個人が確定申告を行う場合には、様々な理由により申告が必要な場合があります。例えば給与所得者であれば、年末調整により、確定申告は原則として不要となりますが、今年は医療費がたくさんかかったから、医療費控除を受けるために、確定申告をするとか住宅を購入したので、住宅取得控除の適用を受けるために、確定申告をするなどです。

給与所得者ではなく、個人で事業を行っている場合は、年末調整ではなく、確定申告を行います。その際に、収入から経費を差し引いて所得を計算します。

したがって、難しい言葉で書くと、納税者が第一次的に必要経費性を判断し、その適否を第二次的に租税行政庁が判断することになります。

簡単にいうと、まず納税者の方で経費かどうかを判断し、その判断に従って税務署が適当かどうかを判断し、場合によって税務調査等により、修正もしくは更正等を行うという流れになります。

したがって経費になるかならないか??という点が事業所得を計算する上で重要な要素となります。

表題の判決(大阪高裁平成10年1月30日判決)は、事業所得ではないですが、必要経費の意義について判断した判決となっています。ポイントとなるのは、贈与により取得した不動産により不動産賃貸業収入があった場合にその贈与の際に支払う登録免許税等は必要経費となるのか??という点です。結論から言うと、必要経費となります。

【 事実 】

原告は、父親が不動産賃貸業の用に供していた土地の一部を贈与により取得するとともに、不動産賃貸業を開業した。原告は当該土地について贈与を基因とする所有権移転登記を行い、当該所有権移転登記にかかる登録免許税を納付した。

そこで確定申告にあたり、本件登録免許税を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した。

【 本件の争点 】

父親が所有していた不動産賃貸の用に供していた土地の一部を贈与により取得し、従来の賃貸借契約をそのまま維持して、原告が不動産賃貸の用に供していた場合に、本件土地の取得に係る登録免許税及び不動産取得税が原告の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か

【 納税者の主張 】

本件贈与の目的は、

原告の意図する不動産賃貸を行うこと

父親は大学の名誉教授であったことから、賃借人とのトラブル等により父親が非難を受けるのを避け、父親の名誉を守るため

等の主張。

【 課税庁の主張 】

本件の登録免許税は贈与取得という家事上の行為に伴う家事上の費用というべきで、不動産所得とは直接の関連性は認められないとして、必要経費算入を否認し、更正処分を行った。

【 裁判所の判断 】

所得税法においては、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上直接必要な費用でなければならない。

贈与は、財産の移転自体を目的とする無償行為であるから、贈与によって資産を取得する行為そのものは、所得を得るための収益活動とみることはできないというべきである。

本件土地の贈与を受けたことが、不動産賃貸事業の用に供する目的であり、その後同事業の用に供されたからといって、贈与によって本件土地を取得した行為そのものの性格に変化はなく、収益活動となるものということはできない

したがって、本件贈与は、家事に関して行われたものであり、このことは、本件土地が不動産賃貸の用に供されていたとしても何ら異ならない。

本件は上の流れで判断されています。

つまり「贈与」という行為によって不動産取得税や不動産登録免許税が発生している。贈与という行為は、事業ではなく家事上の行為である。したがって、その贈与により事業を開始したとしても、贈与は家事上の行為であり、それに付随して発生する費用は、必要経費とはならないと判断しています。

先に書いたように、現在では、必要経費であるとされています。これは、平成17年2月1日判決のゴルフ会員権贈与事件を受けて、改正が行われたためです。その内容についてもまた後日書きたいと思います。

よく読むとこの判決とは違う争点で必要経費であると解釈されています。