あれから数年


高校生アルバイターの多くは、進学や就職によって、弘田さんのお店から卒業したけれど


地元の専門学校や大学に進学した人のなかには、受験が終って以降、また弘田さんのもとでアルバイトを再開する人もいたし


長期休みの帰省のときに、数週間の即戦力になる人もいた。


振り返れば弘田さんのお店は

私達にとって、なんだかんだと


居心地のいい場所

だったのではないかと思う。



私達が、20歳になり飲み会をすることになったとき、弘田さんがお店を紹介してくれたのだったか…。


なにかの集まりに

私達が乱入したあとの

二次会だったのか…。



とにかく、その日 私たちは


弘田さんとAくんと、その他数名で、弘田さんの行きつけのカクテルバーにいた。


悪酔いしそうな飲み方をしながら、

元高校生たちは、「あのときのAくんの態度」を酒の肴に、大笑いしながら


悪ノリが悪ノリを呼んで


その場にはいない

弘田さんの奥さんを

話題の中心にし始めた。


ブラック・ユーモアの範囲かどうか。


それは、聞く人によって判断の分かれるところとは思うけれど


活気があって

個性が強く

声が大きく


気分屋さんなところもあって、ときに

口調が厳しいというより、激しいこともある。


弘田さんの奥さんとのなんらかを理由に

バイトを辞めた人は、A君のほかにもいた。



そんな奥さんのことが、話のネタにされることは、これまでもあったのかもしれない。




そんななかで、

誰かが、こう言った。


「やっぱり、子どものいない女の人ってね。」



「婦人科の手術をしているから、産めないんでしょ?」



弘田さんに向かって

言ったわけではなかったとは思うが、


聞こえているんじゃないか。




ドキドキしながら、私が

少し離れたところのカウンターで


カクテルバーのマスターと談笑する

弘田さんを盗み見たら


目があった。