カバー裏より
『息子を授かった町方同心・不破龍之進は、仲間の反対を覚悟しつつある決断をする。一方、貴重な絵の具を盗まれた伊与太は、家族にも知らせず江戸を離れ―髪結いの伊三次と深川芸者・お文の恋から始まった大傑作シリーズ、感動の最終巻。子どもを育み、年をとる。こうして人の世は続いてゆく。(『擬宝珠のある橋』収録)』
目次
・空似
・流れる雲の影
・竃(へっつい)河岸
・車軸の雨
・暇乞い
・ほろ苦く、ほの甘く
・月夜の蟹
・擬宝珠のある橋
・青もみじ
単行本の最終巻『擬宝珠のある橋』収録の短編3本も収録された、文庫本のシリーズ最終巻。
まだ、まだまだこの先の話も読みたかった。
突然話に復活してきた薬師寺次郎衛が、この先どんな親分に成長するのか。
作者はどうして次郎衛を復活させたのか、その真意がわからないまま尻切れトンボになってしまったのは、全くもって惜しい。
そしてこのシリーズでずっと私が好きだったのは、とにかく伊与太が出てくるシーン。
「おいら、いい子だから、わがまま言わなかった」と泣いた伊与太。
「おっかさんが、いっち綺麗」という伊与太。
茜にわがまま言われても「お嬢」を立てることを忘れない伊与太。
小さかった頃の伊与太の姿は、いつでも目の前に鮮やかに浮かぶのだ。
そんな伊与太が、どうしても許せないことがあって師匠の家を飛び出した。
「おいら、行くところが無くなっちまった」と北斎の前で泣く伊与太。
せめてせめて伊与太の行く末だけでももっと読み続けたかった。
そんな詮無いことを思い、後ろ髪を引かれる思いで巻を置いた。
