"さ~や~か~ちゃ~ん!!"


………またや
今日も休み時間の教室に響き渡るこの声


「彩ちゃん、居るなら返事してやぁ!」
『……今日は何の用や?』
「私に会えへんと彩ちゃんが寂しい思て会いに来たんやで」

そんなことを悪魔のような笑顔…
失礼、
天使のような笑顔で恥ずかしがりもなく言うのは、隣のクラスのみるきーこと渡辺美優紀。
先程の大声の主もコイツや。

『別に寂しないし、大声で呼ぶんもやめて』
「そんな恥ずかしいがらんでもええんやで❤」
『はぁぁぁぁぁ』

全く話の通じないみるきーに頭を抱えて盛大にため息をつく。

おい山田、可哀想な目でこっちを見るな!

まーちゅんはニヤニヤすんな!



もう誰でもええから助け……

って、りぽぽ目を逸らすな!!!!


「あー、彩ちゃん!目の前に私が居るのに他の女の子見てる!!浮気や!!」

いや、友達に助け求めただけやし。
それ以前にな?

『浮気て何や
あたしはみるきーの彼氏か!』
「うん!」

うわ、満面の笑みで答えおっでコイツ。
ありえへん…


そもそも何でこんな事になったかと言うと…





~数ヵ月前~

『全く、人使い荒いねん
部活遅れてもうたわ……ん?あれって…』

生徒会役員である私はこの日、先生から頼まれた仕事を片付けてから部活に向かっていた。
その途中で数人の男子が集まっていた。
ネクタイの色からして先輩みたいやな。

その男子達に囲まれて少し困った顔をしている女の子。
どうやら遊びのお誘いをしているようやけど、相手が悪かったな。

その女の子は校内じゃ有名な渡辺美優紀。
そのルックスと人懐っこさで男女問わずにモテモテな彼女。
いわゆる学校一のマドンナ。
つまり彼氏だろうが彼女だろうが選び放題の渡辺さんは、噂によると面食い。
もし噂が本当ならば、申し訳ないがそこに居る先輩達は彼女のお眼鏡には敵いそうにない。

放っておいても大丈夫かとも思ったが、女の子一人に対して数人の男子。
何が起こるか分からんし、生徒会として見過ごす訳にはいかない。
何より困ってる女の子を放っとくのは気が引ける。


『何しとるんですか?その娘困ってますよ?』

「あぁ?お前には関係ないやろ」
『あるんですよ
生徒会としてこの状況は見過ごせへんので』
「なーにが生徒会や(笑)」
「よう見たら自分も可愛いやん
何ならみんなでカラオケ行こうや?」
『いや、これから部活あるんで
それに先輩たちとカラオケ行ったってつまらなそうですし…』
「何やと!」
「あ、あの…」
『大丈夫やで、渡辺さん
怪我とかしてへん?』
「う、うん」
『良かった』

そう言って渡辺さんに笑いかけると、ちょっと安心したのか渡辺さんも笑顔を返してくれた。

「おい、無視すんな!」

無視した訳ちゃうねんけどなぁ…
怒った男子はあたしの胸ぐらを掴む。

『殴りたかったらどうぞ』
「言ったな?後悔すんなや?」
「おい待て
そいつ女やぞ?殴ったら面倒やで」

男同士ならケンカで済むけど、相手が女じゃそうはいかんもんな普通は。
受験控えてるし、それはマズイわな。
まぁ、あたしは別にケンカしても構わんけど。

「…もうええ、遊ぶ気失せたわ
行くで」

そう言うとあたしの胸ぐら掴んでた先輩は仲間を連れて立ち去った。

「大丈夫!?
ごめんなさい、私のせいで…」
『別に渡辺さんのせいちゃうよ』
「あの…私の名前、何で?」
『あぁ、有名やからな渡辺さん(笑)』
「え、そうなん?それより、山本さん怪我とかしてへん?」
『うん、平気や……って、何であたしの名前…』
「山本さんこそ有名やもん
次期生徒会長のイケメンって(笑)」

イケメン……複雑や(笑)

『あっ、部活!』

慌てて時計を見ると、もう少しで部活が終わる時間…
やってしまった…

「時間大丈夫?ホンマごめんなさい」
『ええて
よし今日はもうサボりや!』

んー!と背伸びをすると、今まで申し訳なさそうにシュンとしてた渡辺さんがクスっと笑う。

「生徒会が部活サボってええの?」
『えーの!それより家まで送るわ
さっきの人達、まだその辺居るかもやし』
「え、それは悪いよ!もう大丈夫やから」
『ええから、家どこ?』
「えっと…」

聞けば渡辺さんの家はあたしの家から結構近い。
それを理由に、あたしは遠慮する渡辺さんを説得して一緒に帰る事にした。

帰り道に色々な話をしながら帰る。
あたしは渡辺さんをみるきーと、渡辺さんはあたしを彩ちゃんと呼ぶようになった。

その日はみるきーを家に送り届けて、みるきーの家の前で手を振り別れた。

問題は翌日や…


翌日の朝、学校へ向かうため家を出るとそこにみるきーが居た。
家の場所は昨日話していたから別におかしな事ではない。
昨日のお礼も言いたくて朝から迎えに来てくれたらしい。

そこまではいい。
そこまでは………

「あんな、彩ちゃん」
『んー?』
「私、昨日ので彩ちゃんに惚れてもうた!」
『そっかー……はぁ!?』
「好きやねん!大好き!せやから覚悟しといてな!」

ニコッと笑うみるきーに対して、あたしは開いた口が塞がらなかった…




で、今この状態に至る。

出会いとしては王道やな。
うん、王道や。
ありきたりやな。
作者の腕がないんや←

男に絡まれてた女の子助けて惚れられる。
そんなありきたりな話やけど、みるきーに付きまとわれてるあたしにしたら迷惑な話や。

『あ、チャイム鳴ったでみるきー』
「ここで授業受けるー!!」
『クラスちゃうやろ』
「いややー!授業中浮気するんやろ?」
『……せえへんから戻りなさい』
「ホンマやな?約束やで?」
『はいはい』

授業中に浮気てどういう事やねん。
そもそも浮気て何や?付き合ってへんわ!
ホンマ厄介なヤツ…

「彩ちゃん、お昼一緒に食べよな?ほなまた来るわー」

あたしに背を向けて自分の教室に戻るみるきー。
ちょっとだけ寂しいような気もする。
こんな事みるきーに言ったら、アイツのニヤニヤ止まらんくなるんやろうな…
うん、絶対言わんとこ(笑)



みるきーが帰ってしまう時に感じる寂しさ。
みるきーが会いに来た時に感じる嬉しさ。


この気持ちを恋と呼ぶには
あたし達にはまだ早い。

だからもう少しだけ…

学校一のマドンナのアピールを楽しませてもらうとしよう。

この気持ちを恋と呼べるその日まで。




END
映画げいにんのさやみるきーです

―――――――――――――――


今日は7月7日。
そう、七夕。
子供の頃は毎年短冊に願い事を書いたりしたな。
願い事が沢山ありすぎて、ひとつに絞れなかったり。
そんな時は決まって、こうお願いした。

織姫と彦星が会えますように

『今頃会っとるんかなー』

今日は生憎の曇り空。
けど、この雲の上ではきっと…

『いいなぁ』

それなのに私の彦星ときたら…

"美優紀、すまん!"

今日は一緒に近所の七夕祭りに行く予定やったのに、先輩から食事に誘われてそっちへ行ってしまった。

私達はお笑い養成学校で学ぶ、まだ芸人のタマゴとも言えない立場。
だから芸人である先輩の誘いは断れないし、先輩達が聞かせてくれる話は凄く為になることばかり。

それは分かってるんやけどね…

別に彩と付き合ってる訳でもない私が、今日は一緒に居てなんて言えへんし。
それでも分かって欲しいなんて、とんだワガママや。
でも女の子やったらさ、好きな男の子には少女マンガのヒーローみたいに完璧であって欲しいとか思うこともあるやん?
私が言えなくても私の気持ちが分かって、会いたくても会えない日にはまるで王子様のように現れて欲しい。

ま、彩男の子ちゃうし無理か。
それに鈍感やし。
ヘタレやし、しゃくれやし、チビやし…

でも好きやねんもん…

『ありえる?この可愛いみるきーちゃんがあんなしゃくれを』
「何ブツブツ言ってるん?」
『え、彩、何で居るん?』
「んー…早めに切り上げて来てん
で、合鍵で入ってきた」

卒業して一人暮らしを始めてから、もしもの時の為に彩に合鍵渡してたのを忘れてた…

『へ、へー…
今の聞いてた?』
「内容までは聞こえんかった」
『そ、そっかー!だったらええねん!』
「変な奴……
それより早く準備しろ」
『え、何?』
「七夕祭り
まだ間に合うやろ」

良く見ると彩は少し息をきらして、髪が汗で少し濡れている。

『もしかして、走って来た?』
「え、いや…その…」
『そんなに私と七夕祭り行きたかったん?』
「ち、ちゃうわアホ!
たこ焼きや!たこ焼き食べたかっただけや!」
『ふーん(笑)』
「な、なんやねん///
ほら、行くで!」
『あ、待ってや、浴衣に着替えるから!』
「着替えなんてしてたら間に合わへん!そのままでええ」
『えー!?あ、待ってや彩』

部屋を出ていく後を追いかけて外を出る。

『あー、やっぱり曇ってるなー』
「梅雨やからな」
『天の川見れへん』
「そうかー?そうでもないで
今日だってあるやん」
『えー?見えへんやん』

空を見上げてみるけどやっぱり空には厚い雲が覆っていて、星ひとつ見えない。
どこに天の川があるのかと首をかしげる私を見て、ははっと笑う彩。

「天の川って、英語でミルキーウェイって言うねんで?
美優紀と歩いたら、どんな道でもミルキーウェイ…天の川や」
『彩…



       さむっ!』
「なんでやねん!みるきーとミルキーかけたんやで」
『うわぁ、それでも芸人なん?芸人として無いで今の?』
「何やと!?」
『相方として恥ずかしい…そのアゴ』
「今アゴ関係ないやろ!!」

私達に甘い空気はまだ早いみたいや。
それに今はまだ、この関係が楽しいから。

だから今年の願い事は…

さやみるきーの笑いで世界を救えますように

これに決まりやな!



END

夜か……

館の長い廊下を薄く明かりが漏れる部屋を目指して歩く。
目的の部屋まで、まるで道しるべのように落ちている白い物体。

ヘンゼルとグレーテルか…

そんなことを思いながらその物体を拾い集めてから部屋の扉を開ける。
ソファーの背もたれの上の方にピョコっと出ている耳が目に入った。

『お菓子の家でも探す気ですか?』

声をかけると耳を揺らしながら振り向いたミユ。
きょとんとした目でこちらを見ている。

『廊下に綿が点々と落ちていましたよ
まるでヘンゼルとグレーテルのように』
「お菓子の家あるん!?」
『』どうでしょうね?私達のような者が存在するくらいですから、あるかも知れませんね』
「私達って、ミユは亡霊じゃないもん」
『では、勝手に動く綿のはみ出したぬいぐるみを他に何と言うのですか?』
「んー…おばけ?」
『同じです』

おかしな会話だけど、これは事実。
私は騎士の亡霊で、ミユは本人いわくウサギのぬいぐるみのおばけ。

私は昔、この館で姫様の護衛としてお仕えしていた。
そしてミユはその姫が大事にしていたぬいぐるみだった。
気付けば私は死にきれなかったようで未だにこの世をさ迷っているし、持ち主を亡くしたミユはいつの間にか魂を宿していた。

そして今ではすっかり寂れてしまったこの館に二人きり。

『とにかく、綿を戻してください
出来れば縫わせてください』
「嫌!痛いもん!縫うのは年に一回って約束やんか!」

痛いのか?と思いつつミユの隣に座る。

『それならせめて綿戻しますよ』
「嫌やー!!」

逃げようとするミユを捕まえて破れている箇所から綿を詰め込む。

「いやー!ぞわぞわするー!へんたーい!」
『人聞き悪いですよ!』
「人なんかおらんもん!へんたーい!」
『どこが変態なんですか!』
「体さわっとるやんかー!」
『綿を詰めてるだけです!』

大騒ぎしながらやっと綿を詰め終わる。

「見てサヤカ、ふかふかやー」

あんなに嫌がってたミユは、綿が入ってふかふかになった耳を上機嫌で触っている。

『あまり触るとまた落ちちゃいますよ』
「そしたらまた詰めてー」
『嫌です
ミユが暴れて一苦労なんですから』
「えー、大人しくするから」
『はいはい』

結局ミユを許してしまう自分に、甘いなぁなんて思いつつ苦笑いを漏らす。

『ミユ』

ミユを呼んで膝を叩いてみせると、嬉しそうに私の膝に乗る。
ぬいぐるみだからミユは人に抱っこされるのが好きだ。
後ろからミユのお腹に手を回すと自然と体を預けてくる。

『ミユ…恨んでませんか?』
「何?」
『私を恨んでませんか?』

自分がこの世をさ迷っている理由は分かっている。
未練だ。
私が死んだあの日、私は姫様を守ることが出来なかった。
そしてミユは自分を大事にしてくれていた姫様を失った。

恨まれていても仕方ない。

「んー…確かにあれからしばらくは寂しかった
でも恨んでへんよ」
『本当ですか?』
「だって、その後はまた寂しくなくなってん
ずっとサヤカが一緒に居てくれたから」
『ミユ…』

振り向いたミユの腕が私の首に回る。
いつも甘えん坊で抱きついてくることはよくある彼女だけど、最近はふとした時にドキッとするような仕草をするようになった。

「これからも一緒…やろ?」
『ミユがそう望むなら、いつまでも』

姫様を守れなかった私は、せめて姫様が大事にしていたミユを守ろうと思った。

けど今はもうそんなこと関係なく…

貴女が求めてくれるなら、私はいつまでも貴女を守る騎士でいよう。

「ミユ、ハロウィンパーティーしたい」
『ハロウィン?亡霊の私達がですか?』
「ええやんか二人でパーティーしよ』
『そうですねぇ…ではハロウィンまでにはお菓子を手配しておきましょう
ミユにイタズラされちゃ堪りませんからね』
「イタズラ?」
『お菓子あげないと亡霊にイタズラされるんですよ』
「じゃあミユも用意しなきゃサヤカにイタズラされちゃう!」
『ははっ、そうですね
まぁ、私はお菓子もらうよりイタズラしたいですけどね』
「お菓子の方が嬉しいやん?」
『私はミユより大人ですからね』
「むぅ、じゃあ私もイタズラがええ!」

なんて言いながら頬を膨らますミユには、甘いお菓子を用意しといてあげよう。
どんなお菓子をが喜んでくれるだろうか。
そしてミユにどんなイタズラをしようかなんて、少しだけ頭を掠めたりして…

まだまだ先のことだけど、今年のハロウィン・ナイトが楽しみだ。


END