「母が逝ってしまった」 | リズム & ブルース・リー

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雨音も、グラウンドを転がっていくボールも、心臓の鼓動も
一定のリズムを刻んではやがて終息する
リズムは儚く、狂おしく、時に切ない
また「甘美」とは、そういうものなのだろうと私は思う

7月21日、夏の日の日曜日、親戚の女性が実家を訪ねて来た

 

彼女が実家を訪れる際は、いつも決まってお土産を持って来てくれる

 

 

 

肉屋さんの美味しいコロッケ、プリプリしている焼き鳥、揚げ物屋さんの品の良いさつま揚げ、八百屋さんの新鮮なフルーツ

 

 

 

大きな商店街の近くに住んでいる彼女は、自転車のカゴにそういうお土産を満載して母を訪ねて来るのが常だ

 

 

 

気の優しい女性なので、常々、母親のことを気にかけてくれてもいた

 

 

 

その日はたくさんのお土産のオマケとして、小豆が入ったアイスも持って来てくれた

 

 

 

 

親戚 「ほらっ、あなたの分も」

 

 

 

 

「おっ、ありがとうビックリマーク

 

 

 

 

親戚 「はいはーいブ~・・・(車)。

 

 

 

 

母親 「バイバーイだって(笑」

 

 

 

 

「ん?今、Yちゃんは‘はいはーい’って言ったんだよ?バイバーイって言ってないよ?(笑」

 

 

 

 

母親 「そうかぁ(笑」

 

 

 

 

最近、母親は少しだけ耳が遠くなっていた

 

 

 

 

私は貰ったアイスを片手に二階へ上がった

 

 

 

 

生まれてから大学生までを過ごした自分の部屋で半裸になり(エアコンが苦手なので)扇風機の風にあたってPCをいじっていた

 

 

 

 

30分くらい過ぎた頃だろうか、下の階から私の名前を叫ぶ親戚の声が聞こえた

 

 

 

 

ドカドカと階段を降り、下の居間に駆けつける

 

 

 

 

横たわる母

 

 

 

 

呼吸が停止していた


親戚が何か言っていたが耳に入らない

 

 

 

 

 

119を回す

 

 

 

 

119の人と会話しながら人工呼吸を繰り返す

 

 

 

 

119 「電話を切らず、このまま繋いだままの状態で人工呼吸を繰り返して下さい。まもなく救急隊が到着します。」

 

 

 

 

母親を仰向けにし、上から心臓を強く押す、口から息を吹き込む
 

 

 

 

 

脈が戻らないじゃないか
 

 

 

 

 

また心臓を押す、そして口から息を吹き込む



戻らないじゃないか・・・

 

 

 

 

サイレンが近づいて来た

 

 

 

 

DOA・・・DEAD ON ARRAVAL

 

 

 

病院では懸命な心肺蘇生術が行われたが、二度と心臓が動くことはなかった

 

 

 

心臓はアイスを食べながら親戚と楽しい会話している最中に突然止まってしまったのだ

 

 

 

 

 

昨年、母親は胸部大動脈瘤の大きな手術をしたが順調に回復していたのになぁ・・・

 

 

 

亡くなる2日前は自転車に乗って買い物に行っていたのになぁ・・・

 

 

 

手術をした病院の定期健診は、半年に一度というスパンに代わり

 

 

 

秋になったらまたお友達と旅行が出来るね[E:sign01]と楽しみにしていたのになぁ・・・

 

 

 

突然・・・そう、あまりにも突然‘さよなら’も言わないで母は逝ってしまった

 

 

 

親戚の‘はいはーい’を‘バイバーイ’と聞き間違えた、あの一言が‘さよなら’の意味だったのか?

 

 

 

私が聞いた母の最後の言葉は‘バイバーイ’だったのだから・・・
 

 

 

 

 

お通夜、告別式にはたくさんの方が駆けつけてくれた

 

 

 

弔問に訪れた方々が口々に「お母さんには本当にお世話になりました。こんなに突然・・・お元気だったのに信じられません。」と話した

 

 

 

「うちの子にワンピースをプレゼントしてくれたんです。だからお通夜はそのプレゼントされたワンピースを子供に着せてお焼香させました。」

 

 

 

近所の方にそう言われた

 

 

 

世話好きで、近所に住む小さな子供はすべて自分の孫のように思っていた

 

 

 

私の幼馴染がお通夜の受付をかって出てくれた

 

 

 

「去年の夏、コンビニで叔母さん(母)に会ったら、叔母さんがウチの娘にお小遣いをくれたんだ。それが忘れられなくてね・・・その時の叔母さんの笑顔が・・・ね」と、その幼馴染は私に言った

 

 

 

 

荼毘にふされる時、扉が閉められる瞬間、私は母に言葉を投げた

 

 

 

聞き間違いとは言え、自分だけ‘バイバーイ’と軽く言って去って行き、私に‘さよなら’を言わせないなんてズルイ、と思ったのだ

 

 

 

 

 

「おかーさーん、‘さよなら’。またいつか会おうねーっ。」

 

 

 

 

やっと、言いたくても言えなかった別れの言葉が言えた

 

 

 

 

 

享年80歳

 

 

 

好きな物を食べ、好きな場所へ行き、好きな人と歓談した母

 

 

 

自分は親孝行な息子ではなかったけれど、ケンカしながら、病院に付き添いながら、母親の作った食べ物を食べながら

 

 

 

母親の息子として生まれて来たことを良かったと思って過ごしていたよ

 

 

 

 

とてもとても

 

 

 

たいへんたいへん

 

 

 

あなたに感謝しています

 

 

 

あなたを愛していました

 

 

 

ありがとう!

 

 

 

 

お母さん