5月25日(金)
10さんのところに中途で退職した後輩からお手紙が届きました。
私も2年ほど親しく一緒に仕事をしたことがあるので、私の退職をメールでお知らせした返信が、お手紙で来た、というわけです。
10さんは電話番号とメールアドレスを知ってはいるものの、彼の住所は知りません。
彼は毎年住所なしの年賀状を送ってはくれますが、それ以上の付き合いはしたくないということなのでしょう。
だから、今回の手紙には驚きました。
相変わらず住所は書いてありませんでしたが。
で、笑っちゃったのが追伸
”「道産子は、暑い、寒い、眠いの3つが口癖」
「函館は北海道ではない」
「寝雪になる前にブーツを買え、さもないと死ぬぞ」
「フリオ・イグレシアスには東京の恋人がいた。でも、それはあたしではなかった」
「今度引っ越すなら新札幌」
など、ご伴侶からは、生きる上での指針や歴史の新事実を教えていただきました。”
私、凄くヤバい奴じゃない?
もうちょっとオブラートに包んだ話し方をしていたと思うんだけどなあ。
そして、フリオイグレシアスの恋人の話については、全く記憶にないのですが。
こんなことばっかり言われてたら、超絶ビビリバビリブーだよね。
私が彼に本当に伝えたかったことは、真面目で頑固で融通の利かない彼に「自分で決めたルールに縛られる必要なんてない」ってことだったのですが。
いろんな経験を経て人は変わっていくのであって、若い頃に決めた自分への戒めに、いつまでも囚われなくていい。
変わることは悪いことばかりじゃあない。
あと、ビビってるならしょうがないけど、「おいしいパエリア食べに行こうね」の約束はどうなっているのかなあ。
8年も前の約束、忘れちゃったかな。
本日の読書:幻世(まぼろよ)の祈り 家族狩り 第一部 天童荒太
カバー裏より
『高校教師・巣藤浚介は、恋人と家庭をつくることに強い抵抗を感じていた。馬見原(まみはら)光毅刑事は、ある母子との旅の終わりに、心の疼きを抱いた。児童心理に携わる氷崎游子は、虐待される女児に胸を痛めていた。女子高生による傷害事件が運命の出会いを生み、悲劇の奥底につづく長き階段が姿を現す。山本賞受賞作の構想をもとに、歳月をかけて書き下ろされた入魂の巨編が、いま幕を開ける。』
覚悟して読み始めたのですが、やはり天童荒太、重たいです。
主要人物の3人もそれぞれ屈託を抱えていますが、さらに周囲にいる家族に問題を抱えた人たちに振り回されています。
多分それぞれのエピソードがひとつの物語にまとまっていくのでしょうが、全五部のうちの第一部なので、まだ人物紹介程度、なんだろうなあ。
高校の美術教師である巣藤は、新入生の描いた絵に感じるものがあり、彼女に声をかけた。
知らずに自分の内面を絵に表出させてしまった彼女は、それを察した巣藤に恐怖を感じ、その夜突発的に事件を起こしてしまう。
厳しい父に育てられ、慈しまれた経験を持たない馬見原は、自分も子どもに厳しく接し、それが家族の悲劇の引き金となった。
謝罪のように夫のDVから身を隠す女性を匿うのだが、心を病んで入院していた妻が退院してくることになり…。
近所に頻発するむごたらしい殺し方をした動物を、民家の前に放置する事件。
家族を殺害して自殺する少年少女たち。
この本が書かれた1995年の頃、さまざまな社会問題が起きていましたが、その解決策の一つとして「家族に帰ろう」という風潮が広まった。
作者は、家族が壊れたことで生じた問題が多々あるのに、解決もしないまま、ともかく家族に帰ろうとすると、結局は家族内の弱いものに我慢を強いることになる、ことに子どもにしわ寄せがゆくのは明らかと思い、この作品を執筆したそうだ。
私もずっと、一人だけが我慢すればほかのみんなは安泰で幸せ、なんていう組織(家族も含む)はおかしいだろう!とずっと言い続けているので、この作家の主張には頷ける。
動物の死体遺棄犯人の主張の意訳は
『マイホーム主義は洗脳だ。国民の消費を上げるために、政治、行政、経済界が一体となって、マイホームを得てこそ、人間は一人前だという意識を、人々の心に刷り込んできた。人間は、マイホームなんて関係なく、幸せな家庭を築けるはずなのだ。自己満足の奴隷になってはダメだ。自分が買ったカゴのなかで、懸命に走りつづけて、力つきて倒れるとき、残るのは、実は家じゃない。ただ、家を一時的に〈所有〉したという、自己満足の意識だけだ』
外側を整えることに懸命になりすぎて、家族という内面をおろそかにした結果の、今の日本。
それから30年くらいたった現在、私は結構今の若い人には期待している。
私たちの世代に沁みついた、所有することに対するこだわりのない彼らは、本当に大事なものを大切にすることができるのなら、今よりもっと良い世の中をつくって行けるのではないか。
ただ、所有にはこだわらないけど、損得にこだわり過ぎているように見えるのが、若干心配ではあるけど。
