子どものころ、入院時の楽しみは、小児科病棟にあるプレイルームにあったマンガを読むことでした。
家ではマンガを買ってもらえなかったので、入院中に病院のマンガを全部読む!が一大目標でしたし、何なら何度も読み返したものです。
もう一つは、消灯時間が9時だったこと。
家の消灯時間は8時でしたから(小学校卒業まで)、9時まで起きてテレビを見ていいのは嬉しかったなあ。
初めて歌番組を見たのが、入院中のことでした。
最近入院した時の楽しみは、読書とクロスワードパズル。
日がな一日こればっかりしていても怒られないなんて、天国でした。
隣のベッドの御婦人に「iPad があれば、読書もゲームもできるから便利よ」と言われたのは、どっさりの本とパズル雑誌を持って入院した私を見かねたからかもしれません。
本日の読書:13・67 下 陳浩基
カバー裏より
『1989年、新人刑事のローは凶悪犯罪捜査係に配属され、多くの犠牲者を出した九龍の銃撃戦の意外な黒幕を知ることになる――。60年代に文化大革命の煽りで始まった繫栄暴動、2010年代に起きた雨傘革命ともよばれる市民運動。香港を象徴する二つの”反政府の時代”が時空を越えて繋がる壮大な社会派ミステリー。』
目次
・テミスの天秤(1989)
・借りた場所に(1977)
・借りた時間に(1967)
この本は、自分で買うなら上下巻一気に、図書館で借りるなら単行本で読むべき本でした。
最後まで読んだら最初の話を読み返し、いろいろ確かめたくなること必至です。
上巻は、切れ者と言われたクワンとその愛弟子と言っていい部下のローの関係が細やかに書かれていました。
何ならローの成長譚と言ってもいいほどに、ローはクワンの背中を見ながら立派な刑事になります。
が、この下巻は、クワンがなぜ手段を選ばないほど非情に正義を貫くのか、いかにしてクワンという刑事ができたのかが書かれていました。
『テミスの天秤』では、ローはまだ新人の刑事です。
後に彼がクワンと再会した時に、人事評価が必ずしも良くないと自己分析していましたが、その理由は当時から彼が持ちえた人としての全うさです。
クワンはそこを評価したのですね。
そして作品として書かれていない部分で、クワンが検察官としての筋を通し、一つの事件を解決したことが、上巻を読んでいる読者にはわかる仕掛けになっています。
『借りた時間に』は、クワンがまだ若く正直で真面目だけが取り柄だったころの話。
事件は語り手の私とともにクワンが解決しますが、上司に忖度して万全を期さなかったため、幼い姉弟が爆発事故に巻き込まれてしまいます。
そして私がクワンを糾弾するのです。
「あなたの愚昧と頑迷のせいで、あのふたりは死んだ」
「あなたが守りたいのはいったい、警察の看板なのか?それとも市民の安全なのか?」
後のクワンに繋がる種は、こうしてまかれたのか…結構感動して本を置こうと思ったら最後の最後に明かされた驚愕の事実。
最後の一行まで楽しめました。
三作のどれもが良質の本格ミステリであり、そのどれにもクワンとの因縁を持つ人物が出てきます。
だから、全体として見たらクワンという刑事の半生を描いたドラマのようでもあり、香港という街の激動の時代を描いたものともいえます。
”すこぶる技巧的(トリッキー)でいて人間ドラマは濃密な、掛け値なしの傑作だ”(解説より)
控えめに言っても大満足でした。
