ウィニコット『赤ちゃんはなぜなくの』について――その10
(星和書店2013年11月刊『子どもと家族とまわりの世界(上)赤ちゃんはなぜなくの』猪股丈二訳より。引用は特に断り書きのない限り本書からです。)
☆赤ん坊は目覚めから、おなかを満たしたいという衝動へと、すさまじい勢いで移り変わる。
「あなたと赤ん坊との早期の接触で最も印象的は部分は、赤ん坊に授乳する時、つまり赤ん坊が興奮している時です。その時は、あなたの気分も高揚し、オッパイを与える準備の整ってきたことを感じるでしょう。これは、有効な刺激であることを物語っています。最初に赤ん坊があなたの気分の高まりを当然のことと思うことができれば、赤ん坊は幸運です。赤ん坊は、自分自身の衝動や欲求が生じると、それを思い通りにすることができるからです。というのは、気分が高まるにつれて興奮が生じてくるという感情に赤ん坊が気付くということは、大変な驚きだからです。」(第二章 あなたの赤ん坊を知ること 22頁)
「あなた方は、赤ん坊がどのような状態にいるのかを知らなければ、赤ん坊を助けることはできません。赤ん坊は、満足した眠りや目覚めから、おなかを満たしたいという貪欲な衝動へと、すさまじい勢いで移り変わるために、あなた方の助けを必要としているのです。このことは、日常の仕事とは別の母親としての最も重要な仕事であると言えるでしょう。生まれたばかりの赤ん坊を養子にもらったよい母親は別として、普通は実母のみがもっているような多くの技量が要求されるのです。」(第二章 あなたの赤ん坊を知ること 23頁)
☆Comment
はじめての授乳の瞬間の母親の高揚を男は知ることができません。男は子育ての感動を母親ほどに感じることができません。男と女との違いのとても大きな場面がそこにあることに気づかされます。
(この項つづく)
源氏物語の登場人物の性格》その235
(国民の文学3源氏物語上 与謝野晶子訳 河出書房新社 昭和39年刊より引用)
☆『源氏物語』の性格描写
○尚侍(ないしのすけ=朧月夜)の座敷に源氏がいるところを政敵の右大臣が見つけてしまう。
「それはだれが書いたものですか、へんなものじゃないか。ください。だれの字であるかを私は調べる」
と言われて振り返った尚侍は自身もそれを見つけた。もう紛らわす術はないのである。返辞のできることでもないのである。
典侍が失心したようになっているのであるから、大臣ほどの貴人であれば、娘が恥に堪えぬ気がするであろうという上品な遠慮がなければならないのであるが、そんな思いやりもなく、気短なおちつきのない大臣は、自身で紙を手で拾ったときに几帳(きちょう)のすきから、なよなよとした姿で、罪を犯している者らしく隠れようともせず、のんびりと横になっている男も見た。大臣に見られてはじめて顔を夜着の中に隠して紛らわすようにした。大臣は驚愕した。無礼だと思った。口惜しくてならないが、さすがにその場で面と向かって怒りを投げつけることはできなかったのである。目もくらむような気がして歌の書かれた紙を持って寝殿へ行ってしまった。典侍は気が遠くなって行くようで、死ぬほどに心配した。源氏も恋人がかわいそうで、不良な行為によって、ついに恐るべき糾弾を受ける運命が回って来たと悲しみながらもその心もちを隠して典侍をいろいろに言って慰めた。
大臣は思っていることを残らず外へ出してしまわねば我慢のできないような性質であるうえに老いのひがみも添って、ある点は斟酌して言わない方がよいなどという遠慮もなしに雄弁に、源氏と典侍の不都合を太后に訴えるのであった。」(榊・206頁)
☆Comment
読んでいてドキドキしますね。源氏がみずから招いたこととはいえ、こまり切ってしまう主人公の姿に、読者はいっそう物語に引きこまれていきます。
だれも道ならぬことと知りながら、踏み迷って進んでしまったことのひとつやふたつはあるのではないでしょうか。そこで無事に済んだひとも、手ひどいしっぺ返しをうけた人もいるのではないでしょうか。
人生の危機に源氏が遭遇して、読者もいっしょになって、どうなってしまうのだろうと心配します。物語はこうでなくてはいけません。
(この項つづく)
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