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ハエ取りリボン-国やんのこと・その3

国やんの姿に驚いた。

俺は、なけなしの金を握りしめ、駅前の商店街にある
中華料理屋で晩飯を食おうと歩いていたところだ。

18時頃だったか、
工業団地から帰ってきた人たちで駅前は混雑していた。

その中に、一目でわかる、ずんぐり大柄の、のそのそ歩きの人物。
国やんに違いない!
俺は、反射的に無視した。

なぜなら、国やんは、子供が絵に描いたようなちんぴらの衣装で、
その・・・秋口だったから、ラメ入りのキラキラ光る真紫のカーディガンに
やけに安っぽく光る玉虫色のズボンに、
これまたやけにピカピカのどでかいバックルのベルトに
てかてかのニセえなめるのお靴で・・・
そして、日も暮れて暗いのに真っ黒のサングラスをしていたから・・・

国やん、いい年して、デビューしちゃった・・・
過去の自分を吹っ切ったんだ。
すごいぞ国やん! とココロでつぶやきつつ俺は無視して通り過ぎようとした。

しかし、無視する俺の行方を国やんは塞ぎ、
サングラスをずらしてしょぼしょぼの目で俺を見ながら
やけにはっきりと、自信に満ちた声で、

「どっかでみたな。」と言った。

俺は、「へ?」と、とぼけたが、驚いた。
国やんから意味の通じる言葉を初めて聞いたからだ。

国やんは、「工場ではたらいとったやろ」
俺は、「ああ・・・」

「おぼえとるか?」「ええ、まあ」「ひさしぶりやの」
「はあ」「ちょっとめしでもいけへんか」
「え、でも・・・」

「おごったるわ」

と、俺の行こうとしていた中華料理屋を指す。

ここで俺に芝居屋としての根性があれば、
人生の奥の奥にある何かをつかめたかも知れないのだが、
俺は、根性なしなので、逃げた。

俺「いや、あの、残念ですけど、人と約束しているもので」
国やん「そうか、ちょっとだけでもええやろ」
俺「いや、時間が・・・また、お会いしたときに是非・・・」
国やん「そうか、そしたらまた。げんきでやれや」

そういって国やんは馬車別当のようにニヤニヤしながら
いっちょまえのちんぴらの兄貴みたいに、手をシュッと挙げて
ちょっと寂しそうにきびすを返し、改札の奥に消えた。

その、手をシュッが、全然、様になっていないんだが、
精一杯の精一杯の彼の演技なんだ。今度は俺は・・・笑えなかった。
国やんは何を演じたかったんだろう。

    演技とは、他人になった自分の物まね修行だと
    師匠に習ったっけ・・・

察しはつく。
駅の近所に、クミのご関係の方々が集うスナックがあり、
そこで国やん拾われたに違いない。

あんなファッションするなんて、そうとしか考えられない。
パシリでもなく、カモでもなく、
舎弟になれるほどの頭脳もなく・・・きっとお戯れで拾われて・・・
工場でなく、今度は、
その筋のご関係の方々のマスコットになったんだと思う。

そのおかげで、国やん、何の自信をつけたか、
喋れるようになっているし、おどおどしていないし、
でも国やん、良かったねとは言えないのよ。
どうせすぐ、関係の方々のサンドバックか、小指の代わりにさせられるんだろうから。
   
   ここの関係の方に、親切な右側の方がいらっしゃって、
   その方から人づてにいただいた「○室大百科」という非売品の本。
   これが、実に、
   やんごとなき方々のことを、知らないことをたくさん知ることができるいい本でした。

でも、国やんは国やんで、新しくなろうと決心して何かを乗り越えたんだ。
中退連中だって、奴らは奴らなりに・・・

とか、感傷的になりながら、
国やんが俺を誘った中華料理屋へ入った。
そこでも、天井から蝿取りリボンが揺れていたっけ。
蝿取りリボンに捕まったばかりの
ぶりぶり羽をふるわせている蝿眺めながら、
俺も、いつまでもこんなことしてちゃいかんな、とチャーハン食べた。

ところが、何も働いていない俺は、師走を迎えていよいよ金が無く、
その工場に戻っていた。
臨時で働かしてくれるのは顔なじみのそこしかなかったからだ。

国やんも、中退連中も、それぞれ行動を起こし抜け出した工場へ・・・
きっと世間から見たら鼻で笑われるであろう志もって、
それでも世間に向かって七転八倒しながら決心して
その志にすがって、そうして抜け出した工場に・・・俺は戻った。

工場ではほとんど見知った顔はなかった。
不倫の主任も居なかった
以前、昼休みに、
中退連中といっしょに鬼ごっこして遊んだ正社員の兄貴が主任になっていて、
まじめに俺に指図した。
・・・国やんも、中退連中の消息もわからなかった。

ちょうど世間はバブルで、華やかで・・・
俺は、双六の振り出しに戻ったような、なんだか惨めな気持ちで、
きゅいーんと、
なぜか怒りながら、ねじを締めていた。

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おっさんが、足をぴょこたんぴょこたん引きずりながら
コップに水を入れに来てくれた。

・・・半ちゃんラーメンは食べきれなかった。

猫がこっちを覗き込んでいる。
・・・どうやって生きていったらいいのかにゃーぁ・・・だと!?
   
                           おわり