3月15日(日)
先月の末に美容院へ行ったときのこと。
いつも美容院で用意してくれる雑誌は読まずに、図書館で借りた本を持参して読んでいるので、読書好きの美容師さんが「今は何を読んでるんですか?」など、声をかけてくれます。
その時は『ボーン・コレクター』の上巻を読んでいました。
「髪を洗いますのでこちらへ」と言われて本を置き、洗髪後に席に戻ってくると「『ボーン・コレクター』って面白そうなタイトルですね」と言われました。
一瞬ぎょっとしたのですが、平静を装い「人気のあるシリーズものの第一巻なんですよ」と言いました。
でも、翻訳すると「骨蒐集家」ってことですよ?
ミステリとして読んでいる私は、骨を収集している連続殺人鬼って怖すぎると思ったのですが、よく考えたら彼女は小川洋子とか川上弘美が好きな人でした。
本当に骨を収集している人の静かで穏やかな小説を想像したのかもしれません。
もし『マーダーボット・ダイアリー』を読んでいた時に「面白そうなタイトルですね」と言われたらどうだっただろう。
ちょっとそんな人に刃物を持って背後に立ってほしくはないな。
だって翻訳したら『或る殺人器官の日記』だよ。
…あれ?ちょっと面白そうかも。
実際面白いんだけどさ。
本日の読書:プラナリア 山本文緒
カバー裏より
『どうして私はこんなにひねくれているんだろう――。乳がんの手術以来、何もかも面倒くさく「社会復帰」に興味が持てない25歳の春香。恋人の神経を逆撫でし、親に八つ当たりをし、バイトを無断欠勤する自分に疲れ果てるが、出口は見えない。現代の”無職”をめぐる心模様を描いて共感を呼んだベストセラー短編集。直木賞受賞作品』
目次
・プラナリア
・ネイキッド
・どこかではないここ
・囚われ人のジレンマ
・あいあるあした
世の中にはこんなにイタイ人があふれているのか、と思ってしまうほど、どこにでもいそうなありふれたイタイ人の話。
自分しか見えない、自分をも見えない。
行きどまりではないはずなのに、どこへもいけない。
乳がんの手術後仕事を辞め、何をする気も起きずに日を送る25歳の春香が主人公の『プラナリア』。
焦燥感と自己憐憫に囚われ、何をする気も起きない春香。
気持ちはわからないでもないけれど。
乳がんだけではなく、病気って予後も大切なのだ。
病気は異常事態、手術も体を切り刻むのだからもちろん異常事態。
それを徐々に、体に負担をかけないようゆっくりと、もとの状態に近いところに戻していくわけだから、手術したからOK、退院したから健康というものではないのだ。
それをわかってもらえないもどかしさは、どれだけうんざりしても、自分で説明して、理解してもらうしかないのだ。
面倒くさがって、自分を憐れんで、八つ当たりをして…助けてくれるはずの手を自分で振り払っているに過ぎないということを、25歳なら気づきなさいよ、と思う。
『どこかではないここ』は、共感する人多いんだろうなあ。
夫がリストラされて生活が苦しくなり、パートで働いている主人公。
大学生の息子も高校生の娘も家にあまり寄り付かず(しかしお金はかかる)、認知症で入院している夫の父親に5日に1回面会に行き、父を亡くして一人暮らししている実母のところには週に何回か弁当を作って持っていく。
お母さんってそういうもの?
私は、誰か一人にすべておっかぶせておいて、何事もなく平穏な家庭の顔をするのは違うと思っているので、「なんで言いたいこと言わずに呑み込んでるのよ!」といらいらしながら読んでいたので、最後は少し溜飲が下がった。
息子がどこまで母の気持ちをわかったかは疑問だけど、娘はきっと「おかあさん、やるじゃん」っていつか思ってくれると思う。
『囚われ人のジレンマ』は、情報不足で、浅丘君の背景がよくわからないけれど、なぜ高校に行かなかったのか、就職せず大学の博士課程まで進んで何をしたいのか、母親がこっそり援助してくれているのはなぜか、恋人の美都にも何も言わないままプロポーズっていうのは、誠意がないかもなあ。
私だったら、「長いことおつきあいをしてきたので情はありますが、愛はなくなってしまったので、結婚はできません」と言いそう。
ただ、浅丘君のセリフ「損の種をまいているのは、往々にして自分なんじゃないかな」は、覚えておきたい。
