➖雅紀side➖



日曜日。


先生が週で唯一、診療のないこの日をあえて選び

先日購入した車が納車された



中古といえど見た目は新車

洗車され中も外もピカピカに輝いている



オレは少しだけ胸を弾ませながら

助手席に周り、ドアを開いた


「……どうぞ、先生」


『え?はじめての助手席に? 乗っていいの⁈』


「もちろんです!そのために買ったんですから」



先生はちょっと驚いたようにまばたきしたけど

すぐに柔らかな笑みになり


『では、お言葉に甘えて』


ゆっくりと助手席に座ってくれた




『今の軽って、スペースこんなに広いんですね。

シートの座り心地も良いし、窓も大きいから視界も良さそう』


「ふふ。オレも昔の軽のイメージとは違ってビックリです。後ろのシート倒したら、自転車だって余裕に積めちゃうし、大人2人寝ることだってできるみたいなんですよ」


『へぇ〜、そうなんだぁ』



先生の目がキラキラ輝いて見えたのは

オレの欲目かな?




「…じゃあ、近所を少しだけ試運転してみますね」




 

静かな日曜日の午後、

2人を乗せた車は、

新しい日常に向かってゆっくりと滑り出したーー


ように見えた、


が……  



気合い十分で車を発進させたものの、緊張からか、アクセルを踏む足に少し力が入り過ぎて急発進しかけたり、


「っと……あぶなっ、、」


カーブをまがるときに少しだけハンドルを切り損ねそうになったり、


ブレーキの踏む力やタイミングが微妙に違ったりして

車体がカックンと揺れたりして

冷や汗が滲んだ



赤信号で隣を覗くと

助手席の先生は、何事も無かったように涼しい顔で前を向いていた


ただ、その両手はシートベルトの肩紐をこれでもかとばかりにガッチリと握りしめていた




「す、すみません…久しぶりな運転で、、下手くそ過ぎますよね。か、帰りましょう!

おっかないですよね、、こんな運転じゃ」



慌てて謝り、次の角でUターンしよう、

そう思ったら


先生は

『これも試運転の良い思い出ですよ。

相葉さんのペースでもう少しゆっくりドライブ楽しみましょう』

と笑って応えてくれた


せっかくなら、往診ルートを廻ってみませんか?

という先生の提案に乗り

深呼吸してハンドルを切り直す



先生の頭の中には

患者さん一件一件の地図が詳細に記録されていて


『この先の裏通り、道幅が狭いですけど…ほら、

余裕で入れますよ!』


「本当だ、これなら定吉さん家(ち)の玄関前まで行けますね!」



そんじゃそこらのカーナビよりずっと分かりやすい道案内だった



ぐるぐると街を廻りながら、往診ルートを確認してゆく


走れば走るほど、〝車買って本当によかった〟という思いが胸の中に広がっていった



最初は緊張で固まっていたハンドルさばきも、

隣から聞こえてくる先生の楽しげな声や


『ここ、通りやすいね』

『この坂、めちゃくちゃキツかったので、車だと正直助かります。ありがとう、相葉さん』


その言葉に、心がほぐされて、すっかり馴染んでゆく



いつも患者さんのために忙しく働き続けてくれてる人が

今はこうしてオレの隣で景色を眺め、笑ってくれる




そのことが、

先生


たまらなく嬉しかったんです








つづく……