教行信証の読み下し分と訳文――その75

 

 

 

☆、〈覚った方々〉は〈覚り〉を獲得しても、あえて獲得せず、装飾も無い国土にとどまる。

 

○読み下し分 『顕浄土真実教文類二』その62

 (聖教電子化研究会より引用)  聖典187頁

 81律宗の用欽の云わく、今もし我が心口をもって、一仏の嘉号を称念すれば、すなわち因より果に至るまで、無量の功徳具足せざることなし、と。已上

 また云わく、一切諸仏、微塵劫を歴て実相を了悟して、一切を得ざるがゆえに、無相の大願を発して、修するに妙行に住することなし。証するに菩提を得ることなし。住するに国土を荘厳するにあらず。現ずるに神通の神通なきがゆえに、舌相を大千に遍くして、無説の説を示す。かるがゆえにこの経を勧信せしむ。あに心に思い、口に議るべけんや。私に謂わく、諸仏の不思議の功徳、須臾に弥陀の二報荘厳に収む。持名の行法は、かの諸仏の中に、また須らく弥陀を収むべきなり、と。已上

○『教行信証講義』 山邊習學 赤沼智善 共著発行所 無我山房 平楽寺書店 初版発行 大正3年6月25日                底本  昭和6年5月1日発行 第13版より引用

【字解】一。用欽 宋の人、銭唐の七宝院に住す。元照律師に従いて律を学び、弟子にいうよう、「生きては律を弘め、死して弥陀の浄土に生れるであろう」かくて心を浄土に専〈もっぱら〉にして日課念仏三万遍に及んだ。ある日、心、浄土に遊びてその荘厳を拝したが、侍者に云うよう「我明日西方浄土へ往生するであろう」と、果して翌日に至り、合掌して西に面し、結跏趺坐して逝く。

 二。嘉号 よきみな、南無阿弥陀仏の名号のこと。

 三。微塵劫 上五七三頁の塵点劫に同じ。

 四。無相の大願 諸法の実相は無相なりと知った上に、起し給う大願のことであって、こうこういう願であると指し示すことの出来ない大願である。無相であるから、その儘無量相である。仏知見に依って起し給う凡夫の思慮を絶した大願のことである。

 五。無住の妙有 無住というは握るべき実体のないことであって、凡夫の考うるような、励んだり、積んだりする掴みどころのある行体のあるものに非ず、行を行ずれども、その行が行うたとおり滞らず、しかもその儘一切行に円融する妙行のことである。

 六。無得の菩提 不可得の菩提。得た得たと握ることの出来ぬ菩提の妙果。(1-587)

 七。非荘厳の浄土 凡夫の思うて居るような、ぴかぴかと粧り立てられた浄土ではない。無相にして無量相の荘厳ある浄土。

 八。二報荘厳 依報荘厳と正報荘厳と。

 【文科】用欽律師の釈文を引き給うのである。この律師の書は今に伝〈つたわ〉らず、僅かに『楷定記』等にその鱗片見〈あらわ〉るのみである。

 【講義】律宗の用欽師(この人も元照律師の弟子)の云く、今もし我が心に弥陀の名号の謂れを聞信〈ききひら〉き、口に弥陀一仏の嘉号を称うれば、その仏の因位より果上に至る無量の功徳は、その名号を封じ籠められて、残らず我身に与え具足〈そな〉えて下さるのである。已上

 また云く、一切諸仏は微塵劫という長い間の修行を了〈お〉えて真如実相の理を了悟〈さと〉られた。さてこの真如の理を悟って見ると、すべて本来法爾として有りのままで、別に取り立ててどうという握〈つか〉み処はない。一切が不可得である。積むべき行もなければ、度〈すく〉うべき衆生もない。一切万物処をかえず、そのまま実相である。その仏知見から起さるる願であるから凡夫が考えているようなどうのこうのという有相の願でない。全く言葉を離れ、思慮〈おもい〉を絶した無相の大願である。妙行を修めてもその通りで、これだけの行を励んだ、功徳を積んだ(1-588)というて、励んだり積んだりする実体のある行でない。無自性の行を修める。そしてその無相の願、無住の行を因として獲る菩提であるから、証る菩提も空不可得である。故にその住する所の国土も、凡夫の思うような荘厳でなくして、無相の荘厳である。また神通を表わしても、凡夫の思うような神通ではなくして、所謂無神通の神通。舌相を以て大千世界を覆い、この『阿弥陀経』を信ぜよと一切衆生に勧めても、無説法の説法である。諸仏の自内証はかように絶対不可思議なもので、その境界は吾々凡夫の到底心に思量〈おもいはか〉ることの出来ないものである。

 これに就いて私は思う、上に申したような諸仏の不可思議の功徳なるものは、同時に阿弥陀仏の極楽の依報正報の二荘厳に収まり、それがまたその儘弥陀の名号を信じ称える行法に収ってしまう。さればこの名号を称えることは、実に広大無限の功徳を獲ることである。無論これを反対から云えば、仏々平等の理〈ことわり〉によりて、諸仏の名号の中に、弥陀の名号も収められるということも出来るが、併しこれは当面の問題ではない。

 

○訳文(鈴木大拙の英訳にもとづく現代日本語訳親鸞『教行信証』・東本願寺出版より引用) その75  本文63~64頁

 

「『戒律』の学派に属する用欽(ようきん)は〔次のように〕言う。

 私が、心と口で、一人の〈覚った方〉の〈慶(よろこ)ばしい名(みな)〉を称えると、因果から生ずる数多(あまた)の価値あるものが、自ずと具(そな)わるのだ。

 

また、〔次のようにも〕言う。

 すべての〈覚った方〉は、無数のカルパを経た後、〈真実の本体〉を把握する。〈把握〉とは〈把握しないこと〉、だから、〈覚った方々〉は大いなる《悲願》を起こしても、それを実体化しないのだ、すなわち、稀有(けう)な行いのすべてを実践しても、そこに留(とど)まらず、〈覚り〉を獲得しても、それを獲得せず、如何なる装飾も無い国土に留(とど)まる、そして、奇跡的な力を発揮しても、その力は少しも奇跡的ではない。その上で、〈大いなる十億の世界〉を覆い尽くす〔類(たぐい)希(まれ)な〕舌を駆使して、言語を用いず演説し、この『経典』を信頼するよう、すべての者に勤めるのだ、これは実に想像を絶していて立証は不可能だ。愚見であるが、すべての〈覚った方〉の計り難(がた)い価値はアミダの体と彼の国が有していて、他のすべての〈覚った方〉の〈名(みな)〉を保持する修行もまたアミダを源泉とするのだ。」

 

☆Comment

 

「〈覚った方々〉は大いなる《悲願》を起こしても、それを実体化しない。」とか「〈覚った方々〉は〈覚り〉を獲得しても、あえて獲得せず、装飾も無い国土にとどまる。」とか難しい仏教哲学の論理展開です。

だからといって、ここで挫折するわけにはいきません。どうしたらいいのでしょうか。禅の公案の解き方にヒントがありました。公案で問われていることを意味で考えていくと、いい答えがでません。

そのとき、公案の中身を自分の中でイメージしてみるといいそうです。それを答えとして言うと独自の答案となって、いい答案になりやすいそうです。これは応用がききます。

それをここでも応用してみましょう。悲願を起こしても実体化しないとか、覚りを獲得しても、それを獲得せず、装飾も無い国土にとどまる、という言葉をもとに、じぶんのなかでイメージ化してみるのです。

 ぼくには何もない地にしずかに立つ若い僧侶の姿が浮んできました。

 

 

(この項つづく)

 

 

源氏物語の登場人物の性格》その242

 

 

(国民の文学3源氏物語上 与謝野晶子訳 河出書房新社 昭和39年刊より引用)

 

☆『源氏物語』の性格描写

 

○源氏は左大臣邸で我が子と会い、左大臣に須磨行きを告げる。

 

「『長く見ないでいても父を忘れないのだね』

と言って、膝の上へ子をすわらせながらも源氏は悲しんでいた。左大臣がこちらへ来て源氏に会った。」(須磨・212頁)

「あなたの御失脚を拝見して、私は長生きをしているから、こんな情けない世の中を見るのだと悲しいのでございます。末世です。天地をさかさまにしてもありうることでない現象でございます。何もかも私はいやになってしまいました」

 としおれながら言う大臣であった。

「何事もみな前世の報いなのでしょうから、根本的に言えば自分の罪なのです。私のように官位を剥奪されるほどのことはなくても、勑勘の者は普通人と同じように生活していることはよろしくないとされるのはこの国ばかりのことでもありません。私などのは遠くへ追放するという条項もあるのですから、このまま京におりましてはなお何らかの処罰を受けることと思われます。冤罪であるという自信を持って京にとまっていますことも朝廷へすまない気がしますし、今以上の厳罰に会わない先に、自分から遠隔の地へ移った方がいいと思ったのです」などとこまごま源氏は語っていた。(須磨・212~213頁)

 

☆辞書・事典から

 

勑=みことのりする。勅命を下す。

勘=考え合わせる。つき合わせて調べる。 罪を調べただす。 直感。第六感。

 

光源氏の子女=冷泉帝(れいぜいてい) - 桐壺帝の第十皇子。実際には光源氏と藤壺中宮の男子。

夕霧(ゆうぎり) - 光源氏の長男(実際の長男は冷泉帝)。母は葵の上。引用文に登場している幼な子。

明石中宮(あかしのちゅうぐう、明石の姫君、明石女御 とも) - 光源氏の長女。母は明石の方。紫の上の養女となる。匂宮の母。

薫(かおる、薫君(かおるのきみ)とも) - 表向きは光源氏と女三宮の次男であるが、実の父は柏木。

 

☆Comment

 

源氏は朱雀帝(源氏の異母兄)が愛する右大臣の娘の朧月夜と寝ているところを、右大臣に発見されてしまいました。それを聞いた皇太后が怒ってしまいました。そのため源氏は自ら京を出て、須磨にいくことを左大臣に告げたのです。

 

 

(この項つづく)

 

 

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