芹沢俊介の『親鸞で考える相模原殺傷事件』
その48
東京一組よにん会2017年8月10日発行の冊子(真宗大谷派 東京教区 東京一組 教化委員会編集 東京都台東区浅草1-9-3 円照寺)
☆存在自体が悪なら、悪人正機になり、障害者たちこそが救済の正機と言えるようになる。
「 おわりに
芹沢 今回、存在自体が悪とみなされてしまうような時代になってきたということを、まさに彼がはっきりと示してしまいましたね。明らかにそういう時代に既になってはいた、それを薄々感じていたんだけど、見えないところに押し隠して生きてきた。ところがあれほど露骨に心の内をひっくり返して見せられてしまったら、どうしたらいいのか。『障害者は不幸しか作らないからこの世の中に必要ないという考え方は、全人類が心の片隅に持っている想いだ』と彼は言ったわけですが、私たちがはっきりと彼と別れるには、道は一つです。『確かにそうだ、君の言うとおりだ』と言うしかないんですよ。そういうことによってしか別れられない。いくら『違う』と言ったって『いや、そんなことは思っていない』と言ったって、別れられないのです。
彼の言動は、我々の神話時代からの歴史に裏打ちされているし、遺伝子の中にかっちり組み込まれてしまっているし、実際そういうことをやってきたし、今もやっている。だから『その通りだよ』と言うことによってかろうじて『お前とは違う』と言える道がひらかれるような気がします。
でも『その通りだよ』とはっきり言えた人というのはいない。新聞で識者の方々の談話を丁寧に読んできましたが、ほとんどの人が、ということは私の目にした談話のすべてがということですが、自分の外側の問題として扱っています。それは寂しいといえば寂しい。
『その通りだよ』と悪びれず且つためらいなく言い切るには、親鸞の『歎異抄』の言葉はバックボーンになるだろうと思いました。『その通りだよ』と言い切れたなら、親鸞の言葉を支点に反転できるのです。存在自体が悪だとすれば、まさに悪人正機というところに立てるわけで、『あの人たちこそが救済の正機なんだよ』と言えるところに立てるのだと思えるのです。」(123~124頁。本文終り)
☆辞書・事典から
バックボーン=背骨。人の生き方・信条などを貫いてゆるがないもの。しん。
悪人正機=悪人こそまさしく阿弥陀仏の本願に救われる対象であるということ。親鸞の説いた,浄土真宗の根本的な思想。「歎異抄」の「善人なほもて往生をとぐ,いはんや悪人をや」という言葉に端的に示されている。浄土教の教えを示す語。阿弥陀仏の願は、自力で悟ることのできない悪人を救うのが目的だから、悪人こそ往生するのにふさわしい人間(機という)であるとの意。法然や親鸞が説いた。親鸞の『歎異抄』に「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」とあり、同義の語が法然にもある(醍醐本『法然上人伝記』)。だが、これは仏の慈悲心をいったもので、人間が自ら犯罪者になってはいけない。ために法然は「好みて悪をつくること、これ仏の弟子にはあらず」(『十二箇条問答』)といい、親鸞も「薬あればとて毒を好むべからず」(『歎異抄』)と諭した。
☆Comment
この「おわりに」の文の論旨も鋭いものがあります。障害者は不幸しか作らないからこの世の中に必要ないという考え方は、全人類が心の片隅に持っている想いだということばにたいして、そのとおりだと言うことによってはじめて別れる道が開かれるというのです。そのとおりだと言い切れたなら親鸞のことばを支点に反転できるといいます。障害者こそが救済の正機なんだと言えるところに立てるというのです。なんと奥行きがあって、深い響きがある思想者の言葉ではないでしょうか。
(この項つづく)
源氏物語の登場人物の性格》その236
(国民の文学3源氏物語上 与謝野晶子訳 河出書房新社 昭和39年刊より引用)
☆『源氏物語』の性格描写
○激怒した皇太后は、源氏を政界から追放しようと画策する。
「太后のご機嫌は直りもせず、源氏に対する憎悪の減じることもなかった。皇太后である自分もいっしょに住んでいる邸内に来て不謹慎きわまることをするのも、自分をいっそう侮辱してみせたい心なのであろうとお思いになると、残念だというお心もちが募るばかりで、これを動機にして源氏の排斥を企てようともお思いになった。」(榊・207~208頁)
☆辞書・事典から
「榊」は「賢木」(さかき)とも書く。、『源氏物語』五十四帖の巻名のひとつ。第10帖である。
光源氏23歳秋9月から25歳夏の話。
源氏との結婚を諦めた六条御息所は、娘の斎宮と共に伊勢へ下ることを決意する。紫の上と結婚した源氏も、さすがに御息所を哀れに思って秋深まる野の宮を訪れ、別れを惜しむのだった。
御息所母娘の伊勢下向からしばらくして、すでに15歳になっていた、紫の上の裳着を執り行い、紫の上は一人前の女人となった。
斎宮下向から程なく、桐壺帝が重態に陥り崩御した。源氏は里下がりした藤壺への恋慕がますます止みがたく忍んでいくが、藤壺に強く拒絶される。事が露見し東宮の身に危機が及ぶことを恐れた藤壺は、源氏にも身内にも知らせず桐壺帝の一周忌の後突然出家した。悲嘆に暮れる源氏は、右大臣家の威勢に押されて鬱屈する日々の中、今は尚侍となった朧月夜と密かに逢瀬を重ねるが、ある晩右大臣に現場を押さえられてしまう。激怒した右大臣と弘徽殿大后は、これを期に源氏を政界から追放しようと画策するのだった。
☆Comment
いよいよ、源氏が追い詰められる展開になってきました。主人公が危ない目に遭わなければ、読者もハラハラドキドキしませんものね。
(この項つづく)
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