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『湯治旅の帰途、若夫婦が雨で足止めになった老女との相部屋を引き受けた。不機嫌な若妻をよそに、世話を焼く婿養子の夫に老女が語り出したのは、五十年前の忌まわしい出来事だった…。表題作「ばんば憑き」のほか、『日暮らし』の政五郎親分とおでこが謎を解き明かす「お文の影」、『あんじゅう』の青野利一郎と悪童三人組が奮闘する「討債鬼」など、宮部みゆきの江戸物を縦断する傑作全六編。』
目次
・坊主の壺
・お文の影
・博奕眼(ばくちがん)
・討債鬼(とうさいき)
・ばんば憑き
・野槌(のづち)の墓
妖と人間の話が6編。
シリーズ物も単発のものもあり。
親に折檻されて死んだお文の影だったり、自身の命を救うために我が子の命を差し出そうとする父親だったり、道端に捨てられた子どもの亡骸だったり、子どもがひどい目に遭う話が多くて、妖も怖いのだけど、人間の方が怖い気がしてしょうがない。
そんななか、『博奕眼』は子どもも頑張った話でよかった。
先祖が妖と交わした契約のせいで、一族の中から誰かを人身御供に差し出さなければならないことを知ったお美代。
たまたま通りかかった神社の狛犬に、ひょんなことから博奕眼の対峙法を教えてもらい、大人たちに伝える。
お美代が直接博奕眼と対決するわけではないけれど、お家の大事に子どもとして自分のできることをちゃんとする。
そういう意味では『討債鬼』の信太郎も健気でいい子だ。
父が自分を殺そうとしていることも知らず病気の母を案じ、勉強して医者になり、母の病気を治すのだと言う。
結局、父親から家を出されてしまうが、それも父にとりついた病のせいと思い、父をも治す決心をする。
だって信太郎にとって、父親だって大切な人なのだ。
人の心を失くしてしまう人だって、最初は健気な人だったはずなのに。
『ばんば憑き』のお由も、甘やかされるばかりではなくきちんと育てられていたら、幸せな一生を送れたのかもしれない。
お由のしたことは許されないが、そうさせてしまった家族に罪はないのか。
『坊主の壺』は、先祖の約束のせいで、とんでもないものを引き受けることになってしまった顚末話。
市中感染するコロリと、その予防を徹底させる田屋(でんや)の主の言い条は、昨今のコロナを彷彿させる。
が、なぜ彼は伝染病を予防することができるのか。
田屋の重蔵に、またはおつぎに、同情をすればいいのか、笑ってもいいのか(多分ダメ)。
もし私に壺の中が見えてしまったら、私は覚悟できるだろうか…。
