2月2日(日)
解説
ビクトル・ユーゴーの同名小説を原作に、世界43カ国で上演されて大ヒットを記録した名作ミュージカルを、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイら豪華キャストで映画化。監督は「英国王のスピーチ」でアカデミー監督賞を受賞したトム・フーパー。舞台版プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュも製作に名を連ねる。
パンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャンは、仮出獄後に再び盗みを働いてしまうが、罪を見逃してくれた司教に感銘を受けて改心する。やがて運命的な出会いを果たした女性ファンテーヌから愛娘コゼットを託されたバルジャンは、執念深いジャベール警部の追跡を逃れ、パリへ。バルジャンとコゼットは親子として暮らすが、やがて激動の時代の波に飲まれていく。
第85回アカデミー賞でアン・ハサウェイが助演女優賞に輝いた。
(映画.com)
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ひと月前にNHKのBSで放送していたのを録画したのだけれど、昨夜ようやく観ることができた。
といっても、公開時に映画館で観たし、DVD持ってるし、舞台も観てるし、いつでも観ようと思えば観られるんだけど、途中で中断するのは嫌だから結局なかなか観られない。
ストーリーについては今更書くことでもないかもしれないけれど、パンを盗んだ罪で19年(脱獄を繰り返したため)も服役していた主人公のジャン・バルジャンが、仮出所時に教会で銀の食器を盗む。
司教はそれを見逃してくれたばかりか、警察に捕まったジャン・バルジャンに「これを忘れていますよ」と銀の燭台まで手渡す。
これで改心したジャン・バルジャンは、行方をくらませてしまう。←そこな
追う警察官のジャベールと、逃げるジャン・バルジャン。
晩ご飯時にお酒を飲みながら、一日早い恵方巻と豆を食べながら観るというのは、今までで一番よろしくない鑑賞態度である。
しかし、今までは真剣にその世界に向き合いながら観ていたものを、適度に力を抜いて観ることになったため、改めて考えることもいろいろあった。
まず、小学4年生の頃初めて「ああ、無情」を読んで以来ずっと、現在に至るまでマリウスが嫌い。
瀕死のマリウスを背負って下水道を逃げるジャン・バルジャンの姿は、非常に印象的ではあるものの、後半の革命のシーンなど不要と思っていた。
「悲惨な」とか「哀れな」という意味の『レ・ミゼラブル』というタイトルは、ジャン・バルジャンの人生を端的に言い表したものなのだと思っていたから、成功者のジャンバル・ジャンに違和感があった。
けれど、映画のエンディングで、革命に敗れて死んでいった若者たちの晴れ晴れとした笑顔を観たら、「悲惨」の中から「希望」は生まれるのかな、と思ったり。
ジャン・バルジャン自身もフォンテーヌに迎えられ、穏やかに亡くなったわけで、ちょっと『フランダースの犬』の最後を思い出す。
が、そうすると、苦労知らずのお嬢様に育ってしまったコゼットや、結局おじいさまのもとでブルジョア生活を送るマリウスは地獄に落ちるのか?というと、そんなことジャン・バルジャンが望むわけはないし。
「悲惨」といえばジャベール。
映画では「俺は牢獄で生まれた」と一言で終わっているが、彼は徒刑囚とジプシーの女性との間に生まれた、何なら最下層といっていい生まれ。
だから余計に「法を守る」ことに固持してしまう。
ところが彼は、ジャン・バルジャンが人を助けようとするところにばかり出くわしてしまう。
ジャベールの考えでは、一度罪を犯したものは何をどうやったって悪人、というシンプルなものだったのに、最後は自分まで助けられてしまう。
だから分からなくなってしまった。
法と善の間で板挟みになり、どちらを正しいと思えばいいのか分からなくなり、結局彼は自殺する。
「悲惨」
映画で印象的だったガブローシュという少年。
彼が何者であったかと映画では明らかにされてはいないが、実はテナルディエの息子でエポニーヌの弟。
だから、エポニーヌの死の瞬間をガブローシュが見ていたり、死体安置のシーンではエポニーヌの横に置かれていたりと、実は細かい演出がされていたことに今回初めて気がついた。
いつもは主要人物の動向ばかり気にしていたからなあ。
泣いたり怒ったりして感情を揺さぶられながらも、タイトルの『レ・ミゼラブル』の意味は何だろうと考え続ける。
「悲惨」から脱却したジャン・バルジャン。
「悲惨」から抜け出そうとしなかったから自殺に至ったともいえるジャベール。
「悲惨」な世の中を変えようとし命を失った学生たち。
「悲惨」を本当には知らずに生きていくのだろうコゼットとマリウス。
「悲惨」の中でもしたたかに生き延びるテナルディエ夫婦。
有名な雑学で、世界で一番短い手紙文は…というのがある。
『レ・ミゼラブル』が出版された直後に作者のユゴーが編集者に送った手紙には「?」だけが書いてあり、それに対して編集者が返した手紙には「!」と書かれていた。
ユゴーが「売り上げはどうだい?」と聞いたのに対して「驚くべきものです!」と返したんだって。
案外その程度なのかもしれない。
手練れの作家の手にかかれば、「悲惨」のオンパレードから感動が生まれるものなのかも。
それもまた、読者にしてみれば喜ばしい幸いであるのだけれど。←「悲惨」どこ行った?