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行きはよいよい 帰りは息切れ。湿った空気が腕にまとわりついて、小さな石ころに足をとられそうになりながらも前に進む。転ばないように足もとに注意していると耳元を通り過ぎる虫の声。歩道のある、整備された樹海の中を歩いていたの。小さな石から大きなごろごろした石までたくさん散らばっていたから、すごく歩きづらくて。歩道を歩きながら、周りを眺めてみる。手の加えられていない場所はとてもじゃないけれど歩けそうにない。一歩そこに入れば足を滑らして転びそうだし、靴が土まみれになりそうだ。死ぬために樹海に入った人はどんな気持ちなんだろう。じわりと汗 をかいた腕をもう片方の腕で撫でながら、考える。辺りは薄暗くて、聞こえるのは鳥のさえずりだけ。生い茂る木に囲まれ、一人きりの世界だ。暗い場所はきっと安心するだろうか。心の中に広がっている黒い感情や表情だって暗さが全部隠してしまうんだ。逃げ出したくてたまらないものや、自分を追い立てるものも、樹海という場所には関係ない。あるのは静かで、孤独な時間だけ。せめて、死ぬときは静かな時間を、そう望んだのかもしれないね。病んでいる人間と、そうでない人間は見ているものは同じでも、見えている世界が違う。だから、薄暗くてうっそうとする場所は安心する場所だろうな。私もかつて、心の避難場所に選んだ場所は真夜中の公園だった。樹海の中の歩道を歩きながら、そんな事を考える。暗さと明るさが、今日も私の中を器用に行き来するの。あぁ、私は病んでいるのだろうか?