カバー裏より
『理由あって上方から江戸へ流れてきた双六売りの又市は、根岸の損料屋「ゑんま屋」の手伝いをすることに。この店はれっきとした貸物業、しかし裏では、決して埋まらぬ大損を大金と引き替えに仕掛けであがなう……という稼業を営んでいた。渡世仲間らと共に、若き又市が江戸に仕掛ける妖怪からくりの数々。だがついに、とてつもない強敵が又市らの前に立ちふさがる。やるせなさが胸を打つシリーズ第4弾、百物語はじまりの物語。』
目次
・寝肥(ねぶとり)
・周防大蟆(すおうのおおがま)
・二口女(ふたくちおんな)
・かみなり
・山地乳(やまちち)
・旧鼠(きゅうそ)
又市がまだ願人坊主になる前の、双六売りだったころの若い頃の事件いろいろ。
飄々とした又市ではなく、青臭くて理想の前で右往左往したあげく、自分の至らなさに打ちのめされる又市。
ああ、だけど。
青臭い又市、嫌いじゃない。
妖怪の仕業としか思えない怪事件を、人の所業と断じるのが京極堂なら、人と人とのやり取りなら収拾がつかなくなるところを、妖怪の仕業にして丸く収めるのが又市なのである。
神も仏も信じやしない又市が、何故妖怪を引っ張り出すのかというと、とにかく人死にを出したくないから。
誰かのせいなら恨みが残るところを、妖怪のせいにすると「しょうがねえなあ」とあきらめもつく。
善だ悪だ、損した得したを言い続けても詮無いところを、妖怪を出すことによって、力業でフラットに押しつぶす。
百介と出会った頃は飄々とした風情ではあったけれど、百介と一線を画していたのは多分、好奇心でキラキラした目を向ける百介の心に、自分と同じ繊細さを感じていたからだと思う。
そして、関わった人たちをいつまでも遠くから気に掛けていたのは、つい目を離した時に敵の手に落ちてしまったおちかの件があったからなんだ。
又市よ、最後まで青臭いじゃねえか。
双六売りの又市が、いつ小股潜りを名乗り、御行の又市になったのか。
多くの仲間を失い、関係のない人たちを巻き添えにした痛みを抱えてなお、敵にも味方にも人死にはなるべく出したくないという又市の青臭さ。
軽口の裏に隠された彼の真情が、このシリーズの通奏低音となっているのだと思いました。
