一度、キイを回した。

 やはり、セルは動かなかった。

 彼は、ヘッドライトのスイッチを入れてみた。

 ライトは、うすぼんやりと点いただけだった。



 彼は、車を降りた。

 彼は、車を眺めて、バンパーを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばすと、少し癇癪が収まり、家まで、歩いて帰る決心が固まった。



 局と彼のアパートは、歩いて40分ほどの距離だった。



 彼は、ポケットに手を突っ込み、駐車場のスロープを上がった。

 ガードボックスの中のガードマンが怪訝な顔で彼を見ていた。

 彼は、煙草を咥え、それから、左手を上げた。

 ガードマンの老人が大儀そうに頭を下げた。

 見上げると、頭の上には、とても澄んだ星空が広がっていた。

 彼の足に、丸められた紙屑が当たり、舞うように飛んでいった。

 自分の息が暖かいと、彼は思った。




おじさん、おばさんは読むべし!

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メタボな人は読むべし!

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