最近かりたDVDです。

キャタピラー [DVD]/寺島しのぶ,大西信満,吉澤健
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ベルリンでも高く評価されたものの日本では一部でしか上映されていない作品。

若松監督はもうすぐ三島由紀夫の映画も公開されるのでちょっと気になり借りてみました。

モチーフは江戸川乱歩の「芋虫」

芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2 (角川ホラー文庫)/江戸川 乱歩
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著作権云々の問題で原作とされていないのですが、めっちゃこれがモチーフ。なので私個人としては「芋虫」の映像化を観る気でいました。


ストーリーは日中戦争で四肢を失い、顔に火傷を負い、聞くことも、しゃべることもできなくなった夫が帰ってきた。村人はそんな彼を「軍神」と奉る。献身的に夫の世話をする妻。しかし、夫は日に日に戦地での光景に支配されてゆき、妻も徐々に狂気を見せ始める・・・・。


衝撃的な反戦映画


との謡い文句さながら、胴体だけになり、頭がケロイド状態になった男の姿に当初ゾッとさせられる。

そんな状態である男を村全体が「軍神」として奉ることに戦時中の異常さに、なるほど、いい材料だと思った。

こんな姿になって尚、食欲、性欲、権力に旺盛な男の虚しさをこれまでかというほど繰り返し流れ、そこでしたたかに己の欲を満たす妻の複雑な夫婦関係がなんとも巧妙である。

献身的な妻を演じつつも、村人の賞賛を得るのは徐々に妻となり、今まで虐げられていた思いをぶつけ始める。

寺島しのぶの体当たり演技にも、大西信満渾身の演技も非常によく、場にのめり込んでしまう。

しかしながら、多くのメッセージを残そうとしたのか映画としては残念な作品だと感じました。

結構酷評になってしまうのですが、ちぐはぐだ。


日中戦争から終戦まで、戦況を知らせるラジオが字幕付きで流れるのはいい作だと思った。

夫婦関係中心のストーリからきな臭くなってゆくラジオの内容に戦時中であることを呼び起こされる。

しかし、終盤にかけての「これは反戦映画なんです」感がまずい。

たたみこむようにして最も重要な最期の夫婦を描写し、戦争の記録映像や死者数を流し、極めつけは元ちとせの「死んだ女の子」でエンドロール。

いきなりミクロからマクロへ意識を広げさせ、戦争って怖いですね、愚かですねー。っていい聞かされている感がして不快になる。

映画は2時間という短い尺の中でどれだけ観るものの心を奪えるかというのが重要になってくるが、この強引さはまるでレポートの締め切りでやっつけ仕事でまとめましたといわんばかりだ。

特に元ちとせの「死んだ女の子」は原爆で死んでしまった女の子が平和な世の中を訴える歌で、「キャタビラー」の舞台とは何ら関係がない。

南京大虐殺・特攻隊・原爆・・・・戦争の要素を詰め込みすぎて陳腐になってしまったような気がします。


「芋虫」のいいところが抜けていたのも残念。

江戸川乱歩の発狂的な(笑)作風は実は裏側に非常に人間的な要素が詰め込まれていることが多い。

「芋虫」でも夫に虐待をする妻がふと、夫の純粋な瞳を観て目を潰してしまうというシーンが印象的だが、そこにある無垢なものへの嫉妬心というのはなんとも共感しづらい共感を覚えるひとが多いだろう。そして夫が妻に「ユルス」と書くところも歪んだ夫婦関係の最期の最期に出てきた愛情。ここは読む者を震わせる。


なのに、ただ、発狂して・・・・というのはどうなんだろう?

男と女の落差も納得いかないです。


材料がいいのに個人的には残念でならない作品でした。