看護師としての経験が浅く、ブランクも長い彼


何か事情があったのかと尋ねてみたところ

返ってきた答えは、想像していたのよりはるかに深刻な内容だった



これ以上、触れてもいいものか躊躇したものの、

それが彼の心の傷となっているのなら、少しでもその傷を癒してあげたい

そう思った





『どうして…そんなことに⁈』



「・・初めて受け持った患者さんが胃潰瘍の手術を受けた女性の患者さんで…

その日はたまたま朝から緊急手術や検査が立て込んでいて、指導者の先輩もそっちの手伝いに駆り出されてしまって…

先輩が戻るまで傷の処置に入るのは待っていたんだけど、何度もナースコールが鳴って

シャワー入りたいから早くして欲しい、って、、、」



『うん』



「それで、防水テープ貼るくらいなら、自分でもできると思って、一人で処置に入っちゃったんです。

それがダメでした、、


次の日、その方の旦那さんが弁護士連れて直接病棟に怒鳴り込んできて…妻がオレにセクハラされたって訴えてる、って…」




『えっ…』



「もちろん、セクハラなんてしてません。でも……」




病棟での騒動は

師長から看護部長

そして当然、院長の耳にも伝わる事態に




倫理委員会にかけられた彼は

そこでも身の潔白を必死に訴えたが

たとえ腹部の簡易的な処置であっても、

閉め切ったカーテン内という密室環境で

男性看護師が女性患者の処置を行ったこと自体が

リスク管理上の問題とみなされ、

軽率な行動だったと判断が下された




裁判沙汰を恐れた病院側は

相手方へ示談という形で慰謝料を支払った


そして

まだ見習い期間だった相葉さんは

看護師としての適性に欠けている、という理由で

解雇されたのだという




確かに彼にも至らない点はあったのかもしれない

けれど…

無実を訴えたのに、看護師失格という烙印を押され、追い出されたら、

そりゃ心が折れて看護の道から離れてしまうのも無理はない




時折、声を震わせ、悔しさを飲み込むように唇を噛み締める姿を見るたびに、胸が締め付けられた


と、同時に

それぼど辛い経験を背負いながらも、

再び、ここで共に働いてくれることに

感謝の気持ちでいっぱいになった





「本当なら、面接の時に正直に話すべきでした。

すみません、、

でも、オレいま、先生や患者さんたちに教えてもらいながら仕事覚えるのが、ほんっとうに楽しくて、、

・・・・

先生?

こんな出来損ないなオレでも

まだここで働かせてもらってもいいですか?」



そう言って

儚げに笑うその姿に、目頭が熱くなり



気づいたら

僕は



『出来損ないなんかじゃありません!

そんな言葉、二度と口にしないと約束して下さい!』



「先生っ…」



『相葉さん!あなたは、

うちの大事な大事なっ、看護師さんなんですから!』




彼のことを


両腕で


強く強く抱き締めていた










つづく……