
俺は辟易したね。
だから、もう無視するしかない。
そうすると国やん、切なそうな顔するんだ。
図体はでかいのに、おびえた小動物みたいな目で人を見るんだ。
なんか、自分が嫌になるね。
それでも無視しないと、
どこもまでつきまとわれるか知れないから・・・
みんな、そんな、自分が惨めになるような
自分がやな奴になるのが嫌で
国やんにそういう態度とっていたんだろうな。
そんなある日、工場の食堂で起きた事件。
事件てほどのことでもないが、
工場では昼食は給食センターから弁当を届けてもらう。
センターからの弁当を希望する従業員は、
朝のうちに名刺くらいの大きさのボール紙に書かれた各自の名前の札を
「給食希望」とかかれた箱に入れるんだ。
そして、昼にはテーブルに並べられた弁当の上にその名札が置いてあると言う仕組み。
その名札、国やんの弁当の上に置かれた名札に
国やんの名字の下に赤いマジックで
「国○のです。すてないでください」と書かれていた。
高一中退連中の仕業に決まっている。
工場の連中もそれを見て実に明るく楽しそうに笑っている。
工場のおっさんが「国やんおこったろか」と中退連中みて「こら!」
と言うも力がない。笑っているから。
いや、実際おかしかった。俺も思わず笑った。
国やん、その札をぼんやり見つめて、笑っている俺を見ながら
大事そうに返却用の箱に入れた。
国やん、俺の仕業と思ったかな・・・でも、まあいいや、俺はもうこの工場の人間だ。
勝手な思いこみだが国やんは工場のマスコットなんだ。
・・・とにかく俺は、
その事件のおかげで国やんから解放された。
しばらくは国やん、
いたずら書きされた「すてないでください」の札を使っていた。
事務の人も気づいたら取り替えてやればいいものを・・・
この、「○○のです。捨てないでください。」のフレーズは、
たいよーぞくのいわさきくんと同じ職場で働いていたとき、
いわさきくんのマグカップやら持ち物に書き込んでさしあげて、
いわさきくんが情けない、いやーな顔するのを楽しんだ。
それからしばらくして、まず二人いた高一中退組の女の子がやめていった。
そりゃ、工場で油まみれより、
若さとかわいさで稼いだ方がどんだけ儲かるか。
身近の何の力もない16、7の少年より、
金ぴかのぶれすれっどや
ねっくれすの兄貴の方が頼もしく見えるだろうし。
彼女たちは、ユーミンと中島みゆきのレコードを頭の中で回していた。
いもずるしきに、というか、何というか、残った中退少年達も
暗い顔して、やめていった。
少年達は何のレコードを回していただろう・・・
俺も、汗流して働くのが性に合わないのでやめた。
俺は、泉谷しげる。
で、工場のバイトをやめて、半年くらいたった頃、
駅前で国やんに会ったんだ。
国やん、デビューしていた!
この続きは明日!