本日の読書:銀花の蔵 遠田潤子
Amazonより
『絵描きの父と料理上手の母と暮らす銀花は、一家で父親の実家へ移り住むことに。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る、歴史ある醤油蔵だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、昭和から平成へ、少女は自分の道を歩き出す。実力派として注目の著者が描く、圧巻の家族小説。』
大阪の文化住宅で絵描きの父と料理が上手で笑顔が可愛らしい母と共に暮らす銀花は、父方の祖父が亡くなったため父の実家の醤油蔵を継ぐため奈良へ引っ越す。
厳格な祖母と、銀花よりひとつだけ年上の叔母・桜子が住む家は、歴史ある醤油蔵を持っているが、昔と違い杜氏と当主の二人で細々と営まれる家業は、傾いていくばかりだった。
銀花の父親は醤油づくりが苦痛でならない。
しかし絵が売れないのでいやいや醤油づくりを行っている。
そして母には、無意識に万引きを行ってしまうという癖があった。
こんなことがばれては大変なので、銀花はいつも母を庇い、濡れ衣を着せられてもいいわけひとつしないで我慢していたのだ。
危ういバランスの上で成り立っていた銀花の家は、しかし、次々と不幸に見舞われる。
父が杜氏の大原と出かけた日に二人は行方不明になり、川で死体となって発見される。
母は現実を生きていないかのように父の好物をつくり続ける。
祖母はたった一人で蔵の仕事を行い、桜子は美貌を盾に遊び歩いてばかりだ。
銀花ばかりがなぜ我慢しなければならないのか。
不憫で不憫でならなかった。
銀花の父は「かわいそうな人だから」と銀花の母を甘やかした。
しかし父も強い人間ではなかった。
だから…だから銀花ばかりが我慢をしなければならないの?
”頑張って笑わなければ、と懸命に大きな口を開けた。勝手に涙が出て来た。ぐい、と拭ってさらに笑う。大丈夫。私は笑える。笑えばかわいい。お父さんはそう言ってた。銀花は懸命に笑い続けた。”
とうとう母の秘密が露見し、そのことで銀花の初恋の相手・剛が事件を起こすことになる。
親に心配かけ続け、師に目に遭うこともかなわなかった自分を悔いる剛。
”罪ではない罪は、普通の罪よりずっとタチが悪い。(中略)誰がなにを言っても無理だ。罪ではない罪とはそんなものだ。罪ではないから償えない。償えないから消えない。”
銀花の家がぎくしゃくしているのは、銀花の出生のせいだけではなく、祖母の、さらにその母親の秘密と嘘がもたらしたものだ。
それが銀花だけではなく、剛の心にも傷を残した。
一生後ろ指をさされながら生きることを覚悟した剛は、銀花の気持を知りながら銀花を避ける。
”弱い人を責めるのは簡単や。悪い人を責めるのも簡単や。(中略)人がどんな罪を犯したかなんて問題やない。ただ、自分が安心したいから、自分が気持ちよくなりたいから人を責めるんや。”
先祖の罪を、両親の弱さを、なぜ子どもが負わねばならないのか。
親に愛されたいと願っていた剛の気持は、どこで親とすれ違ってしまったのか。
しかし、どうしても剛と一緒になりたい銀花は、世間に後ろ指を指されても彼を諦めることはできなかった。
いつまでも事件を忘れない世間の中で、二人がお互いを大切に生きてきたことの証が、剛と銀花の二人で作り上げた家族の温かさが最後に書かれていて、安堵の涙が止まらない。
そのちょっと前に、全ての捻じれの初めの秘密が明らかにされ、ああこれで、解放されるんだなあと思ったけれども、その想像よりはるかに温かいエンディング。
家族って言うのは血の繫がりではなく、心が繋がってこそだよなあ。
