例年より1日多いけど、いつもの月より短い2月。
思ったより本が読めたのは、小説の比率が多かったからだと思います。
やっぱり小説は読みやすいですからね。
特に、面白い小説の場合、次へ次へと文字を追うスピードが速くなりがちなので、今月★5つ作品が多かったのも、むべなるかなというところです。

というわけで、★5つは以下の通り。

『世界でいちばん素敵な西洋美術の教室』
この本を買ってからひと月も経たないうちに、このシリーズ10数冊の売り場が縮小されていました。
多分買い取りの本で、それだけ売れたのでしょう。嬉しい。
初心者向けの本なので、決してこれだけで西洋美術を理解できるわけではないですが、全編カラーで美しいのと、短くて的確な文章が、理解を深める手助けをしています。
何度も何度もながめたい本。

『シェル・コレクター』
ストーリーだけを取り上げても決してその魅力を伝えることのできない作品集。
平らかで、過剰な展開などなくても、輻射熱のようにじわじわと沁みてくる小説がある。
というか、大きく展開した時、その作品の世界が終わる。

『大学病院が患者を死なせるとき』
これは結構前の癌治療現場の話だけれど、読むのは辛かった。
手の施しようというのが、体にメスを入れることとイコールだった時代、どれだけの苦痛が患者とその家族に与えられてしまっていたのか。
こういう経緯があって、今、QOLについて考慮されるようになったんだということを忘れてはならない。

『ゆびぬき小路の秘密』
単純に面白かった。
子どものときに読んだら、絶対大好きになったと思う。
大人になって読んでもこんなにわくわくしたのだから。

『長い日曜日』
婚約者に何があったのかを探るヒロインの強い意志。
戦争中に行われる理不尽。緘口令。
けれど、いつか真実は暴かれるのだ。
そしてフランスが陸戦に弱いというのが、なんとなく理解できた。

『ノースライト』
これが横山秀夫の最高作品かと言われれば、ちょっとよく分からない。
ただ、一軒の家を軸に、いくつもの家族のありようが書かれていて、それが実に有機的に絡まっていて、多分私はそこを好きだと思ったのだと思う。
読み始めはちょっと冗長だと思ったりもしたのだけど、建築も好きだし、勢いで★5つ。

さて、今月はどれだけ本を読めるかな。
旅行もするし飲み会もあるし、暖かくなればウキウキもするし。

2月の読書メーター
読んだ本の数:21
読んだページ数:6645
ナイス数:645


世界でいちばん素敵な西洋美術の教室 (世界でいちばん素敵な教室)世界でいちばん素敵な西洋美術の教室 (世界でいちばん素敵な教室)感想
絵画に興味はあるけれど全然詳しくないので、一度行、初心者にわかりやすく、全体を網羅した本を読みたかったのです。そうしたら、思いのほかこの本面白くて、じっくり読もうと思っていたのに、あっという間に読み終わってしまいました。まず、年代順なのでわかりやすい。さらにQ&A方式で端的に説明してしてくれるのでわかりやすい。そしてこれがめちゃくちゃ面白いのだ。残念なのは、ダリやエッシャーやマグリットの紹介がなかったこと。この本を手元に置きながら、次はもう少し詳しい本を読んでみたいものです。★★★★★
読了日:02月01日 著者:

武蔵坊弁慶 (源平絵巻物語 第2巻)武蔵坊弁慶 (源平絵巻物語 第2巻)感想
この内容はちょっと意外でした。どこまでが事実なのかはわかりませんが…というよりも、多分ほとんどが他の伝説が混じったりフィクションだったりして、事実ではないと思いますが、それでも彼は実在の人物なんですよね。この本では弁慶が生まれたところから義経と五条の橋で出会うまでが描かれています。つまり、明らかにされている事実が始まる前に終わってしまう。でも、弁慶が欲していたのは千本の刀ではなく、自分を偏見なく評価してくれる人だったのかもしれませんなんて思ったりして。★★★★☆(だからフィクションだってば)
読了日:02月02日 著者:今西 祐行

おわりの雪 (白水Uブックス)おわりの雪 (白水Uブックス)感想
静謐であるがゆえに主人公の生活の中に垣間見える”死”の圧倒的確かさと、生きることの困難さ。作品の最初から”ぼく”の父親は病床にある。暮らしを支えているのは父親の年金と、ぼくが老人ホームのお年寄りの散歩につき添うお駄賃の半分のみ。さすがにそれでは生活は苦しかろう。鳥籠の中のトビとぼくが重なるとともに、動物たちの死が父の病状にある予感を運んでくる。息をするのもためらわれるほど密やかな空気をまとった作品だが、ぼくの心の中はいつも血の通ったあたたかいものが流れていた。たとえそれが動物を殺さなくてはならない時でも。★★★★☆
読了日:02月03日 著者:ユベール マンガレリ

シェル・コレクター (Shinchosha CREST BOOKS)シェル・コレクター (Shinchosha CREST BOOKS)感想
これがデビュー作。初めて読むアンソニー・ドーアの短篇。長編と同じく静謐な生の営み。そして荒々しく訪れる破壊と死。愛し合っているのに分かり合えない夫婦のもどかしさと哀しみ。かと思うと、生まれも育ちもまったく違うのに、言葉すら介在しないのにわかり合えた男と少女。詩情の持ち合わせがなく恋愛小説も苦手な私が、『ムコンド』を読んで、涙がこぼれた。それは哀しい涙でも感動の涙でもなく、男の思いの強さだったり情景の美しさだったりに触れて、ただ、流れてきた涙だった。こういう経験はほとんどなく、本人が一番驚いたのだった。★★★★★
読了日:02月04日 著者:アンソニー ドーア

恋愛のディスクール・断章【新装版】恋愛のディスクール・断章【新装版】感想
ロラン・バルトの箴言の何かを読んで「なるほど!」と思ったんだよねー。だからって、まるまる一冊の彼の文章を理解できると思っていたのか、私は!いやもう、全然歯が立ちません。そもそも難しいことを理解できる頭ではないこと、そして恋愛にそれほど興味がないこと。いやもう、全然歯が立ちません。その人の死を心から悲しむのは母親だけだ、とか、電話は偽りのコミュニケーションであるなど、「なるほど…」と思う文章がないわけではないけれど、引用される文章もロラン・バルトの思索もまあ難しい。★★★★☆
読了日:02月07日 著者:ロラン・バルト

大学病院が患者を死なせるとき―私が慶応大学医学部をやめない理由 (講談社+アルファ文庫 C 12-5)大学病院が患者を死なせるとき―私が慶応大学医学部をやめない理由 (講談社+アルファ文庫 C 12-5)感想
30年以上前のこととはいえ、がんに対する医療行為の無惨に、読んでいて苦しくなってしまう。癌を切除する手術によって、体力が低下し、免疫力が低下し、傷口から入った細菌により感染症になったり、傷口が壊死したり。実は手術なんてしないほうが生存率が高くなる、と。現在はまた医療技術の向上や、有効な抗がん剤などで、必ずしも開腹手術に頼らない治療になっているけれど、もしかすると私が知らないだけで、今でも不当な治療で苦しんでいる人がいるかもしれないと思ったら、ちょっと耐えられない。癌は切除すれば終わりというわけではない。★★★★★
読了日:02月08日 著者:近藤 誠

線は、僕を描く (講談社文庫)線は、僕を描く (講談社文庫)感想
画家の意図を汲む能力を主人公の霜介は持っている。技術は練習すれば身につく部分が大きいだろう。だが、霜介の持つその能力・センスは持って生まれたものであり、後天的に身につけることは難しい。水墨画の魅力、そして一つの芸術に向かい合っていく覚悟。宗助の目に、若い頃の自分と同じ虚無を見た篠田湖山はただものではないが、篠田湖山に見出されてから、作品の本質をつかむセンスを努力で磨いたのは霜介自身だ。霜介の、内向きすぎる思考を、あっけらかんと外に引きずり出してくれる大学の友達・古前くんがいい味出している。★★★★☆
読了日:02月10日 著者:砥上 裕將

メルカトルと美袋のための殺人 (講談社ノベルス マC- 5)メルカトルと美袋のための殺人 (講談社ノベルス マC- 5)感想
初めて読みましたが、多分シリーズの途中作です。キャラクターがすでに出来上がっている。でも、今一つ彼らを好きになれないのは、なんでだろう。語り手は売れない作家の美袋三条。行く先々で事件に巻き込まれるが、自らそれを解決する能力はなく、渋々学生時代からの腐れ縁であるところの探偵・メルカトル鮎を頼ることになる。ミステリとしては、非常に基本に忠実でわかりやすいのに、なんでこんなに登場人物が拗らせちゃっているのだろう。もったいない。★★★★☆
読了日:02月11日 著者:麻耶 雄嵩

木曜殺人クラブ 二度死んだ男 (ハヤカワ・ミステリ)木曜殺人クラブ 二度死んだ男 (ハヤカワ・ミステリ)感想
高級高齢者施設に暮らす4人の男女が、自身の持つ知識や行動力で、未解決の事件を勝手に推理する「木曜殺人クラブ」。今回はリーダー格のエリザベスの元夫がそこに入居してきたことから事件が始まった。一度読み始めたら止まらないくらい面白いのだけど、ひとつだけ気になることが。イブラヒムを襲った犯人のライアンに、木曜殺人クラブのメンバーは報復をするのだけど、自分たちが違法に買ったコカインと、イブラヒムの財布から持ち出したカードをライアンの家のトイレタンクに隠して警察に通報する。それは、犯罪では?★★★★☆
読了日:02月13日 著者:リチャード・オスマン

ぐるぐる博物館 (実業之日本社文庫)ぐるぐる博物館 (実業之日本社文庫)感想
博物館や美術館は好きだ。でも、観光に行った先でそこに行くことはほとんどないので、実はあまり行けてはいない。この本に出てくる博物館で行ったのは、国立科学博物館だけだ。だからこんな本を読んでしまうと、知的好奇心がうずうずしてしまう。特に『雲仙岳災害記念館』は、噴火直後に家族が立ち入り禁止区域内で仕事をしていたりするので、お互い元気なうちに一度行ってみたいと思った。そして当時のことをあれこれ聞きたいと。それから『石ノ森萬画館』も行きたいよねー。「サイボーグ009」が好きです。★★★★☆
読了日:02月14日 著者:三浦 しをん

数学の女王数学の女王感想
二作目だけど、デビュー作より格段に読みやすく、上手くなっていた。デビュー作もそうだったけど、エンジンのかかりがめっちゃ遅い。警察の人事なんて、もうどうでもいいよ。自殺した元恋人の件も、引きずりすぎ。それプラス公安と刑事部の対立も詳しく書いていたら、そりゃあ事件も進まないわ。事件へのかかわり方で人物に厚みを持たせるようにすればいいのに。そして、デビュー作に続いてまた上司が病に倒れ、突如浮上した容疑者はメンタルが不安定。ちょっと構造が似すぎじゃないかとも思った。次作は、読まないかも。★★★★☆
読了日:02月15日 著者:伏尾 美紀

創竜伝 2 ≪摩天楼の四兄弟≫ (YA! ENTERTAINMENT)創竜伝 2 ≪摩天楼の四兄弟≫ (YA! ENTERTAINMENT)感想
一巻からそれほどストーリーは動いていないので、一年ぶりの創竜伝とはいえそれほど問題はない。それよりも、35年前に書かれた作品なので、テクノロジーが古い!とっ捕まえた捕虜から得た情報を、メモ帳に書くなんてことは、今じゃもう考えられない。29インチ画面のテレビ電話なんて、逆に不便そう。とにかく権力を恣に事物かする権力者と同じくらい、思考停止で無責任な民衆を嫌いな作者の手にかかれば、竜堂四兄弟以外はすべてアホなんだもんなあ。よく読者が怒らなかったと思うわ。★★★★☆
読了日:02月16日 著者:田中 芳樹

源頼朝 (源平絵巻物語 第3巻)源頼朝 (源平絵巻物語 第3巻)感想
私は頼朝があまり好きではない。まず第一に器が小さい。疑心暗鬼に陥ったあげく、血の繋がった弟であろうが容赦なく殺す。源氏の棟梁でさえなかったら、どうしてついていこうと思うものか。これは絵本なので、そういうドロドロした部分は今回描かず、頼朝が人の心の優しさによって命拾いをした部分をメインに、征夷大将軍になって鎌倉に幕府を開いたところまでとなっている。運が頼朝に味方したしたというのもあるだろうけど、やっぱ、器じゃないと思うのだよなあ。★★★★☆
読了日:02月17日 著者:今西 祐行

ゆびぬき小路の秘密 (福音館文庫 物語)ゆびぬき小路の秘密 (福音館文庫 物語)感想
全然知らない作家、知らない作品でしたが、とても面白くて、すごく得した気分です。日本人作家の作品ですが、読んでいるとスーッとイギリスの街並みに入っていきます。引っ越してきたばかりの街で、不思議なことに出合うバートラムが主人公。古着屋や古道具屋のあるゆびぬき小路の奥にある、偏屈な仕立屋のおばあさんと知りあったことから謎が始まります。仕立屋はなぜ、ひとつだけ違うボタンをつけるのか。ボタンはバートラムに何をさせたいのか。正直言って、結末は地味です。でも、すごく大切なメッセージが込められた作品でした。★★★★★
読了日:02月19日 著者:小風 さち

長い日曜日 (創元推理文庫)長い日曜日 (創元推理文庫)感想
主人公マチルドは婚約者であるマネクの最期を知る人に呼ばれてその日起こった出来事を聞かされます。が、マチルドは納得できません。関係者は戦死していて軍が秘密にしようとしていることを、民間人の少女が暴くことは相当に難しいことです。しかもマチルドは3歳の事故で、車いすの生活を送っているのです。物語のテンポは決して速くないのですが、詳細な描写や緻密な構成に、ついつい夜を徹して読んでしまいました。戦争の悲惨さ・愚かさを見事に描きながら、しっかりとミステリで、キャラクター造形の妙を味わえる、とても素晴らしい作品でした。★★★★★
読了日:02月21日 著者:セバスチアン・ジャプリゾ

モゴール族探検記 (岩波新書 青版 F-60)モゴール族探検記 (岩波新書 青版 F-60)感想
モゴール族。アフガニスタンのモンゴル族のことを、現地の呼び方に従ってモゴール族とよんでいるそうだ。アフガニスタンではモゴール族は少数なので、彼らの住んでいる地域を探すのも難しかったが、モゴール語(アフガンなまりのモンゴル語)を話す人が、既にほとんどいなくなっていて、言葉の収集が本当に大変そうだった。言葉は生きているとよく言うけれど、話す人がいなくなってしまえば、言葉は簡単に失われてしまうのだ。かろうじて単語の意味は分かるけれど、文章は話せない人すら、ようやくに探し当てたのだった。言葉、大切にしないとな。★★★★☆
読了日:02月22日 著者:梅棹 忠夫

ノースライト (新潮文庫)ノースライト (新潮文庫)感想
これは、出版社の戦略だと思うのだけど、いろんなレビューのどれもが最初の謎を提示しているものだから、私もそちらメインで読み始めてしまった。だから途中から「あれ?」ってなってしまったのだ。これは家族の再生の物語だ。主人公の建築士も、その上司の岡嶋も、施主の吉野も、それぞれに家族に対して問題を抱えている。愛情があるゆえの悔い。だから切ない。最初の謎からどんどんそれていくように思えたけれども、最後はきちんとその謎が解けるようになっている。ブルーノ・タウトという人物にも興味が持てました。★★★★★
読了日:02月23日 著者:横山 秀夫

木曽義仲 (源平絵巻物語 第4巻)木曽義仲 (源平絵巻物語 第4巻)感想
頼朝と義仲は親世代の確執もあり、仲が良いはずはありませんが、義仲は頼朝と戦うよりも早く天下の大将軍になりたかったので、息子を頼朝に預けます。義仲は一味は余りにも政治を知らな過ぎたし、京の都人について知らなかったのだと思います。悪い人ではなかったのかもしれませんが。頼朝や義経と違って、本当にのびのびと苦労知らずに育った義仲は、それが上京してからの仇になったのかもしれませんが、もしかすると結構面白い人生だったと思っていたかもしれません。そういうあっけらかんとしたものを、彼からは感じることができると思いました。★★★★☆
読了日:02月24日 著者:今西 祐行

美食倶楽部: 谷崎潤一郎大正作品集 (ちくま文庫 た 14-1)美食倶楽部: 谷崎潤一郎大正作品集 (ちくま文庫 た 14-1)感想
それほど谷崎潤一郎作品を読んできたわけではないけれど、明らかにこれは今まで読んできた谷崎とは全然違う。『美食倶楽部』を読みたくてこの本を借りたはずなんだけど、一番無理だったのが『美食倶楽部』でした。全然おいしそうじゃないし、何なら気持ち悪い。海原雄山に「こんなものが美食といえるか!この馬鹿者が!」と怒鳴りつけてほしい。おどろおどろしい作品もあるのだけれど、からりと乾いた文体がどうも日本っぽくない。どちらかというとポーとかスティーヴンソン。『友田と松永の話』は、絶対スティーヴンソンだわ。★★★★☆
読了日:02月26日 著者:谷崎 潤一郎

葉書でドナルド・エヴァンズに (講談社文芸文庫)葉書でドナルド・エヴァンズに (講談社文芸文庫)感想
子どもの頃の切手収集をきっかけに、自ら切手を描き続けた画家がいた。ドナルド・エヴァンズ。切手の図柄とするために、架空の国を創った。国を創るにあたって、言語や歴史、風物も創造した。彼は不慮の事故により、既にこの世にはいないのだが、作者はドナルド・エヴァンズに日記のように葉書を書き続ける。1ページを葉書1枚分として、ドナルド・エヴァンズの生涯を追いながら、彼の周囲にいた人たちとの交流を報告し、旅を続ける。で、どうしてこんなに行間から詩情が立ち上ってくるのだろう。葉書に描かれているのは詩ではない。なのに、なぜ。★★★★☆
読了日:02月27日 著者:平出 隆

暗黒童話 (集英社文庫)暗黒童話 (集英社文庫)感想
もう、本筋と関係ないところからして、怖いんです。人への好意で目玉をえぐり出すカラスとか。それでなくてもカラスに襲われてから、カラス苦手なのに。だけどさすが乙一。怖いんだけど、グロいんだけど、切ないところもちゃんとある。初の長編小説らしいけど、やっぱり巧い。ネタバレになるから詳しくは書けないけれど、犯人である人物の、痛みに対する無感覚が恐ろしい。痛くないから何もない、わけではない、のに。これだけ怖い話なのに、悪意で行動した人がいないのに驚き。★★★★☆

読了日:02月28日 著者:乙一


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