『神々の土地』 ~ロマノフたちの黄昏~
作・演出/上田 久美子
ロシア革命前夜。
貴族社会の終焉はもはや誰の目にも明らかになり、この危機を脱するには貴族社会内部からドラスティックな変革をしていく以外に方法はない…
だが、現実を見ようとしない貴族たちは変革から逃避をするだけ…
宝塚の舞台としては、フランス革命前夜がお馴染みである。ここに登場する貴族たちもやはり、確たる根拠もなくただ「今の世は続いていく」という漠とした思いだけで、何も変えようとはしない。
ロシアもフランスも、革命前夜における貴族のテーマは全く共通である。
彼らを自業自得と片付けてしまえば、そこには何のストーリーも生まれはしまいが、そんな時代にこそ、時空を超えて紡がれる様々な人間模様がある。
「神々の土地」
朝夏の退団公演のために上田久美子の書き下ろしたロシア革命前夜のロマノフ王朝の悲しき愛の物語である。
宝塚ならではの当て書きによるキャスティングがはまり、脇役に至るまで、人物描写はとても良くできている。
朝夏まなと
ドミトリーは、ロシア革命前夜の貴族社会には「似合わない」誠実一本の将校である。こういう固い役は、朝夏は外さない。観ている側が苦しくなるほどの誠実さに、思わず胸が打たれる。
ところで、朝夏の代表作はブラームス「翼ある人々」であると思っているが、雰囲気はたがえど、この作品も甲乙つけがたいものがある。
貴族ドミトリー、どこか世間知らずであるが、人望と隠しようのない品のよさによって、自然と彼の周囲に人が集う。花組の御曹司であった朝夏が凰稀かなめの新生宙組に異動したとき、私は、だいぶ浮いた存在になるだろうと想像していたが、ドミトリー同様にその人望によって徐々に宙組に溶け込み、多くの組子から尊敬されるようになっていった。
きっと朝夏は、組子に対し「嘘」は言わなかっただろう。真っ直ぐにひたむきに自分の信じた道だけを組子たちに話したことと思う。そういう人間性が「神々の土地」という集大成の作品を造り上げたに違いない。
宙組の男役には、軍服を着崩したかたちで魅せることのできる生徒は多いが、ドミトリーのようにカッチリと軍服をまとって魅力を伝えられる者はほとんどいない。朝夏のそんな魅力をしっかり引き出してくれた上田久美子の演出に心から拍手を送りたいと思う。
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