夢の住人 参
いつもと同じ朝がきた。眠りにつくのが遅かったせいか
少し胃が痙攣していたのを覚えている。
僕は朝食はいつもとらない、今でもそうだ。
いつもの赤い自転車にまたがり、約束の場所へとペダルをこぐ。
なにも変わらない平凡な月曜日。
゛ドキドキしていた。゛
高校までは片道13kmだが、行きは、もう慣れた。
上田橋を渡り、二つ目の道に入ると約束の場所だ。
時刻は7時45分を示していた。
でも、僕の時計はいつも5分早く示している。
正確には7時40分。
20分も前に早く着いてしまったようだ。
緊張のオブラートは僕を包んだまま、解放してくれそうにも無い
小さな石ころを蹴って時間を潰して待った・・・
視線は彼女がいつもくる道を見続けていた。
「キタッ!」
詳しい時間は忘れたが、確実に8時より早い事だけは覚えている。
大方の予想よりはやく、彼女はすぐに僕にきずいた。
「ごめーん、写真いいのなかったから、持ってこなかった」
彼女の第一声は過去1年想いつづけていたイメージとは
うらはらに気さくに話かけてきた。
「あっ、いいですよ、なければないで」
嘘つき・・・
「あのー、おはようございます、突然なことしてすみませんでした」
彼女は首を横にふって答えてくれた。
「いいのよ、きにしないで、じゃ・・・」
と優しい口調で自転車にまたがる彼女。
もう、いってしまうのかという想いが僕の心を揺さぶっていた。
僕に選択権はない。
「ありがとうございました」
彼女は何事もなかったように再び通学路へともどり、学校へと去った。
あっという間の出来事とは、このことであろう。
緊張のオブラートは甘く溶けていた。
それと同時に込み上げるうれしさ。
「やった、やっちまった!」
この出来事を誰かにしゃべりたくて、たまらなかった。
「えええええええ、マジカヨ!」
「う、うん・・・」
すぐに友達に報告した。今までの事をすべて友達にしゃべりまくった。
うれしさを誰かと共有したかった。
その後、彼女には
゛千曲のねーちゃん゛
というあだ名がついた。
幸せの朝は日曜日と祝日以外、ずっと、続いた。
ただ、彼女とおはようございますのあいさつをするためだけに
早起きに専念し、毎日、彼女をまちぶせた。
心地よかった・・すれ違い様にあいさつをするそれだけなのに。
今想えば、゛純粋な白いキャンパス゛とはよくいったものだ。
まさにそれだった。疾しい色も汚れた色もなにも
書かれていないキャンパスそのものだった。
1ヶ月続いていた幸せの朝に、トドメを刺すような出来事が起きた。
また、彼女がバイト先に来たのである。
その日は4番レジだった。すぐに僕はきづいた。
「こんにちわ」 「こんにちわ・・」
お互いに軽くあいさつだけした。
運命をまた、勝手に感じていた・・・・
つづく
今回のテーマ曲