誕生日によせて | 適当な事も言ってみた。

適当な事も言ってみた。

~まあそれはそれとした話として~

おとついのことです。
若葉の薄緑が鮮やかに萌えていました。
少し湿った土も麗らかに香っていました。
日差しは強いけど、風はちょっと冷たかった。

あなたはそんな日に産まれました。
おじいさまもおばあさまも、そろってみんな来て下さいました。

「いたいよー、いたいよー、ふぅーっ、ふぅーっ」

と言いながら、日の出から日の入りまで、
お母さんは死にそうになりながら
一生懸命頑張りました。

クマザサの植え込みを背にして、
待ちくたびれた東京のおじいさまは
待合室のベンチで居眠りをしていました。

一方、ほとんど一日中眠らずに、おばあさまたちは
代わりばんこでおかあさんの腰をさすっていました。

私?

私はあなたの父になる為に産まれてきた男です。

身体が大きく、大飯喰らいというほかには、殆ど能のない人物ですが
あなたが産まれて来るまで、お母さんの手を握っていました。
お母さんのことが可哀想で何度も涙が溢れました。

お母さんの爪が私の手に食い込んで、血がにじみました。
痛かったけれど、お母さんはもっと痛いのだから、我慢しました。
憶えてはいないかもしれないけど
きっとあなたも、とても痛かったはずです。

そして、清原のおじいさまが駆けつけるのを待つようにして
ようやっとあなたは出てきてくれました。

始めに声を聞きました。
お母さんの背中越しに聴いたあなたの声は、
今まで聴いたどんな音よりも可愛らしいものでした。

血まみれになって、へその緒を体中に巻き付けたあなたは
バチカンで観たラオコーン像のようでした。

手足の大きい、耳の形がとてもきれいな男の子でした。
林檎のように赤くて、羽二重のように柔らかくて
陶磁器のように繊細な姿をしていました。

あなたが来たばかりのこの世界が、果たして
素晴らしい世界かどうかはわかりません。

ですが、あなたが産まれてきたことによって
多くの人がこの世界を「素晴らしい」と思えた
というのは本当です。

あなたは私たちのものではありません。
かといってあなただけのものでもない。

あなたはあなたであり、私は私。

多分、けんかも沢山すると思いますが
悪しからずのことですので、
どうぞよろしくお願いいたします。

産まれてきてくれて、有り難う。

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