
思い起こせば、23年前・・・くらい。
大学やめて、働くのも嫌で、
死ぬのも嫌で、芝居もしんどくて、
人としゃべるのも面倒で、今でもそうだけど、
それでも腹が減るから、なるべく人と関わらないですむバイトを探し、
それが近所の工業団地の、小さい工場。
確か、コピー機か何かのキャビネットを静電塗装し
いくつかの部品をエアードライバーで
きゅいーんきゅいーんとねじ締めする仕事。
その流れ作業中は、頭の中で何枚ものレコード回していたっけ。
しかし、人と関わらないですむのは最初のうちで、
そこに一年で高校やめたという連中が、6,7人、
バイトなのか正社員としてなのか、働いていた。
昼休み、食堂で俺が本読んでいると、その中のリーダーらしき奴が
俺に探りを入れてくる。「好きです日本語やね、にいちゃん・・・」
とタメ口で高校中退連中が、大学除籍の俺に話しかけてくる。
ムッとするも、やがて他愛もない話を連中とするのが、だんだん楽しくなる。
「だいがくってどうなん?」「おもんないよ」「ふーん、どこもおなじやな」
「いや、そうでもないかな」「どっちやねん」「とうきょういったことある?」「ある」
「どんなん?」「わすれた」「うそやろ」「じつは・・・」
とかなんとか・・・つまんない会話だけどね、いいんだよ。
ある時、工場が近所の団地のオバハン連中に依頼した内職を
彼らの何人かと回収に行く仕事をした。
「あっこのオバハンと、ウチの工場の主任とできてんで」
「あっこのウチは去年離婚して・・・」
と、いろいろ情報通である。
やがて、連中が共同生活していることも知る。
どうせ、アンパンやっているのかと思ったが、
彼らのルールでそれはしていないらしい。
そりゃそうだ、毎朝8時には工場に来て仕事しているんだから・・・
悪い子ちゃんにもなりきれない連中が集まっていて、一緒に暮らしていて・・・
連中は、俺よりもきちんと世間を渡り歩いているなーと思った。
たぶん、あと2、3ヶ月で破綻するだろうけど。
連中の生活の場をみたいと思ったが、
さすがに俺はよそ者なんだろう、
水を向けても「まあな、またな」とはぐらかす。
変な宗教に誘われたり、仏壇売りさせられたり、鍋や洗剤売るような
どあほな連中には引っかかるなよ、としか年長者ぶれなかった。
いつか連中の破綻に至る共同生活を芝居にしたいと思う。
で、何処の世界にもスケープゴードがいるもんで、
それが、この工場では、ずんぐりとしたでかい図体の
国やん、と呼ばれる人だった。歳は40手前くらいかな。
国やんは、そう・・・どんぐりと山猫の馬車別当と、
ハリーポッターなんかに出てくる、トロルとを足したような人で、
決して悪い人ではないのだが、その・・・トロルの方がちょっと強い感じの人で、
高校中退連中は女の子も含め、国やんをターゲットにしていた。
国やんの給食弁当を隠したりは当たり前。
わざと国やんに頼み事して、「国やん、これ持ってここに立っていて」
すると国やん正直だから、その通りにしていると主任が来て
「おまえなにしてんねん! さぼんなや!」とどつかれる。
でも国やん、何の反論もしないし、できないんだ。
何か言おうとしても、口がもごもごして、うまく言葉にならない。
そのうち主任は「はよしごとせい!」
主任、連中の仕業とわかっていても国やんを怒鳴るんだ。
そんな人なんだ、国やん・・・。
俺は、国やんに仙台四郎をみた、と思った。非常に興味を持った。
小学校のクラスに必ず一人はいたタイプ。懐かしい・・・。
俺、そんな奴と仲良かったんだよね。
で、ある時そいつの方が俺より算数のテストでいい点とっていたりすると
俺、口聞かなくなったりして・・・。
まあ、何より、国やん、かわいそうじゃないか!
俺は、連中が「にいちゃん、やめとき」と牽制するのもかまわず
国やんに優しく話しかけた。
すると、
次の日から国やん、俺にべったり・・・付かず離れず、
仕事中も何かと近くによって、
自分の仕事ほったらかして、荷物運びなど無言で手伝ってくれる。
俺が主任に怒られやしないかと自己保身に必死だったよ。
昼の給食の時も国やんいつも食堂の隅で食べていたのに
今日は俺の向かいに座って、何言うでなく、にやにやしている。
さすがに俺も気味悪くなって
高校中退連中を見ると、それ見たことかと言わんばかりに
ケラケラ笑っている。女の子なんかもくすくす笑っている。
パートのおばちゃんが見かねて、
「国やん、この兄ちゃん困ってはんで」と言ってくれるも力ない。
国やん、動く気配なし!
俺は、途方に暮れた。
力にもなれないのに安易に人に同情するもんじゃない。
中退連中はすでに知っていたんだ。
ああ、これがハエ取りリボンの思い出に繋がるのは、
また、明日!