ウィニコット『子どもはなぜあそぶの』について――その4
(星和書店2009年5月刊『子どもと家族とまわりの世界(下)子どもはなぜあそぶの』猪股丈二訳より。引用は特に断り書きのない限り本書からです。)
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速読の効果と気づき―22
誰でも財産を持っている。ただ、ぼくがそのことに気づいて本気で有効活用しようとしだしたのは、最近のことだ。この財産はお金でもなければ資産でもない。なーんだ、とがっかりしないで欲しい。この財産とはぼくの幼い日の記憶だ。これを一日にひとつ思い出すことにしている。これは若き日に芹沢俊介さんのアドバイスを受けてはじめたことだ。思い出したらパソコンの日記に書き留めておく。もう半世紀も続けてきた。最近その有効活用法を思いついたのだ。そこで思い出した幼児期の記憶をもとにして絵本の原作のネタにしてみることにしたのだ。こうすれば少なくともネタ不足に悩むことはなくなる。これはもしかしたら大変な財産を掘りだしたのではないか、と歓んだ。この財産はだれでももっている。使うか使わないかはその人の自由だ。
☆新たに生まれた子どもたちは、母親が築きあげた物事の秩序を脅かすものとなるでしょう。
第十八章 子どもたちの基準とあなた方の基準
人はだれでも、理想や基準をもっているものです。家を建てる人はだれでも、家の全体像、図柄、家具・食卓の配置などについて、それぞれの考えをもっています。たいていの人は、予算の範囲内でどんな家をもちたいのか、また町と田舎のどちらに住みたいのか、どんな種類の映画なら見に行く価値があるのか、などをよく知っています。
あなた方は結婚した時に、「これからは自分の好きなように生きられる」と感じたことでしょう。
ことば集めをしている五歳の女の子が、「犬は自分から家に帰った」と誰かが言っているのを聞いて、そのことばを借用しました。彼女は翌日、「今日は私の誕生日なの、だから自分で好きなようにしなきゃいけないの」と私に言いました。さて、あなたは結婚した時、その少女のことばと同じように、「さあ、やっと自分の好きなようにできる環境で暮らせるわ」と感じたことでしょう。よくお聞きなさい。あなたが自分の思い通りにするということは、必ずしも姑の考えよりよいとは限りませんが、それはあなたのものであり、そのことが全く違った意味をもたらすのです。
あなたか自分の部屋やアパート、あるいは家をもったとしたら、自分でしたいと思っているやり方ですぐに部屋を整え、装飾にとりかかることでしょう。新しい力―テンを取り付けては、自分の家を見てもらうために人々を招待することでしょう。大切なことは、あなたが周囲の物の中にあなた自身を表現する行為をなしとげたということです。あなたは、自分がことを運んだやり方に、自分でも驚くかもしれません。あなたは明らかに、この自分を表現することのために、今まで練習をつんできたのです。
結婚して間もない頃に、あなたが些細なことで夫と口論をしたことがなかったとしたら、それは幸運なことです。おもしろいことに議論は、ほとんどいつも、これが良いとかあれが悪いとかということで始まるものですが、本当にやっかいなことは、あの小さな女の子の言うように、「自分で」という意向の不一致によるものなのです。このじゅうたんは、あなたが買ってきたか選んだか、あるいは安く求めてきたものなら、あなたにとっては良いものであり、夫が選んだものならば、夫の見方からすると良いものなのです。では一体どうすればあなた方二人が、それをともに選んだのだと感じられるでしょうか。幸運にも愛し合っている人たちは、しばらくの間は自分たちの意向をある程度まで「一致」させることができますので、ほんのしばらくの間はすべてうまくいくことでしょう。そして厄介なことから脱け出す一つの方法として、妻は自分のやり方で家庭を管理し、夫は自分の思い通りに仕事をするという考え方に、おそらく無条件で同意す
ることでしょう。「英国人の家庭は妻の城」ということばは、よく知られている通りです。妻が家庭を自分のものとし、責任をもって管理しているのを、夫は家にいて見るのが好きなのです。しかし夫は、妻が家庭で自ら進んでやっている仕事に匹敵するような仕事をもっていない場合があまりにも多いのです。夫が自分の仕事に生きがいを感じていることはあまりにも少なく、職人として、小売店主として、事態はますます悪くなっており、度量の狭い男性たちは概して手も足も出なくなっている傾向にあります。
主婦になりたがらない女性について言えば、彼女はある一つのことを見落としているように思われます。つまり家庭以外のどこにも、女性がそのように支配できる場所はないのだということを。もし彼女に自分自身を成長させ、自己の全体を見つめていく勇気があるなら、自由のえられるのは家庭の中だけだということに気付くでしょう。実際にすばらしいことは、結婚すると新しい家かアパートに住むことができることです。そうすることによって身近な人と顔をつきあわせて衝突することもなく、自分の母親とくっつきあうこともなく、自分の好きなように振る舞えるのです。
どの赤ん坊もそうですが、自分のやりたいようにやりたがる時には、いつも何とも厄介なことになるものです。私はそのことを説明しようとして、この話をしているのです。赤ん坊は、自分のやりたいようにやりたくて、ものごとをめちゃくちゃにしてしまいます。そうすると、大したことではないという人は誰もいません。このめちゃくちゃさは若い女性が自分自身の意志で自分のすることに対する新たに見い出した精神の自立であり、新しく勝ちとった自尊の念でもあるのです。子どもをもちたがらない女性もいます。というのは子どもをもつことで、何年も待ち望み計画してやっと手に入れた、その女性なりの勢力範囲が重要な意味をもたなくなるとしたら、結婚の価値は大部分失われるように思えるからです。
ここで、若い妻が自分の家庭をどうにかうまくきりもりするようになり、そのことを誇りに思い、また自分自身の運命を切り開いていくにつれて、自分とは一体どういう者なのかに気づき始めていると仮定してみましょう。そうした彼女が小さな子どもをもった時にどんなことが起こるでしょう。妊娠した時、彼女には他に考えることが沢山あるので、自分が新たに見い出した自立を赤ん坊が脅かすなどとは、必ずしも考えるゆとりはないと思います。赤ん坊が生まれるということを考えると、それはもうすばらしいことで、ワクワクしたり、興味をそそられたり、力づけられたりもします。いずれにしろ子どもは、母親である自分のやり方に合うように育っていくに違いないし、自分の勢力範囲の中で、その成長を楽しめることだろうと彼女は思っていることでしょう。そこまではそれでよいし、それに赤ん坊は自分の生まれた家庭から、文化や行動のパターンをいくつか身につけていくと考える点では、もちろん彼女は正しいのです。しかしさらに言っておかなければならないことがあり、しかもそれは非常に重要なことなのです。
生まれたばかりの赤ん坊は、ほとんど生まれたその時から、自分自身の考えをもっています。あなたが子どもを十人生んだとしても、同じ家庭の中であなたのしつけによって成長するにもかかわらず、二人として似ている子どもはいないことがわかるでしょう。十人の子どもたちは、あなたの中にもそれぞれ違った十種類の母親を見ることでしょう。そのうち一人について見た場合でさえ、その子はあなたのやり方を見て、時にはやさしく美しいお母さんだと思い、また部屋の暗い時とか夜に夢にうなされた時にはあなたが子どもの様子を見るために部屋に入った瞬間、あなたを竜か魔女あるいは恐ろしく危険なものだと思ったりすることでしょう。
大事なことは、あなたの家に新しく生まれてくる子どもたちそれぞれが、世界についてその子なりの見方をもっており、自分の小さな世界を思いのままにしようとする要求をもっているのです。したがって生まれた子どもたちそれぞれが、あなた自身が築きあげたものや、注意深く作られうまく維持されている物事の秩序を脅かすものとなるでしょう。私は、あなた方が自分のやり方をどんなに大事にしているのかを知っていますので、あなた方を気の毒に思うのです。(15~20頁)
☆Comment
「大事なことは、あなたの家に新しく生まれてくる子どもたちそれぞれが、世界についてその子なりの見方をもっており、自分の小さな世界を思いのままにしようとする要求をもっているのです。」という文章に着目します。大なり小なり、子どもはそれらの要求を削られながら育ちます。ところが大きくけずられ、ほとんど自分の要求を受け入れられてもらえないで、ときには殴られたりして育った子どもはどうなるのでしょうか。とんでもない不幸がその子の行く末に待っているように思われます。
(この項つづく)
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