予期せぬタイミングで即日のリストラ通知をされた。定時に帰れるわけでもなく、遅くまで残業をして、現実味のないまま帰宅したので、その日は職を失った実感はなかった。
翌朝、いつもと同じ時間に携帯電話が鳴った。目覚まし機能を解除し忘れていた。もう会社に行く必要はないのに。
ベッドの中から手を伸ばし、携帯電話をいじってみるが、どうすれば解除できるのか分からない。就職してから、一度もこの設定を解除したことがない。休日も資格の勉強や副業のために同じ時間に起きていたし。
機会音痴ぶりをいかんなく発揮しながら、5分ほどで携帯電話の画面から、時計のマークが消すことに成功。どうやら無事に解除できたようだ。
計画性も何もなくリストラによって退職したので、今後の予定は決まっていない。本来なら、今日も会社に行くはずの日だ。
副業で10万円程度は稼げるようになっていた。それまでの最高月収は12万円台。本業にするには少々心もとない。独身なので、どうにかならないこともないが・・・
一方で、副業は右肩上がりに来ているので、このまま増えていく目算はたっていた。まして、会社で働いていた時間もすべてネットで稼ぐことに回せば、収入は激増していくだろう、と。
ただ、2年近くサラリーマンをやっていた習性なのか、いきなり自由だと言われても不安が残る。10万円の月収で安心しろという方が無理があるか。
とりあえずリクナビの画面を開いて、次の就職先の候補を眺めてみたりもした。そう言えば、最初の会社もリクナビで見る限りは普通の会社だった。パワハラは日常化しているし、上司は機能していないし、その日のうちのリストラも横行していたが、ブラック感は見せていなかった。
それどころか、この時にもリクナビで検索したら出てきた。さすが常時募集の会社。社員みんな仲がいいらしい。誰のことだ?
内容がブラックであっても、自らブラック企業であることを明かすはずなどない。そうなれば、いくらリクナビの画面を注意深く見たところで実態は分からない。少なくとも、私には推測できそうにない。
社会から取り残されたような不安、ついに副業を本業にできる期待、退職届を叩きつける機会を失った無念さ、平日の朝からの手持ち無沙汰な感覚。様々な感情が混ざって整理できず、煮詰まった私はとりあえず外に出た。
歩きながら考える。思考したいわけじゃなく、頭の中で様々な思いが嫌でもぐるぐる回る。平日の住宅街を歩いているのは、おばさんと学生ぐらいだ。それでも、駅前に行ったらスーツ姿のサラリーマンも見かけた。
そして、彼らを見た時に感じた。
「もうサラリーマンに戻るのはやめよう。何で会社に勤めて希望があると思ってたんだろう・・・」
歩いているうちに、思いは固まっていった。あふれてくる感情を整理するためにも足を動かせ。とにかく足を。今は迷いを振り切ることだ。