教行信証の読み下し分と訳文――その71

 

 

 

☆命を終える際、アミダの名を称えれば、慈しみの光明が降り注いで、その者を包み込む。

 

○読み下し分 『顕浄土真実教文類二』その58

 (聖教電子化研究会より引用)

聖典186頁6行目~186頁9行目まで

77また云わく、正念の中に、凡人の臨終は識神、主なし。善悪の業種、発現せざることなし。あるいは悪念を起こし、あるいは邪見を起こし、あるいは繫恋を生じ、あるいは猖狂悪相を発せん。もっぱらみな、顛倒の因と名づくるにあらずや。前に仏を誦して、罪滅し、障除こり、浄業内に熏じ、慈光外に摂して、苦を脱れ楽を得ること、一刹那の間なり。下の文に生を勧む、その利、ここにあり、と。已上

 

○『教行信証講義』 山邊習學 赤沼智善 共著発行所 無我山房 平楽寺書店 初版発行 大正3年6月25日                底本  昭和6年5月1日発行 第13版より引用

 

【字解】一。繋恋 思いをかけ恋いしたうこと。

 二。猖狂 気のくるうこと。

 二。浄業 浄土参りの業因。

 【文科】元照律師の文のうち、往生の利益を勧むる文を引き給うのである。

 【講義】また云く、臨終正念に就いて云えば、一般に人の臨終の場合には、平生と違い識神〈こころ〉が主〈あるじ〉の資格を失うて、まるで空家同様となる。この時潜〈かく〉れておった善悪の業が空家に出る怪物〈ばけもの〉のように、擅〈ほしいまま〉に飛び出して荒回〈あれまわ〉る。何を云うても平生は悪業ばかり造っていることであるから、立派な思念は起らぬ。嫌〈いと〉わしい悪念が起る、恐ろしい邪見が起る。或いは妻子財宝に恋著し、または心身の悩みから発狂して狂い回わるという悪相を示すこともある。中々一通りや二通りでない。みなこれ心の顛倒した有様である。然るに平生の時に名号の謂れを聞信〈ききひら〉き、称名念仏して、罪は滅ぼされ、障りは除かれ、念仏の利益は内心に薫じつき、摂取の慈光は外から擁護〈おまも〉り下さるる身になれば、一刹那の間に苦みを脱れて、往生の楽みを獲ることが出来る。『阿弥陀経』の下の文に、釈尊が「我この利益を見るが故に、かよ(1-578)うに浄土へ往生せよと説くのである」と御勧め下されたのは、上に述べたような利益があるからである。

 

○訳文(鈴木大拙の英訳にもとづく現代日本語訳親鸞『教行信証』・東本願寺出版より引用) その71  本文 61頁

 

 〈正しき念(おもい)〉を巡って考えるに、凡人は命を終える際、心を統(す)べることに躓く。その眼前には、善悪を問わず、あらゆる妄念の種子が発芽して姿を見せる。ある時は邪(よこしま)な念(おもい)、ある時は誤った考え、ある時は執(と)らわれた心、ある時は狂気の沙汰(さた)となり、みな常軌を逸する因となる。ところが〈覚った方〉を念じる者となって、その方の〈名(みな)〉と称えれば、罪は消え去り、邪魔をするものも無く、汚れ無き行いが心に芳香を薫じ、アミダの慈しみの〈光明〉が降り注いで、その者たちを包み込む。こうして、時を置かずに、苦悩から解放され幸福を享受する。そこで、「〈再生〉を希求し、その強みを請け合うように」と、ここには説かれているのだ。

 

☆Comment

 

 命を終える際の凡人と、アミダを念じ、その名を称えるものとの差異を述べています。

 

 

(この項つづく)

 

 

源氏物語の登場人物の性格》その222

 

(国民の文学3源氏物語上 与謝野晶子訳 河出書房新社 昭和39年刊より引用)

 

☆『源氏物語』の性格描写

 

○藤壺への源氏の返歌

 

「月影は見し世の秋に変らねど

 

隔つる霧のつらくもあるかな」(榊・198頁)

 

☆辞書・事典から

 

つらく=人の心を汲(く)もうとしない。つれない

 

訳=月の光はかつて見た秋と変わりませんが、隔てている霧のようにあなたの心がつれなく感じられるのです。

 

 藤壺は霧を世間の不穏な情勢にたとえており、源氏は藤壺自身の冷淡さを霧にたとえているところからすると、隔てている対象が二人で異なっていますね。

 

☆Comment

 

 藤壺はじぶんと源氏との子である東宮の行く末を案じているのに、源氏は藤壺の自分への態度のつれなさを詠っています。ふたりの感情がすれちがっているのを、作者は巧みに表現しています。

 

 

(この項つづく)

 

 

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