セピア色の回想シーン (聖し血の夜、72年) | 裏窓のブログ

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12月に入り気温も冬の寒さになって来た、また今年もクリスマスがやって来る!


そいつに先駆けて今回はこの1本、1972年のアメリカ映画、セオドア・ガーシュニー監督作品


  ー 聖し血の夜 ー


原題は(Silent Night・BloodyNight)、1950年マサチューセッツ州の小さな田舎町を舞台にクリスマス・イブに焼死した富豪の屋敷を中心に始まる惨劇を描いている


オリジナルマスターの劣化のためか画質状態があまり良くないが、これが逆に作品の雰囲気を際立たせていて、さらにマイナーコードで不協和音ぽくアレンジされた(きよしこの夜)の旋律やヒロインによるオープニングとエンディングのナレーションぽい淡々とした独白が雰囲気を出している


スプラッター的な描写はなく、どちらかと言うとゴシック・ホラー、引き起こされる殺人には一つの理由があり、最後にその謎を解くサスペンス・ミステリー仕立て


ストーリーは


1950年のクリスマス・イヴ、マサチューセッツ州の田舎町イーストウィラードの郊外にある豪邸で裕福な初老の資産家ウィルフレッド・バトラー(フィリップ・バーンズ)が火だるまになって焼死する、警察はろくに調査もせず事故死と断定、バトラーは黒い噂の絶えない人物ゆえ、葬儀には僅かな友人しか集まらなかった、彼の一人娘メアリアンは若くして他界していたため、残された邸宅(バトラー邸)は都会へ出ていった10代の孫息子ジェフリーが相続することに……

それ以来、バトラー邸は長いこと空き家となり、地元の人々も忌み嫌って滅多に近づくことはなかった。


時は移って1970年のクリスマス・イヴ、都会から弁護士のジョン・カーター(パトリック・オニール)と愛人イングリッド(アストレッド・ヒーレン)がイーストウィラードへやって来る、カーター弁護士はジェフリーの代理人として忌まわしい記憶の残るバトラー邸の売却を任されていた、早速町役場に集まったアダムス町長(ウォルター・エイベル)、保安官メイソン(ウォルター・クレイヴァン)、地方紙経営者トウマン(ジョン・キャラダイン)、そして故・バトラーの娘メアリアンと親しかった電話交換手テス(フラン・スティーヴンス)らは5万ドルという破格値で町が屋敷を買い取って処分することを決める


ジェフリー自身が現金での売却を希望していたことからアダムス町長が5万ドルを準備するまでカーター弁護士は待つことに、そのため彼はイングリッドと2人でバトラー邸に宿泊する、そして時を同じくして町の精神病院から凶暴性のある患者が逃走した! というニュースも……


その夜、バトラー邸で食事をとり、くつろいでいたカーターとイングリッドは黒革の手袋をはめた何者かによって斧で惨殺される、イングリッドの死体に十字架を握らせた殺人鬼は邸から保安官メイソンに電話をかけてバトラー邸へ来るよう呼び出し、さらに電話交換手テスに自らをメアリアン(死んだバトラーの娘)だと名乗る、囁くように喋る不可解な電話を受けてひとまずバトラー邸を確認することにした保安官、不気味な電話の主の発言に衝撃を受けたテスも保安官の後を追ってバトラー邸へ向かう!


…… この序盤の展開、革手袋をはめた殺人鬼の手元だけしか映らないところや、電話口で囁き声で喋る(女言葉を使い)話し方が不気味さを増している、精神病院から逃げた患者も革手袋をしているカットもあり、犯人との関連性をうかがわせるが ……


同じ日の夜、ひとりの男性がバトラー邸を訪れる、邸の所有者ジェフリー・バトラー(ジェームズ・パターソン)だった、屋敷に人の気配もなく鍵がかかっていたことから外に停めてあったカーターの車を使い(キーはついたままだった)アダムス町長の家へ向かう、現金調達のため銀行へ出かけていて町長は留守だったが娘のダイアン(メアリー・ウォロノフ)が家にいて訪れたジェフリーにバトラー邸の所有者を名乗るメアリアンという女性から町長宛に電話があったことを告げる、不可解に思った二人はとりあえず保安官事務所へ向かうことに…


一方、邸へ向かっていた保安官メイソンは、途中でウィルフレッド・バトラーの墓が荒らされていることに気づき車を降りて調べているところを背後から忍び寄った革手袋の何者かに殺される!


さらに後から邸へ到着したテスも犠牲となる、その頃、トウマンの新聞社オフィスを訪れたダイアンとジェフリーはバトラー家に恐ろしい秘密が隠されていると知る、バトラー邸に急ぐ二人は途中で保安官の車が炎上しているのを見つけるが保安官の姿はなかった!


……この中盤あたりの展開だが、ほぼ舞台がバトラー邸と各人の家の行き来なため本来のクリスマスイヴという設定があまり感じられない、きらびやかに飾られた街の装飾シーンとかも一切なく、加えて夜を中心に展開しているため全体的に映像は暗め! しいてあげれば町長の家でダイアンが過ごしているシーンのみ飾られたクリスマスツリーがあり戸口にも装飾を見ることができる程度、クリスマスホラーというよりは夜に引き起こされるサスペンスミステリー的な印象 ……


限られた舞台や少ない登場人物は低予算映画の感を拭えないが、この時代のスリラーとしては同じクリスマスイヴを舞台にした作品(暗闇にベルが鳴る、75年)を先駆けている、殺人鬼が常に黒革の手袋をはめていたり殺人のシーンでは犯人の手元だけしか映らないカメラワーク、電話口の囁くような語り口などがかなり効果的に描かれている


さて、ネタバレの後半だが過去のバトラー邸にまつわる惨劇は主のウィルフレッド・バトラーの一人娘メアリアンがある日強姦にあい妊娠、彼女は15歳で息子ジェフリーを出産するものの精神を病んだため父親のバトラーは医者のロビンソン博士に依頼して町中の精神障害者と一緒に一人娘の治療に当たらせ屋敷を診療所として開放する


だが欲深いロビンソン博士は酒と快楽にふける一方で患者たちの治療はそっちのけ、これに業を煮やしたバトラーは拘束された患者たちを開放する、自由を得た患者の集団は邸へ入り込み、酔い潰れている博士の一行を惨殺! だが、この騒動でバトラーの娘メアリアンも死んでしまう…… 

そして患者達は何処へともなく去って行く… このフラッシュバックシーンがサイレント映画のようなセピア色の粗いモノクロームで描かれている


そしてクライマックスはバトラー邸へ辿り着いたジェフリーとダイアン、そこに置かれた父・ウィルフレッドの日記を見つけたジェフリーはすべての事実を知る! 

屋敷へ入ったダイアンに日記を読み終わったジェフリーが ー 祖父はまだ生きている! 屋敷も彼のものだ! ー と言い放ち銃を手にする、そこへ同じく銃を持ち駆け込んできたダイアンの父・アダムス町長と撃ち合い双方共に相撃ちで絶命してしまう、叫ぶダイアンに階段から降りてきた不気味なオトコが声をかける…… 死んだはず(というより死んだと思われていた)のウィルフレッド・バトラーだった!


取り乱したダイアンは彼を射殺! 事件はダイアンたけが生き残り幕を閉じる…


この結末だが冒頭で焼死した男はバトラーではなく付き添いの男で、この死亡事件を町中がバトラー本人と信じたくて封印してしまった! というオチ、さらに町長、保安官、トウマン、テスなど町の有力者はすべて以前バトラー邸に収容されていた患者! さらにオープニングで精神病院から脱走した男がバトラー本人、このあたり作品の中でははっきりした描写はないものの結果的にはこういう解釈になる、それにしてもかなり強引なシチュエーションだ、要するに元・患者の町の人々にたいする復讐劇!


クレジット上の主演はカーター弁護士役で(クレムリン・レター、69年)(追憶、73年)などの作品で知られるパトリック・オニールとなっているが序盤であっさり殺されてしまうのでメインとは言い難い(苦笑)、どちらかというとヒロインであるダイアン役のメアリー・ウォロノフとジェフリー・バトラー役のジェームズ・パターソンがメインになると思うが、これはこの時点での知名度の問題か?


ホラー映画の名優であるジョン・キャラダインを除くとあまり日本ではあまり知られていないキャスティングかも知れない、ヒロインを演じたメアリー・ウォロノフはこの作品の前後をきっかけに本作品の監督、セオドア・ガーシュニーと結婚している(後に離婚)、実質的な主人公ジェフリーを演じたジェームズ・パターソンはブロードウェイ俳優として活躍していた人だが残念ながらこの作品を最後に癌のため亡くなっている、これが遺作となってしまった。


マイナーなカルト作品として語られる本作だが、これはこれで今の時期に観るにはうってつけの1本です!