はぁ……
深夜にそっとため息をついたのは、大好きなあの娘の誕生日2日前。
"めっちゃ嬉しいことがあった"
そう言ってるのを聞いたから、明日も早いのに無理をして聞いたラジオ。
そこで彩ちゃんは大好きな声優さんからお祝いメッセージを貰って大喜び。
さらにサインまで貰ったらしく、彼女のテンションはMAXだった。
あんなに嬉しそうな声聞いちゃったら、私が用意したプレゼントなんて渡し辛い。
アニメやゲーム、バンドが好きな彩ちゃんの趣味は私にはあまりよく分からない。
だから私が用意したプレゼントが嬉しいとは限らない。
もう今年は一番嬉しいプレゼント貰っただろうから、いっそ渡すのやめてしまおうか…
うん、それでいいや。
そう決めて、プレゼントの包みを鞄の奥にしまいこんだ。
『けど付き合ってるんやから、やっぱお祝いはせなアカンよな』
そう思い直したのは7月13日の午後11時50分。
あと10分すれば彩ちゃんの誕生日。
明日彩ちゃんと趣味が合いそうなメンバーに聞いて、誕生日プレゼントをあらためて用意しよう。
とりあえず日付が変わったらお祝いメールだけ送っておこう。
"コンコン"
ホテルの扉を叩く音がしてメールを打つ手を止める。
時計を確認すると真夜中5分前。
『こんな時間に誰やろ?』
もー、0時ちょうどにメール送れへんやんかアホ!
心の中でそんな悪態をつきながらノックした人物を確認する。
『え?』
そこには私を悩ませていた張本人が居て、慌ててドアを開けた。
『彩ちゃん…どうしたん?』
「ちょっとな…入ってええ?」
『あ、うん』
部屋に入った彩ちゃんはベットに座って辺りをキョロキョロしている。
『どうしたん?』
「いや、特に何もないねんけど…」
『じゃあ何で来たん?』
「用なかったら来たらアカン?」
『そんなことないけど珍しいから』
「たまにはな…あっ」
短く声を上げた彩ちゃんに釣られて、彼女の見てる方向に目をやる。
時計の針がちょうど0時を指していた。
『あ、0時や
彩ちゃん誕生日おめでとう』
「ありがとう!」
さっきまでキョロキョロして挙動不審だったのに、おめでとうと言った瞬間嬉しそうな笑顔を見せる。
『彩ちゃんもしかして…』
「ん?」
『祝って欲しくてここ来たん?』
「べ、べつにそういう訳じゃ…」
祝って欲しかったんやなこれは(笑)
『彩たん可愛いなー』
「う、うっさい!」
ニヤニヤしながらほっぺを突っつくと、顔を赤くしてプイッとそっぽを向く彩ちゃん。
その時、ケータイが鳴って彩ちゃんが画面を確認する。
『おめでとうメール?』
「うん、山田から
あいつこういうのはマメやな」
『あーっ、いきなり彩ちゃんが来るから0時ちょうどに彩ちゃんにメール送れんかったやんか!
1番に送りたかったのにー』
「いや、会って言ったんやからええやん」
『えー…彩ちゃんのせいて予定狂ったー』
「22歳になった瞬間、1番最初におめでとうって言うてくれたんは美優紀やで」
『まぁ、そうやけど…
あ、ごめんやけどプレゼントまだ用意出来てへんねん
今度渡すな?』
「それはええけど…いつも美優紀こういうのはちゃんと用意してるから珍しいな?
そんな忙しかったん?大丈夫?疲れてへん?」
本当に心配そうに顔を覗きこむから、結局あなたに嘘をつけなくなる。
『ホンマは用意しとったけど、もっと彩ちゃんが喜びそうなのにしようと思って』
「何言うとんねん
美優紀が選んでくれたもんやったら何だって嬉しいで」
『でも…』
「ん?」
『彩ちゃんが好きなアーティストもマンガもゲームも、私にはよう分からんもん…』
「…なぁ、その用意したプレゼント今持ってる?」
『一応持ってるけど』
「ちょうだい」
『でも、彩ちゃんの趣味やないかも知れへんし』
「ええから」
そう言われたから鞄からプレゼントを取り出してみたけど、渡すつもりがなかったから少し乱暴にしまってあって包みがグシャグシャになってた。
『あー…やっぱアカン』
「なんでグシャグシャやねん(笑)
でもそれがええ
ちょうだい?」
『う、うん』
包みからプレゼントを取り出した彩ちゃんは一瞬固まった。
「え?首輪?」
『うん、音遠ちゃんに』
「あ、音遠にね!
私が付けられるのかと思って焦ったわ(笑)」
『私そこまで変態ちゃう』
もっとも、メンバーにも人気の高い彩ちゃんには首輪付けといた方がええかも知れへんけど…
「あれ?まだ何か入ってる……あ、ピアスや」
『それ、首輪に付いてるモチーフとお揃いやねん』
「あ、ホンマや!めっちゃ可愛いやん!
ありがとう美優紀」
『そんなんで良かった?』
「うん、めっちゃ嬉しい!!
それに美優紀は趣味ええしな」
『まぁ、彩ちゃんダサいし』
「なんやと(笑)
…それでどうしたん?今までそんなん気にしたことないやん」
『実はな…』
素直に彩ちゃんに全部話した。
ラジオを聞いたこと。
憧れの声優さんからのプレゼントに喜ぶ彩ちゃんの声を聞いていたら、自分のプレゼントに自信がなくなったこと。
『それに私達って趣味そんな合わへんやん?それって一緒にいて彩ちゃんは楽しいのかなって思って不安やった』「確かに趣味が合う人と一緒におったら楽しいで
でもな、美優紀とおったら幸せやねん
落ち着くし、飾らない自分でおれるし、もちろん楽しいし…とにかく幸せなんや」
『彩ちゃん…』
「あー、もう!こんなこと言わせんなアホ!!///」
『彩ちゃん!』
「おっと、いきなりやな(笑)」
その言葉を聞いて彩ちゃんの胸に飛び込んだ。
"幸せ"だと言って笑うその顔に不安なんて消え去った。
『誕生日おめでとう
産まれてきてくれてありがとう』
「ありがとう」
背中に回された彩ちゃんの腕の力が強くなる。
彩ちゃんの言う通り、この瞬間私もとても幸せを感じた。
――おまけ――
『そもそも彩ちゃんがあんなデレデレするから不安になるんやんか!』
「デレデレなんてしてへんわ!」
『してましたー!声がデレデレしてましたー!
柄にもない声出してキャーキャー言うてさ』
「うっ、だって嬉しかったし…
てか、だいぶ年上の相手にヤキモチ焼くなや」
『ヤキモチも焼くし不安にもなるわ!
ただでさえ女の子同士やから色々不安やのに…』
「美優紀…」
『不安にさせた罰として、1週間チュー禁止!』
「はっ!?いや、それは…
あの、チュー以外は?」
『どうせチュー以外やなくてチュー以上やろ?ダメに決まっとるやろ!』
「え、そんな…誕生日やのに!?ちょっ、美優紀!!」
END