何回戦目だったのだろうか。


控え席に戻ってきて
試合を終えてくつろぐチームメイトに、りくが声をかけた。


「次の試合のラインズマン、できる?」


ちょうど4人で談笑しているところに駆け寄るあたりが、りくの頭の良さか鈍さか。

「だいじょうぶだよ」
「やるよ」
「できるよ」

3人が口々に答えるなかで
1人だけ、顔をあげることもないまま 

一瞬たりともりくの目を見返すこともなく、首を横にふったチームメイトがいた。

 
りくは




とは言わず




へ?




ともならず









こういう顔をして
いなくなった。



りくの後ろ姿を見送ってから
3人のうちの1人が、口を開いた。


「どうして?」

すると


「ちょうしこくから
嫌なんだよね」と答えた。

4人は、何事もなかったかのように
試合観戦を再開した。


私は、しばらくたってから

次の試合の準備のために戻ってきたりくに、偶然を装って近づいてみた。

すると

「つぎはX番コートで、Z時くらいから」
と教えてくれたので

「ラインズマンは、誰かにやってもらうの?」と、すっとぼけて聞いたら

先程の3人と
あと1人、別の男子の名前をサラッと言って

なにごともなかったかのように
去っていった。

りくにとって、
最初から何事でもなかったのか、
それとも

もうひとりを見つけて

何事でもなくしたのか。

わからないままに、次の試合が
はじまったが


私は、ある回戦以上になると
こういうことが起こり得るのだということがわかった。


勝ち進む途中のどこかに
「あり得ない勝利」に近いものが混じり、さまざま人たちのさまざまな感情が交差する。


「隣中の上杉くんに勝つなんて。。。
大したものだよ」

隣で観戦していたインストラクターが、
驚きと興奮にまみれながら
私に笑顔を向けたとき

正直に言えば私も「こういうことってあるんだ。。。」と思った。



3セットめに入った頃には、すでに言いしれぬ空気感があって

りくの勝利に沸き立った同中の観覧席に、隣中の生徒が数名紛れ込んできて

「いまのだれ!」
「あの人だれ!」

と、同中のエース級男子に詰め寄っていたのを見た。

家が近所で、幼い頃からりくと仲良くしていたイケメンエース級男子は「○△りく」とその女子生徒たちに答えて、すっとその場を離れた。

「うるせぇ女」
普段はとても穏やかな彼の背中に、そう書いてあるように見えたのは、私の気のせいだったのかどうか。

五分五分のところだろう。



それから また
時が流れて高校入試


 


 

高校に合格したとき 15歳 

不合格だった友達がいた。

夕方まで、みんなで一緒にバスケを➰🏀したのだそうだ。

「バスケの話をずっとしていた。」とりくが言った。

不合格だった子は
バスケ🏀が得意な子

受かった高校のバスケ部で頑張るんだと言っていたと。


この年の高校入試で、同中から第一志望の第一コースに受かったのは、

りくと、りくの一番仲良しの男の子との2人だけ。  


と、過去記事に書いたことがある。


このもうひとり
一緒に合格した男の子が
このときのエース、しょうくんである。


 

「良かったね。

しょうくんと一緒で。」と何気なく言ったら


「うん」と言わなかった。


 みんなが、第一志望に入れたら良かった。

でも、みんな
俺におめでとうって言ってくれた。
女子も。


泣かないで、俺のところに来てくれて。


おめでとうって言ってくれた。
また一緒に頑張ろうねって。




高校合格発表の日のトピックスは

りくにとっては、


自分が受かったということや

1番仲良しの子と一緒のコースだった

ということではなかった




俺の友達はみんな強くて

おめでとう。頑張ろう。って

言い合えた素敵な仲間だ   



 ということだったのだ。