フロイトの夢理論 その85
テキストはフロイトの『夢判断・上』(平成23年四版・日本教文社刊)です。引用も特に断り書きのないかぎり、本書からです。
☆悩み多き流浪の人の見る夢は、故郷に近づくと裸で、ほこりまみれだ。
「ホメロスの中に、オデュセウスが裸で、泥まみれになって、ナウジカーとその友だちの前に出てくるところがありますね。私は、あなたがこのオデュッセウスの状態の中に含まれている、選り抜きの、辛辣な真理を実際にはっきりと感じとるようなめぐり合せになればいいがなどと願っているわけでは決してないのです。けれども、これがいったいどういうことなのか、知りたいとおっしゃるのですか。このホメロスが描いてくれたお手本を、よく検討してみましょう。もしひょっとしてあなたが故郷を離れ、あなたの親しんできたいっさいのものから別れて、異国の空の下をさまよい歩くと仮定してみましょう。あなたはいろいろと見もし、聞きもなさった。心配もあれば、苦労もおありになる。まことにみじめで、頼る人とてない。そうなったら、きっとあなたは夜中に、疑いもなくこんな夢をご覧になるだろうと思うのです。つまり、あなたが一歩一歩故郷に近づいて行くという夢をね。夢の中の故郷の町は、この上もない美しい色に照り輝いているし、やさしい、美しい、なつかしい人たちの姿が、あなたの方へ向かって歩みよってくる。すると、突然、あなたは自分がみっともない風をして、裸で、ほこりまみれになって歩いていたということに気づくのです。何とも言い現わしのない恥かしさと不安とがあなたをとらえる。あなたはからだをかくそう、どこかへ隠れようとなさる。とその時、あなたは汗をぐっしょりかいて眼を覚ますという段取りなのです。この世に人間がいるかぎり、これが悩み多き流浪の人の見る夢なのです。そんなふうにホメロスは、人間というものの最も深い永遠の本性をもとにして、あのオデュッセウスの境遇を作りあげたのです。」(292~293頁)
☆辞書・事典から
ナウシカアー(古代ギリシア語: Ναυσικάα / Nausicaä ; 現代ギリシャ語: Ναυσικά)は、ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』に登場するスケリア島の王女。父はパイアーケス王アルキノオス、母はアーレーテー王妃。
ホメーロス作『オデュッセイア』において、主人公オデュッセウスはトロイア戦争からの帰途、幾多の苦難の果てに故郷イタケーに帰り着く。その直前に立ち寄った島が、ナウシカアーの住むスケリア島(英語版)である。スケリア島は、現在のケルキラ島(コルフ島)であるといわれる。
一つ目巨人ポリュペーモスから逃れたオデュッセウスだったが、ポリュペーモスの父ポセイドーンの怒りに触れ、乗っていた筏は嵐に吹き飛ばされてしまう。オデュッセウスは、身に纏うものもひとつとしてない状態でスケリア島の海岸に漂着したところをナウシカアーに救われる。ナウシカアーはオデュッセウスを王宮に招き入れ、身だしなみを整えさせる。立派な姿となったオデュッセウスを見たアルキノオスは、オデュッセウスがこのままとどまり、ナウシカアーを妻としてくれればよいと考え、ナウシカアーもまたオデュッセウスに好意以上の気持ちを抱く。しかし、オデュッセウスがイタケーの王であり、かつ妻ペーネロペーが待つイタケーへ帰りたがっていることを知ったナウシカアーは、オデュッセウスを船に乗せ、イタケーへと送り出す。別れに際して、ナウシカアーは国へ帰ってもいつか自分のことを思い出して欲しいと告げる。
☆Comment
ぼくは詩や童話を書いています。そのために本書を読み込むことは重要だとあらためて感じます。人の心の奥や襞に隠されている心理が物語を作るときに重要な役割を果すことがあるからです。夢も無意識が育んで人に見させるものです。それと多くの文学作品のモチーフは重なることがあると、ぼくはおもいます。
(この項つづく)
源氏物語の登場人物の性格》その218
(国民の文学3源氏物語上 与謝野晶子訳 河出書房新社 昭和39年刊より引用)
☆『源氏物語』の性格描写
○源氏が朝顔の君(斎院)に贈った歌
「かけまくも畏けれどもそのかみの
秋思ほゆる木綿襷(ゆふだすき)かな」「(榊・195頁)
☆辞書・事典から
齋院=朝顔の姫君。桐壺帝の弟・桃園式部卿宮の姫君で、光源氏のいとこにあたる。名前は、源氏からアサガオの花を添えた和歌を贈られたという「帚木」や「朝顔」の逸話からきており、そこから「朝顔の姫君」「朝顔の斎院」「槿姫君」「槿斎院」などの呼び名がある。五十四帖中「帚木」から「若菜」まで登場。源氏が若い頃から熱をあげていた女君の一人で、高貴の出自のため正妻候補に幾度か名前が挙がり、正妻格の紫の上の立場を脅かした。姫君自身も源氏に好意を寄せているが、源氏の恋愛遍歴と彼と付き合った女君たちの顛末を知るにつけ妻になろうとまでは思わず、源氏の求愛を拒み続けてプラトニックな関係を保ち、折に触れて便りを交わす風流な友情に終始した。朱雀帝時代から斎院を長く続けたため婚期を逃し、そのまま独身を貫き通して出家、物語の表舞台から消える。
木綿襷(ゆふだすき)=木綿(ゆふ)」で作った、たすき。白くて清浄なものとされ、神事に奉仕するとき、肩から掛けて袖(そで)をたくし上げるのに用いた。歌では、「かく」を導く序詞(じよことば)とすることもある。
訳=口にして言うのもおそれ多いことですが、
今は神に仕えるあなたを想った昔の秋が思い出されますよ。
☆Comment
物語を読んでいると、突然登場してきた感じがする朝顔の君ですが、源氏は前から目をつけていて、文のやりとりをしていました。朝顔の君も源氏を憎からずおもっているのですが、源氏とつきあった女性が不幸になった(例・六条の御息所)のをみるにつけ、一線を超えない関係を維持します。
(この項つづく)
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