長男が大学に進学した後、まもなく私は、その焼き鳥屋さんを訪れた。
カウンター向こう側にいる店主らしき男性が、手を休めたのを見計らって、
「私の息子が、以前にとってもお世話になったんです。」
「〇〇高校の学校祭で…」と言いかけたら、
「〇△くん!
〇△くんのお母さんですか??」
と、満面の笑顔を返してくれて
「よーく覚えていますよ!今、どうしているんですか?もう大学生?
○△だいがく???
そうですかぁ。がんばりましたねぇ!!
「だけど、遠いなぁ~。
帰省したら、またおっちゃんのとこに来て!って、伝えて!ぜひ!ね」
興奮ぎみに、そう答えてくれた。
その後、まもなくして
世の中は、コロナ禍となった。
テイクアウトを待つ間、古い作りの狭い店舗で、マスクなしで奮闘している「おっちゃん」に、話しかけるのも憚られ
近いうちに、今度こそは長男と一緒に来よう。
そう思いながら、時が過ぎ
次男りくの受験が終わっても
長男の帰省とのタイミングを逃したまま
また、私は、一人で店に来た。
もう夕方なのに、
炭火焼きの香りが漂っていないことを不自然に思いながら、引き戸に手をかけたら、開かなかった。
たしかに、暖簾が出ていなくて
「今日は、休みなんだ。」
そう思い
その後も、足を運んでみたけれど、その日も休みで
また、その後も、休みだった。
引き戸が開かなくなってから
「閉店」と黒マジックで書かれた紙が貼られるまで、ひと月以上は、たっていたように思う。
年始に、家族にお年玉を渡した長男が
「焼き鳥屋にも
行かなくちゃ!」
と言ったとき
「閉店したんだよ。」
そう伝えたか、伝えなかったか
よく覚えていないのだけれど
「あの店で、おっちゃんと会える機会はもうないのだろう。」とは、思っていた。
それでも、おっちゃんは
地元の人だと聞いていたから
なにかの機会に、ぜひどこかで。
そんな期待もあって
行きつけのカフェレストランに、私は
ひさしぶりに顔をだした。
地域の飲食店経営者同士のつながりが、あるのではないかと思ったからである。