「小さい子どもがいるから、
離婚するんですよ。」
長い間 つい最近まで
そう思い込んでいたためか
「同じ境遇にある女性」への
「同情心」は薄かった。
そのことには、「当時」から気がついていて、エピソードの一つは以下である。
意外に思う人もいるかもしれないが、
長男が「お母さんの傘は?」と言った。
「風が強いから、傘は使わないの。
今日はね、台風だからお母さんもレインコートを着てきたの。」と取り繕った。
自らの準備性と
ただの出任せなのに、それらしく聞こえる名アドリブについて
胸中、自画自賛
何気なくさりげない
身に余るお心遣いに対し
心からの感謝を、 なぜあのとき
伝えられなかったのだろう。
今思えば
あのおじさんが
交差点を渡り戻っていったのは
役所の職員だったから、だと思うのだ。
交差点を渡る間
小柄な私の目の端に映っていたのは

その出来事の数十分前
ようやく歩けるりくの手をとり、
ときに抱き上げ
ある窓口から、別の窓口へといくつも渡り歩いていた私が
「次は、西側のエレベーターでX階にあがり、左手ほにゃらんにあるY番の云々窓口です」
そういう説明を受けて差し出された案内図を片手に、立ち去ろうとしたときに
カウンターの向こう側から
中年男性がやってきて
「こっちだよ」「行こうか?」と
りくの手を取り
並んで歩き始め
X階のY番窓口まで付き添ってくれた。


「あれなぁ。。。
なんか、電話をくれたから
すごいことしたみたいな話になってるけど。」
「それは、
誰も見てなかったからだよ。」
「ほんとうは俺は、
そのおばあちゃんの
荷物を持って
いつも通りに
階段を降りただけなんだ。。。」
そう言う、
高校生だったりくの話を
年末年始に帰省していた長男に
私はまた凝りもせず繰り返した。
そして
「りくはね、小さいときに
図書館の帰りに知らないおじさんに本を持ってもらったことがあったから」
「そういうことを覚えていて
おばあちゃんに声をかけたんじゃないかと思うんだ」
すると
食事の後、席を立つと同時に
食器洗いを始める長男が
いつもどおりの水音を
BGMにして話しだした。

「知らない人に対する
親切って
そういうもんやろ。
する側にとっては、たいしたことないねんて。
それが、たまたま
される側にとって助けになったときに
親切になるってことやろ?」
「そういうもんやろ」
そういうもんか。
なるほどね。
と思ってから2週間。
長男と入れ代わりのように
大学の学期末試験を終えたりくが
帰ってきた。
いつもどおりに、いつもの駅の
その階段を降りてきて
後部座席のドアを開けながら
「寒いねぇ。こっちは」
と言った。
暖冬とはいえ
夜はマイナス気温
「向こうは日中
20℃近くなることもあったから
まだ、冬だってこと忘れてた。
スニーカー、履いてきちゃった。」
時が経つのは早い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やっと歩き始めたばかりだったりくは
23歳になって
お母さんの傘のかわりに
もっと大きなおじさんのコウモリ傘に守られた長男は
25歳になった。
🎶 ♪ 🎶 ♪ 🎶
暴風雨のなか
「交差点の向こう側にある庁舎へ」
とのご案内に従った私達が
どうやって、移動するのか。
りくの手をひいたおじさんとは
別のおじさんもまた
気にかけてくれていたのかもしれない、ということに
気がついたのは、
先日のことである。





