法人税法では、法人が役員に支給する報酬・給与について、法令に定める方法以外の方法で支給した場合は、損金(経費)とは認めないという規定を置いています。これは、もし給与の金額を自由に変更することができるようにすれば、利益が出たから給与を高くして法人の利益を少なくしようとか利益が出ていないから少し給与を安くして利益を出すようにしようなど、いわゆる利益調整に役員給与を使われることを規制する意味があります。

役員給与の3つの支給方法のうち、事前確定届出給与について書きたいと思います。


事前確定届出給与とは??

事前確定届出給与とは、法人税法34条に規定されるもので、役員の職務につき所定の次期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、所轄税務署長に届け出た給与のことです。

つまり、事前に税務署の方に、いくら給与を支払ますという報告をして、その金額を支払った場合に、支払った金額を経費として認める方法です。


事前の届出を下回る金額を支給した場合はどうなる??

事前確定届出給与についての判決として、東京地裁平成24年10月9日判決があります。

【事案の概要】

平成20年に事前に届出を行い、平成20年12月と平成21年7月にそれぞれ700万円ずつ支給すると記載していた。

平成20年12月には届出書の記載通り700万円を支給したが、平成21年7月には業績悪化により、350万円が支給され、変更届を行わなかった。

【納税者の主張】

平成21年7月の350万円は、事前確定届出給与には該当しないが、平成20年12月支給した700万円は、事前確定届出給与に該当する

【課税庁の主張】

届出どおりの支給が行われたかどうかの判定は、個々の支給ごとではなく、職務執行期間

を1つの単位として判定すべきで、平成21年7月支給の350万円だけでなく、平成2

0年12月支給の700万円も事前確定届出給与に該当しない。

【裁判所の判断】

・役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めに係る確定額を下回ってされ

 た場合であっても、当該役員給与の支給は、所轄税務署長に届出がされた事前の定めの

 とおりにされたということができない

・当該職務執行期間に係る当初事業年度または翌事業年度における支給中に1回でも事前

 の定めのとおりにされたものではないものがあるときには、当該役員給与の支給は全体

として事前の定めのとおりにされなかったことになる。


簡単に言うと、事前に届出した給与を下回る場合であっても、事前確定届出給与には該当しないと判断され、また複数回支給する場合で、複数回いずれも事前の届出通りの支給でなければ、経費(損金)とは認めないですよという話になっています。


本件のケ-スでは、確かに事前の届出を下回って支給した場合が、事前確定届出給与に該当するのであれば、事前の届出金額を高く出せば、利益の調整ができることになり、制度の趣旨から考えても認められないと思いますし、同じ理由として、複数回支給する場合で、それぞれ支給ごとに、事前の届出通り支給されているか否かで判断すれば、事前の届出を複数回にしておけば、支給するか否かを法人で判断できることになり、制度の趣旨には合わないと思います。