6月1日(日)

なんでしょうねえ、今月もまたマンガを除くと20冊読めませんでした。
本人的には、真面目に読書にいそしんでいたつもりなのですが、強いて言えば思いのほか晴天が続き、毎日よく歩いた反動で昼寝が…。

★5つは3冊ですが、小説多めの5月、面白く読めた本が多くて満足。
その中で★2つという初めての低評価作品もありました。
死病と純愛ってテーマだけでは、全然感動できません。
そのテーマに何を載せるかが、プロの作家の腕じゃないの?

『掃除婦のための手引き書』
そういう経験はないんだけど、ちょっとしたバーで知り合った彼女が、タバコをふかしながら人生に起きたいくつかのエピソードを語るのを、「そんなこともあるかもね―」なんて言いながら聞いているような感じの読み心地。伝わる?
淡々と、ぼそぼそと語られる彼女の人生。
いいことも悪いことも、今に繋がっている。

『人喰い鬼の探索』
シリーズの途中の話だし、シリーズ全体で考えても大きなエピソードではないけれど、今までで一番面白かったから★5つ。
人喰い鬼のメリメリには、このくらいのシンプルな理由でも十分わかってもらえるだろう。

『遠巷説百物語』
今となっては京極夏彦のシリーズもののなかで一番好きかもしれない「百物語」シリーズ。
祥五郎が人として正しいと信じる行いが、結局仲蔵たちの仕掛けを成功に導く。
この構成は、初期の山岡百助と又市の関係を髣髴させて、しみじみ好きだなあ。

5月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:7352
ナイス数:655


BANANA FISH (3) (小学館文庫 よA 13)BANANA FISH (3) (小学館文庫 よA 13)感想
え?え?え?アッシュも英二も敵に捕らわれてしまったんだが?そしてアッシュが心から信頼しているショーターがアッシュを裏切らなくてはならない羽目に陥った挙げ句、BANANA FISHを接種され、英二を殺せと刷り込まれてしまった。ショーター好きなんだけど、哀しい未来しか見えん。今後ユーシスがどう動くのか、楽しみ。彼が組織を裏切ることが、アッシュの突破口になるのかな。いや、裏切るのはまだ早いか。
読了日:05月01日 著者:吉田 秋生

掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講談社文庫 へ 11-1)掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講談社文庫 へ 11-1)感想
初読みの作家でしたが、思った以上に楽しめました。ほぼ作者の体験に根ざした作品らしいが、その経歴がまた想像以上。貧困家庭で家族に顧みられないまま育ち、学校ではいじめに遭い…からのチリの上流階級へ…からの女手一つで4人の息子を育てながらアル中、刑務所で創作を教え、最終的にはコロラド大学の准教授から、闘病生活へ。悲惨も絶望も残酷もあるのに、決して湿っぽくはない。何ならクスッと笑えるところもある。それは作者が、そうやって生きてきたからだろう。最近読んだばかりのせいか、こうの史代みたいな読み心地に感じられた。★★★★★
読了日:05月02日 著者:ルシア・ベルリン

QED〈龍馬暗殺〉 (講談社文庫 た 88-12)QED〈龍馬暗殺〉 (講談社文庫 た 88-12)感想
もはや竜馬の暗殺の謎と、奈々たちが巻き込まれる事件との関係はほぼない。なんなら殺人事件がなくたって成り立ちそうな、つまり人は死ななくても山奥で孤立した夜に、竜馬の暗殺についての個々の推察を述べるだけで話は成り立ってしまうレベル。無理に殺人事件と絡めてしまったため、竜馬暗殺の謎といつものスサノオとかの神話レベルの謎の二本立てになってテーマが薄れてしまった。この先のシリーズを、大和朝廷以降の隠された黒歴史を暴いていくシンプルなつくりにするのか、もう少し現実の事件との関りを濃密にするかしないとだめだと思う。★★★★☆
読了日:05月03日 著者:高田 崇史

魔天楼 (講談社ノベルス タK- 13 薬師寺涼子の怪奇事件簿)魔天楼 (講談社ノベルス タK- 13 薬師寺涼子の怪奇事件簿)感想
シリーズ第一作。30年位前に一度読んでいるけれど、文庫から新書へのリニューアルに伴って書下ろし短編がついているということで、判型を変えての再読。第一作ということもあって、薬師寺涼子のキャラクターはともかく、敵というか、モンスターの出現については偶々だったっぽいのがちょっと物足りなかった。やっぱり一番怖いのは人間の悪意だったり欲だったりでしょ。そういった意味では『さわらぬ女神にタタリなし』は人間の殺意と人を殺せるモンスターが合致していて、よし。★★★★☆
読了日:05月04日 著者:田中 芳樹

BANANA FISH (4) (小学館文庫 よA 14)BANANA FISH (4) (小学館文庫 よA 14)感想
アッシュたちは無事ディノの素を逃れることができたけど、ショーター…!BANANA FISHを打たれながらも、ものすごい精神力で己の意志をアッシュに伝える。最後までいい奴だった。すごい奴だった。敵に見つかるまでのつかの間の静けさ。英二は人の心を和ませる存在かもしれないが、アッシュにとってはそれだけではなく、ありえたかもしれない自分、なのかもしれないと思った。アッシュの子ども時代が、普通に中流家庭だったっぽいから。ハロウィンのカボチャが怖かったアッシュが、今のアッシュのなかにも生きている。
読了日:05月05日 著者:吉田 秋生

人喰い鬼の探索 (ハヤカワ文庫 FT 90 魔法の国ザンス 5)人喰い鬼の探索 (ハヤカワ文庫 FT 90 魔法の国ザンス 5)感想
今回の主人公は、ドオアの友人である人喰い鬼のメリメリ。途中で知り合う旅の仲間たちと力を合わせて、それぞれの問題を解決していく話だ。つまりこれ、友情の話であり、努力の話であり、勝利の話なのだ。え?ということは、少年ジャンプ的作品ということじゃありませんか?それが面白くないわけがない。そこに、不器用な恋の話も加わって、絶対旅が成功することも、絶対ハッピーエンドで終わることも確信できるのに、読む手が止まらないのだ。恐るべし、少年ジャンプ。←違う。しかも、人喰い鬼1人に対して種族の違う美女7人だよ。ステキ。★★★★★
読了日:05月07日 著者:ピアズ アンソニイ

最後に咲く花 (小学館文庫 か 2-6)最後に咲く花 (小学館文庫 か 2-6)感想
恋愛と死病。何がいやってこの取り合わせの小説が嫌い。主人公は請われて入った投資信託の運用会社でそこそこのポストについている。プライベートでは結婚を視野に入れた、20代の恋人がいる。それとは別に、心肺を病んで死を待つだけの大学の同級生・由希と穏やかな時間を過ごしている。これって、男の理想の生活なんじゃないかと思う。そもそも主人公が二人の女性のどこに惹かれ愛しているのか、逆に彼女たちは彼のどこに惹かれ愛しているのか、全然わからない。ただ、頭の中で作られた物語のように感じた。★★☆☆☆
読了日:05月09日 著者:片山 恭一

abさんごabさんご感想
ページをめくって戸惑う。横書き、というのは知っていたが、驚くほどひらがなの量が多い。だから、何が書いてあるのかを読み取ることに苦労した。章によって時系列は前後するが、要は、母を早くになくした主人公の少女と、父と、家政婦として家に入り込んでのちに父の後妻になる人との関係を、固有名詞を使わずに、時に一般名詞すら使わずに書いてある。本の後ろから縦書きで書かれているのが『毬』『タミエの花』『虹』の連作。貧乏で、給食もろくに食べることができず、友だちとの遊びも不器用なタミエが、『虹』の最後の最後に語る衝撃の事実。★★★★☆
読了日:05月10日 著者:黒田 夏子

くもをさがすくもをさがす感想
コロナ禍のカナダで、乳がんを宣告され、治療し、寛解を迎えるまでの8ヶ月の記録。異国での発症という、それでなくても「がん」を宣告されることは衝撃が大きいのに、言葉や環境の違いなど日本での医療とは全く違う文化を受け入れる作業もあり、その大変さは如何ほどだったかと思う。特に、治療後の心の描写が素晴らしい。なかなか小説だとそこまで書いてあることは少ないと思うが、実は私の場合も、治療中より投薬終了し、血液検査も不要と言われた後の方が、心細くて不安だった。同志よ!って感じでちょっと嬉しくなった。★★★★☆
読了日:05月11日 著者:西 加奈子

無理難題が多すぎる (文春文庫 つ 11-23)無理難題が多すぎる (文春文庫 つ 11-23)感想
彼のエッセイ集にはまったのは、10年以上前。ハタと追いかけるのをやめたのは、一度に読むものではないと気づいたから。彼のエッセイは週刊誌のなかの連載記事だから面白いのであって、一冊丸々がこの調子だと、結構疲れるな、と。しかし今回、くだらない会話で進む一連のエッセイは、ちゃんと哲学になっていて、もしかするとソクラテスの昔から、哲学は会話と相性がいいのかもしれない。そのほか、SF風な展開のものがあったり、落語的な落ちがあったり。あら、意外にもバラエティ豊かじゃないの。でもまあ、いっぺんに読まなくてもいいな。★★★★☆
読了日:05月13日 著者:土屋 賢二

先生、アオダイショウがモモンガ家族に迫っています! (鳥取環境大学の森の人間動物行動学)先生、アオダイショウがモモンガ家族に迫っています! (鳥取環境大学の森の人間動物行動学)感想
今回もいろいろな生き物との交流が、先生だけではなく、ゼミ生も含めてたくさん書かれているが、白眉は何と言ってもMkさんだ。彼女はカワネズミの研究をするために、大学から車で1時間半ほどの集落にある古民家を友人とシェアして借りている。研究となると複数引きのカワネズミの世話をしなければならない。給餌給水、糞尿の始末。その後初めて研究(実験・観察を大幅に含む)をすることができる。それに加えて、集落のお年寄りとの心温まる交流。どうか彼女が、今後の人生を、そのままのおおらかさときめ細かい配慮を持って過ごせますように。★★★★☆
読了日:05月15日 著者:小林 朋道

BANANA FISH (5) (小学館文庫 よA 15)BANANA FISH (5) (小学館文庫 よA 15)感想
今回は「BANANA FISH」自体の謎はひとまず置いて、ダウン・タウンのボスの座をかけてのオーサーとの闘いがメイン。最後まで数を恃み卑怯な手を使うオーサー。そうまでアッシュを憎む理由は何か?彼はいったい何から逃げようとあがいていたのか。そして、重傷を負ったアッシュを、マフィアにからめとられた市警察が警護する。英二もマックスもアッシュの子分たちも傍にいないなか、アッシュの命は誰が守る?
読了日:05月16日 著者:吉田 秋生

新撰組捕物帖----源さんの事件簿新撰組捕物帖----源さんの事件簿感想
まず第一に、新撰組の幹部たちの末路は大概知られている。井上源三郎については、明治を知ることなく戦いの中で世を去ったことが知られている。さらに、新撰組のなかには監察という役職があって、本当に新撰組内部に事件が起こったら、源さんが首を突っ込むどころの話ではないのである。それを踏まえたうえで、作者は温厚な性格で面倒見のいい井上源三郎を、困っている人がいたら手を差し伸べずにはいられない人物として書いた。それゆえに最終話の、彼の死後の話である最終話の、不在である彼の存在の大きさに打たれる。★★★★☆
読了日:05月16日 著者:秋山 香乃

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉 (講談社文庫)QED~ventus~〈鎌倉の闇〉 (講談社文庫)感想
奈々の妹が雑誌記者ということで、テーマの自由度が格段に広がった。だって雑誌の記事にするといえば、なんでもありだもの。なのでメインテーマであるところの鎌倉の歴史の闇と、フリーのジャーナリストである小松崎が取材しようとする社長失踪事件は直接重なることはない。しかし最後まで読んでみれば、北条氏の野望と現在の事件が相似であることに気付く仕掛けになっている。視点を変えれば悪役が悲劇の人になる。『ガラスの仮面』を思い出しましたよ、カーミラ。歴史の常識に新たな視点を得ることができるから、このシリーズは好きだ。★★★★☆
読了日:05月17日 著者:高田 崇史

黒蜘蛛島 (カッパ・ノベルス 薬師寺涼子の怪奇事件簿)黒蜘蛛島 (カッパ・ノベルス 薬師寺涼子の怪奇事件簿)感想
ひとは、「蛇が苦手」「蜘蛛が苦手」の二種類に分かれるのだそうだ。だとすると私は圧倒的に蜘蛛がダメ。なので、今回の話はちょっと読んでいて厳しかった。カナダのバンクーバーで発見された、日本人の男女の不審な死体。その謎を解き明かすためカナダに出張で来たというのに、いつも通り悪党に襲われ、怪物に襲われ、そいつらが日本人を殺害したというオチ。それはいいんだよ。ワンパターンという名の様式美。でも、物証がないのに事件解決というのはあまりにも乱暴すぎる。お涼さん、物証をゲットすることができたら、完璧なんだけどねえ。★★★★☆
読了日:05月18日 著者:田中 芳樹

夢馬の使命 魔法の国ザンス 6 (ハヤカワ文庫FT)夢馬の使命 魔法の国ザンス 6 (ハヤカワ文庫FT)感想
今回の話は、前回の人喰い鬼メリメリの冒険譚と密接につながっている。まず、今回の主人公は、メリメリたち一行をひょうたんの世界から助け出し、魂の半分を得た夢馬のインブリ。そしてメリメリとともに旅をした女性陣も、ルーグナ城に集結してそれぞれの力を使い、マンダニア軍と戦うのだが、敵のホース・マンはさらに一枚上手で…。ピンチに次ぐピンチの末にインブリが失ったものの多さと、最後の一行に込められた小さな喜び。これもまた、いい話でした。★★★★☆
読了日:05月21日 著者:ピアズ アンソニイ

新源氏物語(上) (新潮文庫)新源氏物語(上) (新潮文庫)感想
『源氏物語』は好きなのです。でも、光源氏は、好きになれない。そんな私ももういい年になりました。今なら光源氏の行いも物言いも許せそうな、大人のおおらかさで読むことができそうな気がいたしました。が、無理でした。やっぱりダメだ、こいつの言動。光源氏は母親がいないだけで、あとの大抵のものは持っているではないか。なのになぜ、いや、だからなのか、望んではいけないものばかりを欲しがる。そして、相当な「かまってちゃん」。光源氏に対してぷんすか怒りながら、結局は面白く読んでしまうのはなぜだろう。★★★★☆
読了日:05月23日 著者:田辺 聖子

天国旅行 (新潮文庫)天国旅行 (新潮文庫)感想
「死」とは、その人の人生の終了であり、死んでしまうとその先の人生というものはあり得ない。しかし、体の方はこの世界で朽ちていく者であり、死んだ人間は生きている人々の記憶の中にまだその痕跡を残すものである。それが甚だしいのが『炎』であり『星くずドライブ』、緩やかに愛する人の死を自分に溶け込ませるのが『初盆の客』だとすると、死んだ人の痕跡を消化するのは時間ということなのだ。ことに『星くずドライブ』は、ポップな作風のなかに、死に囚われてしまったということの恐ろしさが、じわじわと効いてきて、背中が寒くなる。★★★★☆
読了日:05月24日 著者:三浦 しをん

神様のお父さん (ユーカリの木の蔭で)神様のお父さん (ユーカリの木の蔭で)感想
北村薫の本の読み方は、推し活に近いと思いました。「好きだからもっと知りたい」「もっともっと知りたい」が繋がった結果の博覧強記。私も虚心坦懐にどんどん本を読めば、もっといろんな「interesting」をゲットできるのではないでしょうか。ぐふぐふ。←虚心坦懐とは?大岡昇平が小4のお孫さんに見繕ってもらって読んだのが、萩尾望都『トーマの心臓』、山岸涼子『日出処の天子』、高野文子『絶対安全剃刀』、大島弓子『綿の国星』、岡田史子『ほんのすこしの水』ですって。お孫さんセンスありすぎです。★★★★☆
読了日:05月25日 著者:北村薫

彗星交叉点 (単行本)彗星交叉点 (単行本)感想
どうしてほむほむのところには、面白い言葉がやってくるのだろう。やっぱり言葉に敏感な人のところに、言葉って集まってくるのだろうか。言葉だけではない、変なシチュエーションや変わった人も、彼のところに集まってくる。「今、来月?」って聞く子ども。「わたし、くノ一のキャプテン」と宣言する女の子。「外国人風デザインカット……6300円」な床屋さん。私も街中の変な言葉や変なものに敏感になろうと、意識的にアンテナを研ぎ澄ましていた時期があったのだけど、やっぱり素通りされてしまう。どうすればこういう愉快な経験ができるんだ!★★★★☆
読了日:05月26日 著者:穂村 弘

エンド・オブ・ライフ (集英社文庫)エンド・オブ・ライフ (集英社文庫)感想
私が家族を在宅介護するのは、私自身の健康と要相談だが、家族が私を在宅介護するのは無理だと思っている。気持ちだけで乗り切れるほど介護は生易しいものではないからだ。第一に、知識がなさすぎる。また、ここで紹介されている人は皆、一戸建ての家に住んでいるようだ。狭いアパートで、24時間ずっと患者の面倒を見るのは物理的にも精神的にも無理だと思う。なので、理想的な終末期を見せてもらったとは思うけれど、これを選択できない人はまだまだ数多くいると思う。けれど、この理想の形すら知らなかったのだ、私は。そして多分多くの人も。★★★★☆
読了日:05月29日 著者:佐々 涼子

遠巷説百物語 (角川文庫)遠巷説百物語 (角川文庫)感想
前作『西巷説百物語』でシリーズが終わったと思っていたので、再び新作を読めて大変うれしい。私が読書をする一番の楽しみと言ったら、お話の世界に浸れること。このシリーズはそれを存分に味わうことができるからだ。ホラーは苦手だが妖怪は好き、という私は、再び至福の時を迎えることができたのだ。しかも、遠野限定の話のようだから、以前とは登場人物なども違えてくるかと思いきや、いきなり長耳の仲蔵が出てくる。こんなうれしいことはない。しかし、次作こそ本当にシリーズ最後らしい。最後最後サギでもいいから続いてほしいんだけどなあ。★★★★★
読了日:05月30日 著者:京極 夏彦


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